待っている
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邸に戻り、黒烏と別れると私は開いている窓から中に入った。
「姫さま!!」
部屋の中には念珠がいて、私の着物を抱き締めながら泣いていた。
「ど、どうしたの……?」
「お、奥さまに…牢から出して頂いた後に急いで姫さまの部屋に来てみれば、鍵がかかっていて入れず、回廊から見えたが窓が開いていることに気づいて窓から入れば、姫さまがいなくて…」
「ええ…少し外に出ていたの……」
「わ、私っ…姫さまが死んでしまったのではないとか思って……」
「なんでそうなるのよ……」
「部屋は荒らされた形跡は無くて、それなら刺客ではなく坊やが来たのだと思ったんです……!」
「黒烏が来て、どうしてわたくしが死ぬの……?」
はぁーと溜息をつくと念珠は私の着物でちぃーん!と鼻をかんで顔をあげた。
わ、私の着物が……。。。
「心中してしまったのではないかと思ったんです!!」
大きな声で叫んだ念珠に玉蘭は肩を震わせた。
「お二人が深く愛し合っていた事は私が一番よく知っています。だから……」
呆れながら念珠の話を聞いていた自分を殴りたくなった。
「ごめんなさい心配させて。でも大丈夫よ。ちゃんと帰ってきたわ」
私が彼女と同じ目線になるようにしゃがむと勢いよく抱きついてきた。
「黒烏とね……ちゃんとお別れしてきたの。だから念珠が哀しまないで?わたくしとても今幸せなのよ。彼とあんなに幸せな終わりを迎えられて…」
「姫さま……」
「彼に出会えて、愛を知って……とても幸せなの……」
私が微笑むと念珠は俯き、歯を食い縛った。
「どうして……私はいつも…一番にあなたの助けになりたいのに…」
念珠の言葉は玉蘭には届かなかった。
日差しの強い白昼、紹家の前に車が停まった。
「四の姫さまを迎えに上がった。通せ。」
「拐功殿…!!今からでも遅くない!翠華を後宮に!!」
「太清殿、あまりしつこいの良くないぞ。殿下は四の姫さまにするともう決めたのだ。潔く諦めよ」
土下座で頼み込む太清を横目に拐功は通りすぎ、ずかすがと邸の中に入っていった。
応接間に着くと、入口にひれ伏す玉蘭と念珠がいた。
「お待ちしておりました。」
「四の姫さま。御覚悟は宜しいか。」
「はい。」
玉蘭ははっきりとそう答え、面を上げたとき拐功は息を飲んだ。
玉蘭の瞳は強い意志を持って鋭く拐功を射抜いた。
「おまえ…………。」
「わたくしは曹遊瑧殿下の後宮にて勤めに励ませて頂きます。御指導の方宜しくお願い致します」
この娘はこんなにも強い眼をするようになったのか……。
小さい頃から知っている能無しの悔しさに拳を握る事しか出来ない小娘の姿はそこにはなかった。
殿下が急に後宮に召す女を変えると言われたときは意味が分からなかったが、今なら分かる。
殿下はこの娘のこの眼に惹かれたのだろう。
どんな絶世の美女よりも欲しいと思わせるその強い意思に惹かれたのだろう。
「ああ。では参るぞ。」
拐功の言葉に玉蘭と念珠は立ち上がり拐功の後ろをついていった。
嫁入り道具は急ごしらえだが澪鮮が持っていたものを渡された。
一つ一つ荷物を車に運んでいく侍女たちを、眺めながら玉蘭は溜息をついた。
どんっ!と何かが後ろから抱きついて来たのを感じ、振り向くと興暿がいた。
「玉姉上~!!行かないで~!!」
「興暿……」
顔の穴という穴から出放題の顔で興暿は必死に玉蘭に抱きついていた。
「興暿、泣かないで。我が家の次期当主がそんな簡単に弱点を見せてはだめよ」
「うぅぅぅ~……!!姉上~……」
ごしごしと顔を擦る弟の姿に愛しさを覚え、玉蘭はしゃがみ興暿を抱き締めた。
「元気でね。皆をお願いね」
「うぅぅぅぅ~ひっく!うぅぅぅ……」
よしよしと頭を撫でていると荷物を積み終わったのか侍女たちは下がり、拐功が車の扉を開けた。
「どうぞ四の姫さま」
手を差し出され、それに捕まり乗ろうとしたその時だった……
「姫さま!!!!」
大きな声がして玉蘭はその声の主を捜すように振り返った。
門番に押さえられながら、必死に私に向かって叫ばれるあの声は間違いなく黒烏のものだ……。
「…………。」
「姫さま!!待っていてください!!会いに行きます!何年、何十年かかっても、必ず会いに行きますから!!だから待っていてください!!」
そう叫んだ黒烏は門番により地面に取り押さえられた。
喉の奥が焼けたように苦しい。
「姫さま…」
私の様子を伺うように念珠は呟いた。
私は俯き、ぐっと涙を堪え、次の瞬間には満面の笑みで顔を上げた。
「ええ!待ってる!!あなたをいつまでも待っています。」
あなたが私を自由な雲だと言ってくれたあの日と同じ眩しい日差しの中、私は自分の運命を信じて進む。
二人また巡り合うそんな未来を信じて玉蘭は一歩を踏み出した。
明るい未来があると彼らは信じて疑わなかった。
しかし、少しずつだが確実に歪みは始まっていたのだ。
ありがとうございます!




