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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第二章 後宮での日々
32/59

意味のない事



鈴妃に俺の秘密を知られてから一月が経った。

彼女は俺の事は言いふらしてはいないようだ。

有難い事だ。

そしてあの日以来俺等はよく茶をしたり、晩酌する仲になった。




「失礼するぞ。」


「灑崋ね。どうぞー。」



扉を開けて中に入ると、鈴妃は机でせっせと何かを書いていた。



「饅頭作ったけど食うか?」


「ええ!いただくわ!ちょっと待ってて。」



何をしているのかと思い、饅頭を置いて、彼女の近くまで行った。



「何書いてんの?」


「日記よ。後宮に来てから毎日つけているの。大したことは書いてないけど…。」



へー。けっこうマメなんだな。


俺はそーゆーのはしたいと思わないからな。


チラッと中身を読んで見たが、本当に大したことは書かれていない。




`今日は酷く雨が降っています。´


だとか、


`綺麗なワンタンを五個も作れるようになりました。´



等々が書かれている。



つまらない日記だな。まあ、それもしょうがない。


後宮は進御以外何をするでも無いからな。面白いことを見つけるのは困難だ。


「そんな変わり映えしない毎日のこと書いてて面白いか?」


「面白いかどうかは分からないけど、こうやって書いておかないと忘れてしまうから。」


「何。忘れちゃ不味いことでもあるわけ?」


「ええ。今度会ったときに話したい人がいるから。」



優しい声色の彼女は何かを思い出しているのか口許が少し笑っていた。



「ふ~ん。誰に話したいわけ?」


「灑崋の知らない人よ。」



俺の知らない人ってことはこの後宮に出入りが簡単に出来る奴じゃないな。


だいたいの後宮を出入りしてる奴の顔を頭に入ってるからな。



「兄弟か?」


「いいえ。わたくしの好きな人よ。」



いきなりの告白に驚いて噎せそうになったが、何とか堪え、「はぁ!?」と声をあげた。



「好きな人!?」


「そうよ。何をそんな驚いているの?」



お前それ………………。


後宮の奴じゃないってことは宦官でもない。


外部の人間かよ。


「え、何?あんた好きなのって女とか?」



万が一にも女だったら入れる可能性はあるが……。


「いいえ?男の方よ。」



だよな……。

つか、何を平然と言ってんだよ。


「ならお前の今やっていることは全て無駄になってるって事だぞ。」


「………………。」



男は宦官と皇帝以外この後宮には入れない。


そんな当たり前のことを知らないわけじゃ無いだろ。



「その男とは二度と会えねーよ。そんな意味もなく日記つけてても虚しいだけだろ。」



俺の言葉に文字を綴っていた筆が止まった。



「意味はきっとあるわ。わたくしは彼を信じているから。」


「信じてるって言ったって…。」


「何年、何十年かかっても会いに行くと言ってくれたの。だからわたくしはそれを信じるわ。」


「馬鹿か。そんなこと出来るわけがないだろ。」


「信じると決めたの!!!だって…何か信じるものがないと……わたくしは…今を生きれないから……。」



苦しげに出されたその声に俺は何も言えなかった。



彼女の手は再び動きだし、文字を綴る。


その時鈴妃と初めて会話した時の事を思い出した。



『あなたは自分からここへ来たくて来たの?』



目の前にいる彼女はここへは自分の意思で来たのではない…。


今もその男を想い、毎日毎日来るはずの無い日の為にこうして意味をなさない日記を書いているのだから。



一生懸命にそれを書く彼女の姿はかなり胸に刺さるものがあった。




ただ純粋に人を想い、信じるとはこんなにも憐れで綺麗なものなのかと知った。






「悪かったよ。意味ねーとか言って。」


「いいのよ。わたくしも取り乱して申し訳なかったわ。」




