嶺妃
新章です!
ここは千人の美姫とそれに仕える三千の侍女のいる凱華国皇帝の後宮である。
俺がこの後宮に来て早くも一年が経とうとしていた。
「今日も嶺妃さまが夜伽だそうですわ」
「まったく、何なの!!どうしてあの子ばかり!!」
「仕方無いわよ。確かに後宮の美姫の中で彼女が一番美しいのですから」
山のように積まれた胡麻団子をほいほい頬張っているとそんな声が聞こえてきた。
チッ
だったら代わってくれよ!
この……
「嶺妃。胡麻団子は美味しいかい?」
嫌がらせ野郎の相手をな!!!
横目でジトリと睨み付ければニコニコ楽しそうに……いや、嘲笑うかのように俺の頬をツンツンとつついてくるこの男はこの國の皇帝、曹遊瑧だ。
美しく、聡明で慈悲深い賢帝と呼ばれ、先王の治世で解決に至らなかった外交問題も即位の数日後には全て丸く修めてしまったという天才だ。
「本当に可愛らしいな嶺妃は。」
吹き出しそうになる寸前の顔で何を言ってんだこのクソ野郎。
「ま、まぁ嬉しいわ。」
「今夜も君を鳴かせるのだと思うと興奮するな」
「い、嫌だわ。恥ずかしいからやめて下さい!主上!///」
口角をヒクヒクさせながら笑って言うと、口を押さえ俯いた奴は肩をプルプル震わせていた。
こいつ……!!
俺と主上のやり取りを憎らしいと思ったのか、先ほど噂をしていた妃たちがこちらを凄い形相で睨んでいた。
「ここは良い。下がれ」
王様がそう言うと俺付きの侍女たちは一礼し、下がった。
「今は昼間だぞ。さっさと王宮に帰れ」
「まぁ、そう言うな。休憩しに来ただけだ」
美しすぎるその顔は虜にならない者などいないと言われるほどだ。
実を言うと俺も初めて会った時暫く眼が離せなかった。
隣に寝っ転がった王様を見ながら、胡麻団子を再び口に放り込む。
「お前そんな食べてたら太るぞ」
「俺は燃費がいいから太りたくても太らねーんだよ」
「他の妃が聴いたらお前の事を嫌いになるだろうなそれ」
「あんたが俺を毎日夜伽に命じるから、既に嫌われてんだよ」
「ああ、だからこんなとこで寂しく団子を食べているのか。可哀想に余が慰めてやる」
「抱きつくな!近寄んな!」
この野郎……!!!
クスクス笑う美男子を殴りたくなるのは毎日の事だ。
「第一、何で他の妃のとこ行かねーんだよ。俺のとこ来ても博打しかやらねーだろうが。王様の仕事をしろよな。」
そう、この男。
毎夜毎夜、俺の部屋に来ては異国の玩具を持ってきて賭け事をやらせてくるのだ。
「仕事ならしている。」
「世継ぎを残す仕事だよ。」
俺がそう言うと王様はさっきまでの嫌みな笑みを消し、どこか遠くを見つめた。
「世継ぎね……」
「何がそんなに嫌なんかね。俺なんて後宮の美姫たちとしたい放題なら毎日取っ替えひっかえだけどな」
「節操無いなお前」
「あんたは最低だよ。他の`ちゃんとした女´の妃たちのところに行ってやらないなんてさ。」
ほんとにこの王様は変わった奴だ。
俺の家は名門紹家の遠縁に当たる、按家という。
名門一族の縁者だと言っても、実際のところ没落寸前で、邸もボロボロだった。
そんな按家に今から十七年前双子の赤子が生まれた。
男児は灑崋、女児は嶺崋と名付けられた。
父に似ず、美人の母に似た二人は近所でも評判の美形兄妹で名が通っていた。
しかも容姿や声何もかもがそっくりで、親ですら俺らを見分けることは出来なかった。
だがどんなに容姿に恵まれようと、金が無いのは変わらない。
ついに倉にあった食材も底を付きそうになったとき、王宮から`按嶺崋を次期後宮に召す´との知らせが来た。
家族全員が天に救われ気分だった。
嶺崋も美男子と評判の殿下の妻になることにウキウキしていたのだが、後宮入り前日の事だ。
朝、眼が覚めて今に行くと机に置かれた一枚の紙を見て、親父もお袋も魂が抜けたようだった。
`好きな人が出来たので、その人と生きていきます。捜さないでください。´
元からかなりの我儘女だった嶺崋だがその時ほど八つ裂きにしてやりたいと思ったことは無かった。
後宮に召す事が決まっていた娘を進御させないということは、命令違反となり、罪人にされる。
しかもその刑は族誅といって一族皆殺しにされるのだ。
最高に上がっていたところから急激に地の底まで落とされた気分だ。
もう終わりだと思ったその時だった―――――
『灑崋、お前なら嶺崋に扮することも出来るじゃないか!』
嬉しそうに言った親父に眼を剥いた。
だがその意見に賛成するように横でお袋も笑顔に戻った。
『よかったわ。双子として生んで。』
いや、いやいやいや!!!
