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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
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出逢い



紹家に生まれて良かったと思える日なんて来るのかしら。


ジリジリと痛む頬を抑えながら、紹玉蘭は天を仰いだ。


先刻、私の顔をぶったのは父である紹家当主の紹太清であった。

理由は紹家の令嬢としての礼儀があまりにも目に余るとのことだ。


「姫さま、こちらにいらっしゃったのですね」


念珠(ねんじゅ)…」



念珠は私付きの侍女で歳は50を過ぎていると聞いたことがある。

本人は非公開にしているので実際はどのくらいなのか不明だ。



「お部屋にお戻りになりましょう」


「嫌!戻りたくない!」


「姫さま…そんな我儘は許されませんよ」


「だって…だって…父上は姉上たちの事は自慢の娘と言うのに、わたくしの事を恥ずかしいと言われたわ!わたくしが醜女(しこめ)だから…」


「そんなことありませんよ。姫さまは姉君様よりもお美しいですよ」


「自覚してるの!確かにわたくしは姉上たちよりも美人じゃないわ。でもだからってあんな風に言わなくてもいいじゃない」




『今日は皇太子殿下が来られる。お前は皇太子殿下に拝列しなくて良い』


『な、何故ですか!姉上たちと一緒にわたくしも殿下に挨拶したいです!』


『殿下は我が家に未来の後宮に入宮する姫を選びに来るのだ。お前がいたところで選ばれるわけが無いだろう。紹家の恥になるから下がっていなさい』


嫌です!と反抗すると、父は容赦なく私を叩いた。


『まあお父様ったら、そんなはっきりと言っては玉蘭が可哀想だわ』


『そうですわお父様。玉蘭がたとえ醜女であっても私たちは可愛い妹だと思っていますもの』


『顔は生まれつきですものね。わらわはあのように生まれなくて良かったわ』



クスクスと笑う姉たちの声と父の言葉に何かが切れたように玉蘭は広間を飛び出した。



もともと妾の子供であった玉蘭はこの家では疎まれる存在であった。

おまけに美人の母から生まれたのに、母ほどの美貌は無く、正妻の子として生まれた姉達の方が美姫であった。

せめて美人なら父上も可愛がってくれただろう…。




「美人になりたい…」


世の中見た目が全てなんだと、心の中で諦めがついていた。

あんな性格最悪の姉たちですら、成人していないのに求婚の文が後をたたない。


部屋に戻れと催促してくる念珠に嫌々と抵抗していると、騒々しく廊下を駆けてくる者が見えどうしたのだろうと思って呼び止めてみた。



「どうかしたのか」


「おお!これは姫さま!いえね、皇太子殿下にお出しする煮付けの魚が旦那様の愛猫に盗まれてしまいましてね…取り返そうとしたのですが間に合わず…」


「父上の猫に…しかも殿下へ献上する食べ物に…厨房の警備がガラ空きなのは分かったわ」



仕方ないと玉蘭は立ち上がった。




「おお!姫さま!やっとお戻りになってくださるのね」


「違うわよ。池に魚を釣りに行くの」



こう見えて魚釣りは上手いんだからね!



意気揚々と言い、回廊を走って自室にある釣竿を取って池に向かった。


途中念珠の地鳴りのような罵声が聞こえたけど無視無視♪






池に着くとそこいらにある石をどかし、その下にミミズを数匹捕まえ巾着の中に入れておく。

竿の先に一匹付けて、暫く待っていると糸が引っ張られる感覚にすかさず竿を引き上げた。


しかしそこには魚は付いておらず、餌も取られてしまったようだった。


クッソー!という気持ちのまま残りのミミズを使い挑戦するもいずれも失敗。



こうなったらと思い、玉蘭は裾をたくし上げ池の中に飛び込んだ。


この池は浅い作りになっているため、玉蘭が入っても太ももぐらいの水かさしかない。



とりゃ!おりゃ!と令嬢のカケラも無い声を出しながら魚を鷲掴もうとする姿はさながら漁師である。



やっと一匹捕まえて、慎重に陸に上がると、そこには呆然とこちらを凝視する美しい少年が立っていた。








「……貴様、そこで何をしている」


「魚を取っていました」


「盗人か?」


「いえ、この邸の娘です」


「紹家の?」


嘘だろと言いたげな眼差しでが突き刺さる。


誰なのかしら…。


「わたくしは紹玉蘭といいます。紹家、四の姫です。」


玉蘭は取り敢えず挨拶がわりにと手を出して握手を求めた。


キラキラと日差しに反射する水面に映る少年がフッと笑い、玉蘭の手に自分の手を重ねた。




「余は夏恵(かけい)帝が皇子、曹遊瑧だ」




これが後に寵愛を注いだ愛妃を斬殺した賢帝、秋煌帝とその寵愛の末に命を落とした鈴妃の出逢いであった。



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