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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
22/59


よく晴れた昼頃、黒烏と彗翔は内庭で自主訓練をしていた。


少し休憩しようと言い、竹筒の水を飲んでいる最中だった。



バンッと大きな音を立てて、応接間の扉が開いたのだ。


驚いて二人はそちらを振り返りこっそりと様子を伺った。



「ふざけるな!!この僕をこんな女と結婚させるつもりだったのか!絶対にしないからな!!帰るぞじぃや!!」


「お待ちください坊っちゃん!!」



歳は18ぐらいといったところだろうか。

育ちの良さそうな装いの青年と初老が出てきた。



今日は誰か客人が来ることになっていただろうか……?


二人がそんなことを考えながら、青年と初老を目で追っていると……



「お、お待ち下さい!!」



それを追うように念珠殿が出てきた。

青年を引き留めようと頑張る念珠殿の後に腕組みしながら出てきたのは玉蘭さまだった。



「念珠、帰りたいと言っているのだから帰らせてあげればいいのよ」


「姫さま!!」


ふんっ!と言うようにそっぽを向いた姫さまはとても機嫌が悪そうである。


「お前!何なんだよ!!その態度を改めろ!!僕を誰だと思ってるんだ!!」


繿家(らんけ)の三男坊でしょ?紹家よりも格下の」


「何ー!?お前なんか妾の子供のくせに!!」


「妾の子供だから何ですか?」


冷めた目の玉蘭に一瞬怯む青年は、キッと玉蘭を睨み彼女の垂れ髪を引っ張りあげた。


その光景に黒烏は飛び出そうとしたが隣にいた彗翔がそれを許さず、ずっと腕を捕まれていた。


「おい、何だよ離せ」


「まあ、もうちょっと見てよーぜ」


面白そうにそう言った彗翔の視線は玉蘭たちの方に戻り、それにつられて黒烏も視線を戻した。



髪を引っ張られて痛いだろうに玉蘭は一切表情を変えず目の前の男を睨み続けていた。



「なんだよその目!!お前なんか父上に言いつけてやるからな!!!」


「好きにすればいいわよ。自分で何も出来ない箱入り坊っちゃんの戯れ言なんてちっとも恐くないから」


暫くの睨み合いを終わりにしたのは意外過ぎる人物だった。



玉姉上(ぎょくあねうえ)、何してるの?」


興暿(こうき)


偶々、侍女と回廊を通りかかったのは今年十歳になった紹興暿であった。


「お兄さん、玉姉上に乱暴しないで下さい」


「何だよこのガキ!外野は黙ってろ!!」


「興暿、この方は頑固一徹で無知蒙昧なの。関わっては駄目よ」


「お前は何言ってんだよ!!僕の分かる言葉で話せ!!」


「あら、ごめんなさい。この程度の言葉も分からない知能だとは存じませんでした」


「はあ~!?」


姫さまとは何をしてるんだ……。


正直、黒烏も彗翔も勉はたたないので玉蘭が言っていることがどういうことなのか分からないのだが、兎に角状況的に相手を愚弄していることは分かった。


「で、お兄さんはどこの誰なんですか?」


「僕は繿家が三男の…!!


