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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
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最後の人


「そう……澪鮮さまが……」


黒烏は玉蘭に澪鮮が自分達の関係を良しと思っていないこと、彼女には玉蘭への異常なまでの執着があることを話した。


玉蘭は終始無言でただ黒烏の一言一言に相槌を打ち真剣な眼差しで聞いていた。


話を聞き終わった玉蘭はやはり悲し気に眉を寄せた。


「澪鮮さまはわたくしの育ての親だと前に話した事があったわよね」


「はい」


「あの邸でわたくしに優しさを…家族の情というものを与えてくれたのはあの方だけだったの…」


「姫さまの産みの親は…」


「紫瀾というどうしようもない女だったわ。会話をした記憶も無いほど関わらなかった」


「…………。」


「何度か顔を合わせはしたけど視界にすら入れてはくれなかったの。もしかしたら自分が子供を生んだって事も忘れていたのかもしれないわね」


笑いながらそう言うと、黒烏は眉を寄せ、苦し気な表情をした。



「そんな顔しないで。わたくしね酷い人なのよ」


「姫さまは俺の今までに出会った人の中で一番優しい方ですよ」


「ふふっ。本当に酷いのよわたくし。だって母上が死んでも哀しく無かったの。父上はとても哀しんでいたけれど、何がそんなに哀しいのか分からなかった」


「…………。」


「父上は言ったわ。『母親が死んだのに哀しくないなんてお前は獣以下だ』って。それなら獣でも子供を育てるのに実の娘のわたくしを育ててくれなかったあの人も獣以下ではないの?もし、あの時亡くなったのが澪鮮さまならわたくしはきっと涙を流して哀しんだわ」


「…………姫さまにとって奥さまは実の母同然なのですね」


「実の母以上の存在よ。あの方のためなら命をかけてもいいと思えるもの」



澪鮮が玉蘭を実の娘である姉たちや弟よりも大切にしてくれていることは薄々気づいていた。


前に澪鮮付きの侍女が話しているのを聞いたことがあった。


『奥さまは実の娘よりも玉蘭さまを優先している』


そんな馬鹿なとは思ったが、それを立証することがその後起きた。


澪鮮が玉蘭の手習いをいつものように見てくれいるとき、澪鮮付きの侍女が『興暿さまが奥さまを恋しがって泣いております』と言いにきたのだ。


玉蘭はまだ小さな弟が可哀想で『自分は大丈夫だから行ってあげて欲しい』と言うと澪鮮はニコリと笑い『玉蘭は本当に優しいわね』と言い、弟の元へは行こうとしなかった。

侍女が再度同じ事を澪鮮に言うも、澪鮮は何も聞こえていないかのように玉蘭の手習いを続けていた。


その時は不思議には思ったものの、大して気にはならなかったがあの時澪鮮が見せたそれが執着と呼ばれるものなら納得出来た。


「生まれてからずっとあの方に寄りかかって生きてきたわ。だからね。澪鮮さまにわたくしを育てる責任が自分にあるのだと思わせてしまった…」


「…………。」


「何もないの……あの方がわたくしに関することで責任を負うことは何も無いのよ」


優しい澪鮮さまは無意識の内に言っていたのかもしれない。


『わらわが側でずっと守ってあげる』


『わらわがついているわあなたには』


その言葉の数々が呪いのように自分に言い聞かせていたのかもしれない。


"玉蘭には自分がいなければいけないと"



「帰ったらわたくしの思っていることちゃんと澪鮮さまに言うわ。

澪鮮さまの本当の気持ちもちゃんと受け止める。きっとわたくしに本当の事を言えなかったのはそれを受け止めるほどの要領が無いと思ったからなのだろうから」


玉蘭は黒烏の肩に頭を預け、凭れかかった。


「わたくしはもうあの頃の虚勢を張るだけの子供では無いわ」


時間はどんなに願っても止まってはくれない。

澪鮮さまの見ている私はきっと黒烏と出会う前の全てを否定していた幼い私……。

誰かに守って貰わないと何も出来ない私……。



「俺には姫さまはいつだって強く見えました」


「え…?」


思いがけない黒烏の言葉に玉蘭は目を丸くした。


「初めて会った時から姫さまには誰かを守るほどの力がありました。俺はその強さにあの日救われたんです」


玉蘭の頬を撫でながらそう言う黒烏の瞳は仄かな熱を帯び揺れていた。


「姫さま…俺は運命だと信じています。あなたと出会ったこと…あなたと恋に落ちたこと…」


「わたくしも…信じてる……」


頬に触れる黒烏の手にそっと玉蘭は手を重ねた。


「誰のものにもならないで下さい……。俺には何も無いけれど生涯であなただけを愛します。だからあなたも俺をあなたが愛する最後の男にしてください」


欲しかった……ずっとずっとその言葉が……。


恐かった……黒烏がいつか私の知らない誰かを愛するそんな未来が来るのではと……。


「はい。この命が尽きるまであなただけを愛します」




これ以上無いほどの幸福が二人を包んでいた。








時間はどんなに願っても止まってはくれない。


その本当の意味を二人はまだ知らなかった。




この僅か六年後玉蘭は皇帝となった遊瑧に惨殺されることになる。



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