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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第二章 後宮での日々
30/59

嶺妃と鈴妃 前編


「あなた男なの?」


俺の着物をガッと開き、胸を凝視する鈴妃に言葉が出なかった。




―――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――



その日、俺はふらふらと台所に向かっていた。


俺も年頃の男児、女が食べる量の飯じゃ足りないのは当たり前だ。



「姫さま!!これはワンタンじゃありません!!ただの皮です!!タネが全く入っていないじゃないですか!!」


「で、でも!!これ以上入れれば皮が切れてしまうわ!!」


「こんな小指の先ほどの量じゃ、切れません!!」



台所を覗くとそこにはやけに小さなワンタンを持つ、鈴妃を怒鳴り付ける侍女の姿があった。


侍女は鈴妃からそのワンタンを取り上げ、目の前で握り潰した。




え、えぇぇぇぇぇ……。



「やり直しです。」


澄ました顔でそう言った侍女に鈴妃は眉をヒクヒクとさせながら悔しそうに「はい」と答えた。


侍女が主よりも強いってどういう事だよ……。


鈴妃は再びワンタンの皮にタネを入れ始めた。

箸でこんもりと皮の上に乗せられたそれを見ながら呆れた視線を俺も侍女も送っていた。



俺は当初の目的の為にこっそりと台所に侵入しながら彼女たちの後ろを通った。



「ちょっと足りないかな……。」



その時聞こえたその声に俺は振り返り鈴妃の肩越しに彼女の手の上にあるタネの量を見た。



いや、いやいやいや!!



「「多すぎだから!!!」」



思わず侍女と一緒に突っ込んでしまうと、驚いたように肩をあげた鈴妃と侍女がこちらを振り返っていた。



「あ、……えと……。」


気まず…………。


「あなた……確か按家の……嶺崋さまだったかしら…。」


怪しむように俺を見る鈴妃に取り敢えずヘラリと笑った。


「ご、ごきげんよう~……?」


「ええ。何をしているのそこで。」


「いや~ちょっと小腹が減って……」


「そう……。ところで多すぎって何の事?」



本当に何の事を言っているのか分からないと言いたげな、彼女の表情に俺は再び呆れた顔を向けた。



「姫さま、十中八九そのタネの量でございますよ。」


「え?」



自分の手元に視線を移すと首をかしげた。



「多すぎ?」


「多すぎだろ!!!ちょっと貸してみろ。」


ドスドスと近寄り、鈴妃の手からワンタンを奪い取ると箸で皮の上にあるタネを減らしていく。



「そんなに減らしたら中がスカスカになるわよ?」


「これぐらいが丁度いいんだよ。煮込めば肉汁も出るしな。」


「なるほど……。」



ほらっと出来上がったやつを渡してやれば、鈴妃は不思議そうにそれを見つめ、俺に視線をずらした。



「嶺崋さま、あなた料理が上手ね。」


「まぁ、実家でやってたからな。」


「そうなの。偉いわね。」


偉いとかそういう問題じゃないのだ。実家にいる間俺以外料理が出来なく、仕方なく作っていただけなのだから。


鈴妃は俺のをまな板の端に置き、お手本とするようによく観察しながら新しく皮に包み始めた。


そういえば鈴妃の声初めて聞いたな。


思っていたよりも高く透き通る声だった。


それに噂で聞いたよりも悪女に見えない……。



彼女の顔を凝視してから手の方に視線をずらした。


タネの量はまだ多いように見えるも、先程よりは大分ましになった。


「私は汁を見てきますから姫さまはそこで作っててください。」


「わかったわ。」


侍女はかまどの方に行ってしまい取り残されて、俺は何となくワンタン作りを手伝い始めた。





「意外だったわ。」


「何が。」


「嶺崋さまは男らしいしゃべり方をするのね。」



ギクッとし、タネを乗せる手が止まったがここで慌てれば尚のこと怪しまれる。



「まぁ、それを言うなら鈴妃さまの方が意外だわ。」


「どうして喋り方変えたの?」


「うるせーな。合わせろよ。」



俺の変わり方が面白かったのかクスクスと笑っている鈴妃。


笑うとかなり可愛いな……。



「で、何が意外なんですか?」


「宴とかの場に滅多に姿を現さないから、もっと気難しい奴かと思った。」


「ああ。それは……」



鈴妃の顔が悲しそうに歪んだ。



「わたくし、遊瑧さまの前に姿を現さないと誓ったので…。」


「は?なんだそれ…。」


「数年前に王宮に来たときに、命を受けたの。だからわたくしはあの方の前には出られないのよ。」



意味が分からない。



王様は鈴妃が嫌いなのか?なら、後宮入りをどうして許したんだ?