「あ、繿家の方なんですね。名前は言わなくていいですからお引き取り下さい」


「何だと!!このガキ!!」


「僕は紹家の次期当主です。お兄さんは上の人間への礼儀も知らないんですか?」



興暿に鼻で笑われ、怒りが限界を越えたのか青年はその場で地団駄し、ドスドスと回廊を歩き帰っていった。


その後ろを居心地悪そうに初老がついていった。



青年と初老がいなくなると興暿は満面の笑みで玉蘭に抱きついた。


「姉上!」


実は玉蘭と興暿は仲が良いのだ。と言ってもここ一年ぐらいで二人の仲が急激に良くなっただけで、それまで興暿にとって玉蘭は母を独り占めする忌々しい存在だった。


そんな興暿が玉蘭を好きになった理由は幼いがゆえにとても単純であった。


興暿は学問の才はあれど武道の才には恵まれなかった。


それが悔しくて興暿は臣下に指南を頼んだが、全く歯が立たなく、それを見た姉達は馬鹿にしたようにいつも彼を笑っていた。


そんな中でも玉蘭だけは真っ直ぐ興暿を見つめ、ピクリとも笑わずにいた。


姉達は一頻り笑い終わると飽きたのか、何処かに行ってしまい、臣下たちも仕事があるため行ってしまった。


興暿は明日こそは!と思い素振りをしようと立ち上がった時にまだそこに玉蘭がいたことに気づいた。


ただ無表情で何も言わない玉蘭に猛烈にイライラした。

玉姉上だって他の姉上のように腹の中では僕を馬鹿にしているに違いない。


『笑いたきゃ笑えばいいだろ……』


『何を……?』


『僕の事だよ!!ちっとも勝てなくて情けないだろ…これで名門紹家の跡取りなんだからさ……』


紹家には興暿しか男児は生まれなかったため自動的に跡取りは興暿に生まれる前から決まっていた。


『情けないなんてどうして思うの?わたくしは興暿はとても努力家だと評価しているのよ。それにとても強い子だわ』


『……え?』


思いがけない言葉に固まっていると玉蘭はそのときは初めて興暿に向かって微笑んだ。


『恥辱に負けず何度も立ち上がる強さを持ち、努力することを怠らないあなたは情けなくなんてないわ。とても素晴らしい人よ』


それまでよく知りもしないが、兎に角好く事が出来なかった玉蘭という人物はこんな人だったのか。



『あり…がとう…玉姉上……』


興暿は初めて誉められたことで照れくさくなり、俯いて玉蘭に顔を見えないようにした。


そんな事があって以来、興暿は玉蘭にとても懐き、それは最早恋に近いのでは?と思うほどに彼女を慕うようになった。






「姉上!!姉上!!」


グリグリと頭を玉蘭の胸に擦り付ける興暿に黒烏はドス黒い顔をした。


「あの、ガキ…」


「おい、ヤバイ顔してるぞ!!抑えろ!相手は興暿さま、玉蘭さまの弟だぞ!!」


彗翔が慌てて黒烏を宥めるも、目の前では依然として繰り広げれる姉弟の様々な感情入り交じる抱擁は続いている。


玉蘭的には可愛い弟が甘えてくれているという風にしか捉えないのだろうが、興暿の顔は性的な意味が含まれているとしか考えられないほどにニヤケている。


「いいなぁ~…弟だったら姫さまの巨乳に顔擦っても怒られないのか~」


彗翔が溜め息を吐きながら隣でポツリと言った。


「殺されたいのか」


黒烏の殺気だった声に迂闊なことを言った!と彗翔は冷や汗をかきながら明後日の方を見た。




「玉姉上、今度また経の手習いをしてよ」


「わたくしよりも母上や姉上たちの方が上手いわよ…?」


「僕は玉姉上に教わりたいの!!ね?お願い!」


クリクリの目を潤ませながらお願いされ、玉蘭は仕方なく頷いた。

興暿の「お願い」に弱い玉蘭なのである。


「やったー!ありがとー!玉姉上!大好き!!」


すかさず抱きつこうとする興暿を止めるかのように「姫さま!!」と内庭の方から大きな声がした。



玉蘭がそちらに向くと、そこには黒烏と彗翔がいた。



「黒烏!どうしてここにいるの!?今日は夜間警護ではなかった?わたくしてっきり今は寝ていると思ったから会いに行かなかったのに……」


「彗翔と自主訓練しようと言っていたので」


「そうなの。日頃の鍛練を怠らない。さすがわたくしの見込んだ男だわ」


「姫さま、俺もいるんですけど?」


「……彗翔も偉いわね」


「付け足しかん半端ないんですけど!!」



玉蘭の隣に立つ興暿は憎々しそうな顔をして黒烏と彗翔を睨んだ。


「玉姉上!もう行こ!!」


「ん?ええ。あ、待って興暿」


早く行こうと言う興暿を待たせ、玉蘭は黒烏の耳の近くに顔を寄せた。



「今夜差し入れに行くわね」


ニコリと笑って去っていく玉蘭から黒烏は目が離せなかった。


可愛い……。可愛い過ぎる……。


後ろ姿にさえ見惚れてしまう。


すると玉蘭が去った後に興暿が今度は黒烏たちのもとに来た。



「興暿、何をしているの?行くわよ」


「あ、姉上は先に行ってていいよ!僕の部屋で待ってて」


「分かったわ」


玉蘭は側で打ちひしがれていた念珠を抱き上げ、この場からいなくなった。


黒烏たちの前には興暿が回廊から見下す形で立っており、姉と話していたときに可愛らしい表情はなくなっていた。


「お前たち、まさかと思うけど俺の玉姉上に恋慕してたりしないよな」


一人称が僕から俺に変わっている……。

さっきまでのは仮面か……?


「ち、違いますよ興暿さま~そんなわけないじゃないですか~」


冷や汗をかきながら彗翔が否定すると、興暿は眉を寄せて気に食わないといった顔をしていた。


「もし万が一にも恋情なんて抱いたりしたら故郷に強制送還だからな」



それだけ言うと興暿は去っていった。



さすが澪鮮の子供なだけある。

本性を隠すのが上手かったな……。



「黒烏、お前の周りは敵だらけだな…」


苦笑いしながら彗翔が言うのに黒烏も苦笑いした。


「まぁ、元々承知していた事だからな……」



二人は訓練に戻る気になれなくて、切り上げて兵舎で眠ることにした。


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