選択肢
あれから四日経った。
姫さまは今だ自室に軟禁されたままである。
旦那さまが王宮に行き殿下に後宮入りの話を進言したらしいが話も聞いてもらえなかったらしい。
皇太子殿下の考えは変わらないということだ。
黒烏は頭を抱え、何も考えないように目を閉じた。
『嘘つき…………』
『わたくしをここから連れ出してよ!!!』
『もう、いいわ終わりにしましょう』
『さよなら』
嫌だ…………姫さま……。
どうすればいい……どうすれば彼女を失わずに済む……。
「おい!黒烏!!」
突然声がして頭を上げるとそこには彗翔が立っていた。
「まーた辛気くせー顔しやがって!!」
「……うるせーな。今、お前に構ってやる気力ねーんだよ。あっち行け……」
「俺はそんなかまちょじゃねーよ!」
彗翔の言葉にもあまり反応を見せない黒烏に彗星は「やれやれ」と言った。
「はぁー。ほんと何なの?俺の知ってる黒烏はどこ行ったんだよ」
「………………。」
「俺の親友はそんな顔して、うじうじうじうじ好きな女他の男にかっ拐われるような奴じゃ無かったはずだぞ」
「………………。」
「俺はお前と姫さまの間にあったこと全部を知ってるわけじゃないけどさ、そんな顔のまま一生会えなくなっていいほどの関係じゃ無いことは分かる」
「…………彗翔…」
「何が最良な選択なのかなんて誰にも分からねーよ。でもこのまま別れたらきっと二人とも後悔するだけだ」
ずっとこの四日間…何がいいのか……どうすることが皆幸せなのか考えてた。
だけど最良の選択なんて誰にも分からない……か…。
「俺には……守らなければいけないものが姫さまだけじゃないんだ」
「ああ…分かってるよ」
「だけど姫さまと離れたくないと思うのはただの俺の我儘だ」
「ああ…」
「だけど…………」
どちらかを選ぶ事が出来ない俺は本当に弱い…。
どちらも失うことが出来ない。失う事が恐い。
「お前の弱さなんて姫さまにはお見通しだよ」
彗翔の言葉に黒烏は目を見開いた。
「お前が決められないならさ、姫さまに頼め。結局お前の人生じゃなくて姫さまの人生なんだ。彼女に選択権があるんだよ。だけど、彼女に選択させるんだ。絶対に彼女の決めたことに口を出すなよ」
姫さまは俺を守ってくれていた。
過去の話や偽りを口にして苦しんでいる俺を救ってくれた。
力になりたいと言ってくれた。
自分一人じゃ解決出来ない俺に答えをくれていた。
彼女は俺が弱いことをちゃんと分かっていたんだ。だから俺の側にいてくれた。
そして俺は……
『何か信じるものがないと私は今を生きれませんから』
過去の自分の言葉を思い出した。
そうだった…あの雨のなかで見た彼女の強さを俺は信じてずっと生きてきたんだ。
「ありがとな……彗翔…」
「ああ。」
何かが解けたような顔をした黒烏に彗翔は笑った。
今夜は満月なのね……。
黒烏はどうしているかしら……。
部屋から出るのは厠ぐらいで食事も母上の侍女が運んで来るだけで、外の様子は部屋の窓から今が昼なのか夜なのかしかわらかなかった。
これだけ経っても父上が出してくれないということは殿下への直談判はダメだったのね。
部屋の入り口にはほぼ手のつけられていないお盆が置いてある。
食欲がなくて何も喉を通らない。
寝台に横たわり、眠るように目を閉じた。
このまま餓死してしまえば、誰のものにもならないで黒烏だけの私でいられる。
いつだったかホタルを見に行った時にそんな話をしたのを覚えている。
黒烏と出会ってからの日々があのホタルたちのように綺麗に輝いていた。
幸せだった…。あの人に出会えて本当に…。
もう渇れたと思った涙が敷布団を濡らした。
その時だった……
ガタッ!と窓の方から音がした。
驚いて起き上がり布団にくるまりながらそちらの様子を伺った。
翠華の手の者か……?
後宮入りの前に始末しておけばと思ったのかもしれない。
ガタガタと障子を開けようとするのを震えながら見ていると、遂に開けられてしまった。
恐くてぎゅっと目を瞑り、衝撃に備えていると………………。
「姫さま」
優しく頬を撫でる手と聞き慣れた愛しい声がした。
「こ…くう……」
「また泣いていたんですか…?姫さまは本当に泣き虫ですね」
笑いながら目尻に溜まる涙を長い指で掬った。
「ど…して…?」
「あなたを拐いに来たんですよ」
笑いながら黒烏は玉蘭の手を引くと、彼女の膝の裏に腕を回し、横抱きにして持ち上げた。
「黒烏……」
「俺は弱い人間です。だからあなたが選んでください」
そう言うと黒烏は入ってきた窓の方に歩き始めた。
「あなたのためなら全てを捨てて、どこへでもお連れします。心中だってします」
私に選択を求めるということがどれだけの覚悟が必要なのか、きっと彼は分かっている。
涙が止まらなかった。
彼の全てと私を天秤にかけて私を選んでくれた。
こんな女に自分の全てを掛けてくれたのだ。
窓の縁に脚をかけた黒烏は微笑んで玉蘭の顔を見つめた。
「あなたを愛しています。たとえ行く先が地獄でもあなたとなら構いません」
ええ……。私もあなたを愛してる。
「連れてって……誰の手も届かない…遠いい場所へ…」
玉蘭は黒烏の首に腕を回し決して離れないよう強くしがみついた。
黒烏も玉蘭の膝と背中に回る手に力を入れ、彼女の額に口づけた。
「はい。姫さま」
月光降り注ぐ薄暗い部屋から、二人は姿を消した。
誰も知らない二人だけの世界を求めて……。