「なら何で後宮に来たんだよ。」


「それはわたくしにも分からないわ。ある日突然姉でなくわたくしがここに来ることになったから。」


そう言いながら鈴妃の手の上に置いていかれるタネの量はさっきよりも大分増えたように見える。


多すぎだから。何でそんなに入れたがるんだか……。



「自分から来たかったわけじゃ無いのか?」


その言葉に軽く笑って俺の方を向いた。


「あなたは?」


「え?」


「あなたは自分からここへ来たくて来たの?」


「いや……俺は……。」


そもそも男だし……。


口が裂けても言えないけど……。



と、そこに汁の煮込みが終わったらしい侍女が戻ってきた。



「そろそろワンタンを入れましょうかって……姫さま…これもこれも、タネが多すぎて皮が切れてますよ…。」


「え、ええ!?ちゃんと加減したわよ!!」


「もっと嶺妃さまのワンタンを見習って下さい!!」



その後破けたワンタンも仕方ないので汁の中に入れ、鍋で暫く煮込むとワンタン汁が出来上がった。



「嶺妃さまも食べて下さいな。二人で食べるには量が多すぎますので。」




俺はその言葉に頷き、「どうせなら俺の部屋で食べよう。」と言い、鍋と食器を侍女に運んでもらった。







「それにしても……本当に綺麗な方ね。世の殿方はきっと皆あなたに惚れてしまうわね。」


俺の部屋に向かう途中の回廊で唐突に鈴妃が口を開いた。


「あ、ああ………。」


世の中の男全員が俺に惚れる?

何だその地獄絵図は…。


「何を食べたらそんなに綺麗になるの?」


「ん~……何だったかな?」


いや、何も食べるもんが無かったんだよ。



彼女の質問に曖昧に答えながら歩いていると、俺の部屋の前に誰かが立っているのが見えた。


俺たちの後ろに鍋と食器を持った侍女がいるから侍女ではない。



どんどん近付くにつれその姿ははっきりと分かるようになった。




あれは……


ヤバイ……王様だ……。



チラリと隣に視線を移すと、鈴妃は俺の後ろに隠れるように少し後ろに下がり俯いた。


「嶺妃」


「しゅ、主上。どうしたのですか……?」



繕い笑いをしながらそう言うと、王様は俺の後ろにいる鈴妃を見て目を見開いた。



王様はどうやら俯いていても彼女が鈴妃であることは分かったらしい。





「えっと……あ、主上!鈴妃がワンタン汁を作ってくれたんです!これから一緒に食べようと言ってまして、お時間あるようなら主上もいかがですか?」



俺がそう言うと主上は眉を寄せ不機嫌そうな顔をした。


初めて見たな。こいつのこんな顔。



俺の言葉に何も答えないでズカズカと近寄ってくると、王様は鈴妃の顎を掴むと無理やり上を向かせた。



「…久々に見たが、変わらんなお前…。」


「………………。」



嘲笑うようにジロジロ彼女の顔を見ると、雑に手を離した。



王様はそのまま彼女を通り越し、その後ろにいた侍女の手から鍋を払い落とした。



ガシャンッと大きな音を立てて転がる鍋と中身のワンタン汁は辺り一面に広がった。



「お、おい!!何してんだよ!!」




俺が掴みかかると王様は俺の手を払って、鈴妃に「掃除しておけ」と言って行ってしまった。




「なんだよ……あいつ……」


何か変だぞ王様……。


俺がブツブツ一人で言っていると隣にいる鈴妃が「遊瑧さま!!」と大声で叫んだ。



「どうしてわたくしを後宮に入れたのですか!!わた、わたくしは……。」


彼女の服をぎゅっと握り、歯を喰い縛っている姿を見ていられなかった。



王様はそんな彼女の声に足も止めず、行ってしまった。









少し長くなるので前編後編に分けます。

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