俺は饅頭を置いた場所に戻り、一つ口に頬張った。


甘いのが口に広がり、饅頭のもっちりとした生地を歯で切っていく。


ぐるりと周りを見渡す。


鈴妃の部屋には前に数回来たことあったが、いつも彼女は俺が来ると目の前に座って話し続けているからゆっくりと周りを見る機会が無かった。


いや、あんまりそーゆーの良くないのは分かってる。今は女装してても中身は男だ。女性の部屋をじっくり見るなんて失礼でしかない。



本棚には少量の本と木箱が置いてある。


本の中には彼女が書いているものと同じ背表紙のがある。あれも恐らく日記だろう。



木箱は何だ。この部屋の中で一番高価そうな上質の木箱みたいだが…。



鍵穴もついているから開けられないだろうな。




「お待たせ。

わぁ~美味しそう!!いただきます。」


「はいはい。どうぞ。」



パクパク食べていると、鈴妃が突然クスクス笑いだした。



「なんだよ。」


「いえ。わたくしこうやってお友達と何かをやるとかって事はなかったから…。嬉しくて。」



いつもいつも急に可愛い事を言うから本当に困る。



「友達少なかったんだな。」


「少ないと言うより…いなかったの。」


「え、マジかよ…悲し…。」


鈴妃は本気の拳で俺の腕をどつくと、「家から出れなかったの!!」と怒っていた。



「わたくしが外に出れば家の恥になるって…。あ、でも彗翔は友達だったのかしら…?」


「知らねーよ。つか何?恥って。」


「わたくしは醜女だからって姉や父によくいわれていたの。」



醜女じゃないだろ。


十分に可愛いし、それにやっぱ女は胸だろ。


「外に出れなくて遊ぶ相手もいなくて…。だから歳の近い遊瑧さまが我が家にお越しくださった時に何度も仲良くなろうと話かけに行ったりしたのだけど、友達にはなれなかったわ。」



いや、皇太子を友達にするってのさかなり勇者だぞ?


その頃から図太い神経をしていたのか…。



「その頃のことで今も嫌われているんだと思うわ。」


「ふーん。なるほどね。」



正直俺も王様が考えている事とか分からないから、本当にそれだけで嫌ったのかって気はするけど……。


「灑崋は友人はいるの?」


「まあ、そこそこ。俺は活発だったからよく外で近所の奴等と遊んでたし。」


「わたくしもそんな風に友人がほしかったわ。」



親が過保護で家から出してもらえないは分かるが家の恥になるからってのは幼子には辛いことだっただろう。




「今は俺がいるんだし、やりたいことあるなら俺がやらせてやるよ。」


「ほ、本当に!?」


「まあ、やれる範囲でだけど。」



俺も17の男だから人形遊びとか言われたら流石に無理だ。



「なら、わたくし前にあなたが話してくれた双六をやりたいわ!」


「え、そんなんでいいわけ?」


「前に聞いたとき、あなたが遊瑧さまにどうしても勝てないと言っていたから、わたくしも一緒に作戦をたてたいと思って!」


いや、王様にはどうやっても勝てないぞ?

とんでもなく頭いいからな。あの人。




鈴妃と明日の夜に双六をやる約束をすると、饅頭も食べ終わったし俺は部屋へ帰ることにした。



「おやすみなさい灑崋。」


「ああ、お休み。」



行こうとする俺の手を鈴妃は咄嗟に掴んだ。



「え、な…に……」


「灑崋、明日昼間でいいから、遊瑧さまに何か作って持っていってあげて。」


「は?なんで…。」



突然どうした。


「昼間、遊瑧さまの姿を見たときに少しお痩せになったように見えたわ。心配だから定期的に様子を見てあげて欲しいの。」


「なんで俺が……。」


「他の妃は気づいていないようだったし、わたくしは近づけないから。それに、あなたは寵妃じゃない。」



マジか……。

あの王様には出来る限り近付きたくないのに。



「お願いね。灑崋。」


真剣な瞳に俺は断る事ができず、



「わかったよ…。」



そう返事をした。



お久しぶりです!

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