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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
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雲のような人


春の陽気が夏に近づいるのを肌を流れる汗が感じさせる今日この頃…。


玉蘭は澪鮮の部屋で筆の手習いを受けていた。


「うーん…なんか斜めるな~…」


「どんどん身体が曲がっていくからじゃ」


「曲がる?」


「そう。横に身体が曲がれば縦の軸の中央どこか分からなくなるんじゃ。一字書いたら意識して体勢を直してみなさい」


「はい!」


澪鮮の言ったことに素直に頷き、再び集中して筆を滑らせる玉瀾を澪鮮は微笑ましく思った。

玉蘭は決して秀でるものは無いが、姉妹の誰よりも努力を怠らない性格だ。

本人は短所しかない自分を嫌いだと言っていたが、努力をし続ける事が出来るという事は他のどんなものよりも凄い事なのだと澪鮮は常々思っていた。


この日も数百枚の練習された半紙を並べて、玉蘭は自分の成長具合を見返して姉たちに遠く及ばない事に落胆した。


澪鮮の指摘が入ったところを見直してから、礼を言い、部屋に帰った。



「そう言えば、姉上たちが居ないのだけど何処に行ったの?」


手習いで墨がついてしまった衣を着替えながら念珠に尋ねると答え辛そうに念珠は答えた。


「市街に旦那さま方と買い物と仰っていました…」


また翠華の物を買いに行ったのね…私は一言もかけられていないけど…。

澪鮮さまも声をかけられただろうけど私が何も言われていない事を見越して残ってくれたのだろう…。


「父上は姉上にどれだけお金を使えば気がすむの。後宮に上がるのなんてまだ十年以上も先だろうに…」


「全くです!!それに姉姫さま方にお買いになるのなら玉蘭さまのものを買ってくださればいいのに!!最後に旦那さまから贈り物されたのなんて5年以上も前ではありませんか!!」


私が持っている父上からもらった簪はもう5年も前の物でそれも紫瀾が要らないと言ったから、私に回ってきただけのもの。

私宛に何かを新品でくれるのは澪鮮さまだけだ。



「いいのよ。貰っても嬉しくないわ」


さっさとこの家から出ていきたい。

誰でもいいから私をこの家から逃がして欲しい。



昼食を食べ終わり、自室に帰ろうと回廊を歩いている内庭で兵たちが訓練しているのが見えた。

そのなかにはこの前会った黒烏の姿もあった。


顔の傷はもうほとんど目立たなくなっていた。治るのが早いのね。良かった。

それだけ見ると私はまた歩き出そうとしたが目の前からたった今帰って来たのであろう姉上たちがその行く手を阻んだ。



「あら、そう言えばあなた買い物いたかしら?」


「わたくしは…言われていなかったので…」


私がそう答えると姉たちは分かっていたようにクスクスと笑った。


「当たり前ですわ。玉蘭みたいな娘を連れて行けば紹家の評判が落とされてしまいますもの」


「この前も一兵を自室に連れ込んだんですってね?なんて恥ずかしい子なのかしら」


「まあ!奴婢を夜伽の相手にしたの?まだ九つなのに。」


好きなように言わせておけば飽きるだろうと思いながら俯いて時間が過ぎるのを待った。



「本当にお父様の言う通り。要らない子だわ。紹家の害虫のような存在ね」



翠華のが嘲笑うように玉蘭に言ったその時ー………








「失礼ながら私は姫様は“クモ”の様な方だと思います」



日差しの強い内庭に跪いて私を見上げる美麗な青年がいた。


黒烏だ……。

近くで見るとこんなにもかっこいいなんて思わなかったわ。


ん?

今、この人私の事を何て言った?


黒烏の登場になのか彼の美しさになのか分からないが呆気にとられていた姉上たちも黒烏の“クモ“発言に正気に戻り吹き出した。


「蜘蛛?わたくしはあんなに脚は無いわ!」


こ、この男!!なんて失礼なの!!


「蜘蛛なんて正に害虫ではないの。まあでもそっくりね。蜘蛛には回廊の端にしか居場所が無いように、玉蘭にもこの家の居場所は自分の部屋しか無いものね」


何か言い返したいのに何も言い返せ無いのは、それが本当の事だったから。


この家には要らないと言われながら、何処に行くことも許されないそんな身なのだ。



「ち、違います!空にある雲のほうでございます。」


慌てて言い直した黒烏に私も姉たちも彼に視線を戻した。


空の…あの白い…?


「な、何故?」


初めて言われる害を為すもの以外の例え。


私の質問に黒烏は真っ直ぐに射抜くような眼差しを向けた。



「風に導かれ、山の向こう海の先、どこまでも自由に流れ行く雲に似ています」



大きく開かれる眼。


心が揺れる。


気持ちが溢れる。



その時だったのだろうか。

彼に他の者と違う何かを感じたのは…。





「なら、お前がわたくしの風になってくれるか?」


わたくしをどこまでも導く、わたくしという雲に寄り添う風にお前はなってくれる?


気づけばそんなことを口走っていた。



それぐらい目の前の彼に魅了されたんだろう。



私を変えてくれるかもしれないという期待に心が膨らんでいくようだった。



心地よい風が吹き、私と彼を包んだ。



私の言葉に少し驚いた顔をし、真剣な表情の彼は……






「はい。あなただけの風になりましょう」





私の手に口づけをし、恥ずかしそうに笑った。





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