玉蘭と嶺崋
お久しぶりです!
「えっと……鈴妃さん?」
「何ですか?」
灑崋の妹、嶺崋は現在玉蘭の部屋にいた。
「これは何の本なの?ミミズが這ったような文字が沢山書かれているけれど…。」
「ラティガンタの古代文字よ。わたくしも勉強中だからあまり読めないけど、恋愛観について書かれているらしいわ。」
「へぇ~!すご~い!!こういうの読めたら灑崋、褒めてくれるかな~!!」
「……灑崋は勉強好きではないから話が合わなくなるだけだと思うけど…。」
嶺崋が何故玉蘭の部屋にいるかというと、灑崋の部屋には当たり前に彼の侍女がいるため、嶺崋の存在がバレかねない。
その為、諸々の事情を知っている人しかいない玉蘭の部屋に来ることになったのだ。
「鈴妃さんのお家ってレイの家と親戚なんだって!血の繋がりとかあるのかな~?」
「親戚と言ってもかなり遠いから、あったとしても本当に薄いでしょうね。」
「そっか~。レイ、お家にいるときあんまりお友達とかいなかったから、もしもっと近い親戚だったらお正月の挨拶とかで会えたかもね!」
嶺崋はとても灑崋に似ていた。
双子というものを見たことがなかったから、多少部位が似ているだけだと思ったけど、こんなにも見分けがつかないなんて思わなかった。
それに灑崋が散々言っていたからどんな邪々馬かと想像してたけど、まともに話せるし、言うことは聞くし、問題なんて無いように見える。
入り口の扉が開いて、灑崋が現れた。
「お待たせ。ほら、これ着ろよ。そんな汚いの着てたら鈴妃に迷惑かかるだろ。捨てるからこっち寄越せ。」
「き、汚いって…!!これは捨てちゃダメ!!!」
「はぁ!?ふざけんな。黴だって生えてるじゃん。不潔だろうが!」
「だっ!だって……!!これは…。」
着物をなかなか脱がない嶺崋に痺れを切らした灑崋は大きな溜め息を吐いた。
「ほんと……はぁ…お前何がしたいのかわかんねー……。少しは言うこと聞けよな…。」
「…………。」
だんだん灑崋のイライラが伝わって来たので、玉蘭は取り敢えず灑崋から着物を受け取り、部屋から出て貰った。
「……ごめんなさい…鈴妃さん…。」
「わたくしのことは気にしなくていいのよ。取り敢えず、その着物はここに置いておいて、此方に着替えましょ?そんなに薄いの一枚なんて風邪をひくわ。」
「……はい。」
言動からして彼女は灑崋を嫌ってはいないし、反発したいと思っているわけでは無いようだ。
と言うことは、この着物に思い入れがあるということなのだろう。
「とても痩せているわね。」
着物の下は肋骨が浮き出ているし、頬も痩けている。
「自業自得ですから……。灑崋はレイの顔なんて見たくないと思ってたけど、もう一度だけでいいから会いたかったんです…。」
「そんなこと無いわ。とても安心した顔をしていたわ。…わたくしは灑崋からあなたとは不仲だったと聞いていたけど、わたくしが思っていたようなものではなかったのね。」
「思っていたようって…?」
「わたくしと同じでほとんど会話しないような……他人のような関係だと思っていたわ…。」
「レイは灑崋にすごい迷惑かける情けない妹です。灑崋はそういうのにきっとうんざりしていたからそう言ったんだと思います。」
「そっか…。でも、どんなことがあっても心配してくれるのは愛している証拠だわ。」
私がそう言うと嶺崋は悲しそうに眉尻を下げた。
「鈴妃さんは……違うのですか?」
「わたくしは…あまり仲が良くなかったから……。弟とは後宮に来る少し前に分かり合えたのだけど、姉たちとは結局駄目だったわ。」
「……鈴妃さんはレイみたいに我儘だったりとかそんな人には見えないのにどうして…?」
不思議だと言いたげな顔の嶺崋の腰に帯を巻きながらあの頃の事を思い出していた。
「わたくしが彼女たちの母を独占していたからだと思うわ…。妾の子供の分際で正妻の娘のフリをして甘えようとしていたから。」
「……妾の子供…。」
「ええ。わたくしは四女だけど、三女の姉とは歳は同じなの。つまりは父上は身籠っている妻を放ったらかしにして女のところへ通っていたのよ。」
「さ、最低……。」
「わたくしもそう思うわ。でも、その妾との子供は父上には要らなかった。あの人には妾の女が必要だっただけ…。その妾の血を引いていて、血の繋がらない娘を寵愛する実の母……。嫌われる要因は沢山あるわね…。」
「鈴妃さん……。」
「ごめんなさい…。暗い話をしてしまって…。別に不幸な事だけでは無かったのよ。わたくしだって誰かに愛されて今まで生きてきたのだって分かっているわ。」
笑って言うと、それでも嶺崋の顔は憂い気だった。
「さぁ!できた!!灑崋の着物だから大きいかなと思ったけど、あまり身長が変わらなくて良かったわ!」
「ありがとうございます。鈴妃さん。」
「それで、この着物は何なの?」
上等な着物ではあるけど所々ほずれたり、汚れたりしている。
洗って売ったところで、これだけ色褪せなどがあると買い取っても貰えないだろう。
「これ……お嫁に行くからってお父様と灑崋が貯めたお金で買ってくれた物なんです…。」
大事そうにそれを抱き締める彼女からは家族への愛情が伝わってきた。
「後宮に入るための資金じゃなくて、お家の長い間少しずつ貯めたお金で買って貰った物なんです……。駆け落ちをしたときもこれだけは置いて行けなかったし、他の何を売っても、これだけは売れなかった…。だから…どうしても手放せないんです…。」
「そっか…。その気持ちはとても尊いものだわ。自身への戒めと家族への感謝の念として大事にしてね。」
「はい…。」
続きます!




