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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第三章 寵妃
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上書き

こんにちは!お久しぶりです!



「酷い顔だぞ。」



朝餉を終えた玉蘭が本を返そうと書庫へと向かって歩いていたところに、灑崋の声がした。


後ろを振り返ると、呆れた顔の灑崋が立っていたのはいいとして、何故か男装をしていた。


「どうしたんだよ。」


「あなたこそ、その格好どうしたの?」


これか?と言い、その場で一回りした。



「これから商人と会うんだよ。」


「宝石商?だったらいつも通りの格好でいいではないの。」


「違う違う。レチナの商人だよ。」


「へー。レチナの。」


レチナとは凱華國の西に位置する砂漠の大国だ。


褐色の肌に青い目を持つ国民は広大な砂漠の大きなオアシス都市に暮らしている。


私も会ったことはないが、香辛料や薬など様々な物がレチナから商人によって他国へ持ち出されている。


「料理に使えそうな香辛料を売ってもらおうかなって思ってさ。あとは、色々と使えそうな道具でも買おうかと。」


宝石商や着物の仕立て屋は後宮への出入りを許されているが、それ以外の者は基本的には後宮に入ることは出来ない。


なので、それ以外の商人に会うには王宮に行くしかないのだ。


しかし、妃たちが後宮から出ることは滅多な理由がない限り許されていない。


だから、灑崋は男装をしているのだ。



初めてみる男らしい格好に違和感を感じる。



「どうよ。男の姿の俺は。なかなか男前だろ。」


「何か変な気分ね。性別が男だと分かっていても、女の子が男装してるようにしか見えないわ。」


「…………。」



私の言葉に気を悪くしたのか口を尖らせる灑崋はやっぱり拗ねた女の子にしか見えなかった。



「これから王宮に行くの?」


「そう。鈴妃も行くか?」



誘いに来てくれたのだと分かり、頷きそうになったが、一瞬考えて止めた。



「体調が優れないからやめておくわ。」


「そういえば顔色悪いもんな。どうした?」


「あ、大丈夫……。なんでもないから……。」



別に体が悪いわけではなかった。


唇に触れ、どうしようもない罪悪感で心が満たされていた。



「大丈夫そうに見えねーけど……。行くの止めて、ついてようか?」


「大丈夫よ。念珠もいるし。それに商人だってあまり来ないのだから、会えるときに会った方がいいわ。」


「まあ、そうなんだけどさ……。」



尚も心配そうに見つめられたので、ヘラリと笑って見せた。



「わたくしは部屋で休んでいるから、どんなものがあったのかあとで教えて?」



そう言うと、渋々と言った感じで頷いた灑崋は「せめて」と言って、私の手に持たれた本を書庫に代わりに返しに行ってくれ、そのあと部屋まで送ってくれた。





何も悪いことはしていないのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。


昨夜の口付けはいったい何だったのだろうか……。




寝台で一人膝を抱えながら考えた。



あの方のやることはいつも私の予想の範疇を越える。



私をずっと醜女だなんだと言っていたのに、急に醜女じゃないとか、寵妃だとか……。



姿を見せるなと言っていたのに、今こうして私は妃として後宮にいる。



遊瑧さまは私のことをどう思っているのか分からない……。




昨夜、遊瑧からの突然の口付けに玉蘭は騒ぐわけでもなく、ただ静かに涙を流した。



それを見た遊瑧は一言「すまない」と言って、部屋から立ち去った。



私は彼の妃なのだから、当たり前の事をされただけだ。


そう頭で分かっていても、どうしても`嫌´だと思ってしまった。



黒烏以外の男が自分に触れる事がこんなにも嫌だと思うなんて、思わなかった……。



たかが一回の口付けで、私は黒烏との口付けがどのようなものだったかもう分からなくなっている……。



こうやって、どんどん上書きをされていくのだろうか……。



この身に刻んだ彼との契りが今もまだこんなにも残っているのに……。


愛する人に愛される喜びを私は忘れてしまうのだろうか……。



怖かった…。



私の中から黒烏の欠片が消されていくような感覚が、どうしようもなく怖かった。



「会いたいよ……黒烏……。」



紹家を出たあの日、私は前を向いて歩き出したと思っていた。



だけど、それは違った……。


母上にあれだけ強く言って、結局私自信、何も変わってなどいなかった……。


現実を受け止めていなかったのに、受け入れた振りをしていた。

そして、いざその現実を突きつけられて、私はどうすれば良いのかわからなくなっている。




怖い……怖いよ……。



時間が進むのがどうしようもなく怖い……。




その夜、玉蘭のもとに遊瑧が訪ねて来ることは無かった。




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