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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第二章 後宮での日々
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紹家の兵士として 後編


「何があったか、一つ一つ話せ。」


黒烏は体に付いた血を洗い流し、着替えを済ませると、隊長に呼ばれた。


「隊長……今日李氏と共にこの邸に来た者は……。」


「縲という男なら、騒動の中姿を消した。」



その言葉を聞いた黒烏は一つ一つあったことを力無い声で話し始めた。



全てを聞き終わった隊長は暫くの沈黙のあとに事後処理の段階で分かった事を話した。



まず、最初の犠牲となったであろう李氏は何十箇所も刺された跡があり、多量の出血のため死んだらしい。


また、大広間周辺に倒れていた護衛の兵たちは自分の首を自らの短剣で斬り、亡くなっていたそうだ。



この日、邸で亡くなった者は40名にも及んだ。






報告の終わった黒烏は回廊を歩き、舎に戻っていた。



舎までの途中にある内庭が視界に入り、意味も無く足を止めた黒烏はしとしとと雨の降る庭を見つめた。



ここで、今日自分が殺したあの部下と何度も組手をした。


まだ、16だったあいつは故郷の母親に仕送りをしたいからと、死に物狂いで特訓し、紹家の兵となったのだと言っていた。


この先……あいつにはどれだけの未来があったのだろうか……。


結婚をし、子供を成して幸せな家庭をつくっていただろう部下を俺は……。





「黒烏……。」


「彗翔……。」




放心状態で佇む黒烏に、彗翔は何と声をかけたら良いか分からなかった。


きっとどれだけ「お前は悪くない」と言ったところで、黒烏は自分を攻め続ける。


かけるべき言葉はきっとあるはずなのに、今それを言っても黒烏には何も届かない気がした。



「彗翔……俺は今……どんな顔をしている……。」



ポツリと呟かれた言葉は雨音にかき消されてしまいそうなほど弱々しい。


彗翔は何でもいいから何かを言わなければと思い、口を開いた時だった。






「情けないぞ!!!それでも我が紹家の兵か!!!」


突然自分の後ろで大声で叫ばれた彗翔はバクバクいう心臓を押さえながら後ろを振り返った。




そこには腰に手を当て、黒烏を睨み付ける興暿が立っていた。


ズカズカと黒烏の方へ歩き出した興暿を彗翔は慌てて止めに入ろうとする。



「こ、興暿さま、今、黒烏は繊細な状態でして…!!」


彗翔は興暿の歩みを止めようと彼を抱えあげたが肘で勢いよく殴られ、鼻から血を出した。


「グフォッ!!こ、興暿さま…。」


鼻を抑えながら興暿を止めようとする手を興暿は払った。



「何だその顔はッ!!情けないにも程があるぞ!!」


「……興暿さま…。」


「俺の家に支える人間でお前のような腰抜けは必要など無い!!!」



黒烏の前まで来ると、興暿は黒烏の脛に蹴りをいれた。


痛みに踞り、脛を擦っている黒烏に今度は興暿の平手打ちが入った。


バチンッと音を立てて叩かれても、所詮は子供の力なので黒烏にとっては大して痛くはなかったが、黒烏は目を見開いて固まってしまっていた。



「何故そんな顔をしている!!お前は成すべき事を成したのではないのか!!!お前の役目は部下を死なせない事なのか!!」


バチンッともう片方の頬を叩かれ、逆側を向いた黒烏は何も言わずただされるがままだった。



「自分の役目を忘れ、部下を手にかけたことを悔いて放心するお前など知らない!!!俺が憧れた黒烏はそんな男じゃなかったはずだ!!!玉姉上が惚れた男はそんな男じゃなかったはずだ!!」


興暿は黒烏の襟を掴みあげ、大声で叫んだ。


その時、黒烏は瞳に光を取り戻し、興暿の姿をとらえた。




「こんなところで立ち止まっていてどうするんだ!!玉姉上に逢いに行くんだろ!!!」


「興暿さま………。」


「どんなことでも乗り越えてみせろよ!!!姉上に逢うために!!!そんな姿を見せて、俺を失望させるな!!!」



芯の通った力強い声に黒烏は意識を一気に覚醒させた。



「申し訳ありませんでした。興暿さま……ありがとうございます…。」



雲間から射し込む陽射しが黒烏と興暿を照らした。



「俺は紹家の兵士として、部下の誇りを守るため、すべき事をしました。」



興暿は襟から手を離した。



「ただ、今日だけはお許しください。あいつを弔い、痛みを受け入れる時間をいただけませんか。明日からはまた、紹家の一兵士としてあなたをお守りいたします。」



そう言った黒烏の声は先程までの弱々しさは無かった。



「受け入れるための時間は誰にだって必要だ。明朝よりまた忠義を尽くせ。」



「御意。」



彗翔はただ茫然とその二人のやり取りを見ていたが、何も出来なかった自分に酷く落胆した。



力になりたいと思うのに何もしてやれない……。


それに引き替え、まだ幼いのに興暿さまは何と立派な方なのだろうか……。


興暿はすでに紹家の次期当主としての才を開花させていると彗翔は感じた。

部下の名前出したかったけど、結局出てこなかった。

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