密会
「おい、そこ置いたら詰みだぞ。」
「え!まっ!!待った待った!!!」
慌てて待ったをかけた鈴妃は今置いた駒を元の位置に戻した。
双六をやった日から彼女は海外の玩具にハマったのか俺の部屋を昼間でも訪ねてくる。
今日はチェスというのをしている。
「なら、ここでどう?」
「そこもあと二手でチェックメイトだって。」
「え、どうしよ…。」
ハマるのは構わないが弱すぎる。
これじゃあ王様への対抗策なんて出来るはずなどない。
考える鈴妃を横目に自作の桃饅頭を口に頬張る。
うん。もう少し、アンを煮詰めても良かったな。
「そう言えば、灑崋は好きな人とかいたことないの?」
「俺?うーん…好きな奴ってのはいなかったかな~…なんで?」
「わたくしの好きな人の話しただけで、あなたの事は聞いてなかったから公平じゃないなと思って。」
「何だよその理屈…。」
呆れながら彼女を見ていると、彼女は愉快そうに微笑んだ。
「俺は妹の事もあったから、どんなに綺麗な女でも蓋を開ければ、所詮こんなもんなんだろうなとか思ってたし。まぁ、俺も男だから身体だけの関係の奴はいたけど。」
「あら、意外と大人じゃない。」
クスクス笑いながら言われ、ムカついた。
こいつまた俺をバカにして…!!
「お前はどうだったわけ?恋人とはどこまでもいったんだよ。」
「そういう下世話な事は言いたくないわ。」
「人には言わせたくせに!!」
「あなたが自分から言ったのよ。」
言い返せない俺はプルプルと震えながら、拳を握り、怒りを抑えた。
そんな姿も楽しそうに見る鈴妃に、はぁ~とため息を吐き、拳を解いた。
俺は彼女の笑顔にはどうやら弱いらしい。
「早く駒進めろよ。」
「さっきから分からないのよね。どこだったらわたくしの敗けを回避出来るのか…。」
「俺が思いつく限りで五通りはあるぞ。」
「え!!そんなに!?」
鈴妃は眉に力を入れ、真剣な面差しでチェス盤を睨んだ。
暇だったので、外を眺めていると緋仙宮が見えた。
そう言えば彼女の二胡の腕はなかなかのものだったな。
「なぁ。」
「なに?」
「二胡弾いてみてくれよ。」
唐突な言葉に目を丸くした彼女は、次の瞬間には「いいけど」と言って立ち上がった。
「部屋に置いてあるから取ってくるわ。」
「ああ。悪いな。」
彼女が部屋から出ていくと俺は回廊を急ぐ彼女を目で追った。
好きとは違うと思う……。
可愛いし、胸でかいし、性格もいいし、胸でかいと思うけど……。
ヤりたいとかそういう風な感情は無い。
落ち着く場所。
そんな感じなのだ。彼女の側は。
邸から出れなかったと言っていたが、もしも外出の許可があったのなら、偉くモテただろう。
「お待たせ。曲の希望はある?」
「別に。任せる。」
「それじゃあ……」
ゆっくりと弦を引き、奏でられる音にそっと目を閉じた。
美しい音色だ。無知の俺にもよく分かる。
何処か寂しげで儚い雰囲気のある曲は彼女の纏う空気によく似ている。
俺にもいつか彼女のように身を焦がすほどの恋をするときが来るのだろうか。
俺の性格的に無理な気がするけど。
だが、心のどこかでそんな風に誰かを想えるような日がいつか来ればと臨んでいる。
誰かへの想いを貫く事がこんなにも綺麗なものなら…。
気がつくと俺は寝ていたようで、肩に布団がかかっていた。
鈴妃は机に凭れ、小さく寝息をたてていた。
空いた桃饅頭の皿は片してくれたようだった。
あとで謝りに行かなきゃな…。
弾いてくれと言って、寝るなんて失礼過ぎる。
でもそれだけ心地好い音だった。
寝づらいだろうと思い、彼女を抱え寝台に寝かせた。
回廊に出ると夕焼けに照らされた庭が見えた。
庭には誰かいるようで、何かこそこそと話している。
あれは……。
一人はよく知っている顔だ。
だがもう一人は誰だ……。
柱に隠れ、様子を窺っていると話し合いが終わったのか二人は辺りを確認し、別れた。
何してたんだ。こんなところで。
彼らのいた場所に行ったがそこには何かを燃やした跡しかなかった。
つまり残しておいたらまずいって事か。
あいつは前々から裏がありそうだとは思っていたが、少し調べて見る必要がありそうだ。
俺は王様の側近である拐功の去っていった方を見ながらそう思った。