何言ってんだこの人たちは!!!
『おい!冗談言ってる場合かよ!!』
『『ん?冗談じゃないけど?』』
は?
はぁ?
はぁぁぁぁぁぁぁあアア!!!!???
『待てよ!!俺が後宮に行ったところで普通に男だってバレるだろ!!』
夜伽だってしなくちゃいけなくなるんだ。
聞いた話では、皇太子殿下は男色ではないらしいから俺じゃまるっきり相手にならないぞ!!
つーか、俺も男じゃなくて女が好きだし!!!
『まぁそこはお前の機転でどうにか出来るだろ』
『そうね灑崋は頭が良いからね』
能天気過ぎる両親がいると子供が苦労する……。
いや、能天気なのは妹も同じだが……。
『灑崋、頼む。嶺崋はなるべく早く見つけられるようにするから。』
親父に頭を下げられたらどうすることも出来ない。
親孝行が当たり前のこの國で親がここまで子供にするんだ。
『わ、わかった……』
俺にはそう答えるしか無かった。
そして後宮に上がったその日に俺は男だとバレた。
即位当日の夜、俺の部屋へと夜伽に来た王様に俺は何とか口車にのせて凌ごうと考えたが、服を脱がされそうになって思わず悲鳴をあげてしまった。
ヤバイと思い、王様を見れば声を殺しながら大笑いしていた。
『余の後宮に宦官以外の男がいるとはな。どう言った理由かと思い来てみたんだが……ククッこれはいい気分転換になりそうだ。』
最初から全て見抜いて俺の反応を面白がるために来たという事か……。本当に嫌な奴だこいつは……。
その日から王様が夜伽に来たら、毎回からかわれながら博打をしている。
一度も勝てたことが無いが……。
「少し寝る。拐功が来たら起こしてくれ」
一年前の事を思い出していると、黒曜石のような瞳が隠れた。
後宮の妃たちは皆こいつに抱いて欲しくて仕方ないはずだ。
自分の部屋に来てほしいと言っても軽くあしらわれてしまう妃たちを何人も見た。
王様は機嫌取りのために話しかけられれば笑顔で会話してやっているが彼女たちから自分への視線が外れると一気に真顔になるんだよな。
最後の胡麻団子を手に取ると、西南の回廊を鈴妃が歩いているのが見えた。
噂に聞いた話では即位式一週間前に姉の翠華から妃の座を奪ったとかなんとか。
紹家の翠華は絶世の美女と聞いていたが、それを凌ぐとは彼女を見たときに思えなかった。
まぁ姉から后妃の座を奪っただけでなく、他の妃よりも持ち物もボロボロであったため地味に見えてしまう彼女に近寄るような者はこの後宮にはいなかった。
実際、この一年同じ後宮にいるものの、声を聞いたことすらない。
王様も他の妃には気を使うのに、彼女のことは存在を無視しているようだった。
鈴妃……基、紹玉蘭という人物はかなり謎の多い人物だった。
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