本当の想い
温かい……何かしら……。
規則的に聞こえる鼓動に安心感を覚えながら目覚めるとそこには彼の顔があった。
夢……?
「黒烏……」
私がそう言うと閉じていた瞼が開き、彼の瞳に私が映った。
「姫さま……良かった」
そう言うと私を抱き寄せて溜め息を吐いた。
パチパチと炉の薪が音をたてている。
ぼーとする頭が一気に活性化したのは彼の肩越しに見えた部屋の中央に吊るされた衣類を視界に入れた時だ。
やけに動きやすく直に肌の温もりを感じたわけだ……。
私も黒烏も裸なのだから……。
かろうじて大きめの着物が二人にかかっていて丸々見えているわけでは無いのが救いだけど……。
着物の下はお互い裸だという事実に恥ずかしさで顔があげられない。
彼に身体の隅々まで見られてしまったのか……。
私の反応が無いことに気づいたのか黒烏は不思議そうに覗き込んできたが直ぐに原因に気づいたのか離れていった。
「ひ、姫さま!!これはその……ちゃんと理由が……!!」
「分かっているわ。冷えた身体を暖めてくれたのでしょう」
「はい…すみません…」
「それよりここは……?」
「もう使われていない物置小屋みたいです」
「そう……」
黒烏はさすがに礼儀として下は脱がなかったようで上半身だけが露出しており初めて見る彼の裸に玉蘭は気恥ずかしさと嬉しさが込み上げていた。
だが同時に夕刻の事を思いだし、苦しくなった。
「黒烏…何故わたくしを捜しに来たの…」
名家の娘がいなくなったのだ。
臣下が捜すのは当たり前のことだ。
なのにこんなことを聞いてしまうのはまだ期待しているからなのか……。
「…………姫さまがいなくなったと聞いたので…」
当然の答えが返ってきて、玉蘭の瞳から珠の滴が零れた。
腕で顔が見え無いように覆うも流れていく涙は止まらない。
「姫さま……」
「神様は酷いわ……どうして黒烏なの…わたくしを見つけたのがあなたでなかったら諦められたかもしれないのに…」
「…………。」
「ねぇ……教えてよ…あなたがわたくしを見つけた事が運命でないというのなら何が運命なの…?」
あなたが言った"運命"は今の私たちのようなことを言うんじゃないの…?
「わたくしに…あなた以上の運命の相手がいるの…?」
涙混じりに言うとヒュッと息を飲む音が聞こえた。
「ねぇ!……答えてよ!!黒……ん…」
私の叫びを消すように塞がれた口は、黒烏のそれと重なっていた。
驚いて目を見開くと長い睫毛でかげになる彼の瞳とぶつかった。
息が苦しくなるほどの長い口づけは次第に深く甘いものになっていった。
「黒烏……」
「俺だって……俺だって思ってるよ!!」
悲痛なその叫びに玉蘭は初めて黒烏の心が垣間見えた気がした。
「どうして…どうして…俺じゃ駄目なんだよ……」
「何故……あなたが泣くの……」
黒烏の涙が玉蘭の頬を流れた。
「ねぇ、何があったの…どうしてわたくしに何も言ってくれないの…」
「姫さまが知れば……きっと苦しむと思って……」
黒烏は私の事を思って言わなかったのか。
自分を犠牲にしても他者を守ろうとする彼は出会った頃と変わらない。
裸だという事も構わず私は彼を抱き締めた。
「わたくしを気遣ってくれたのね……。ありがとう。でも、何も分からずあんな風に終わるのはもっと嫌なの」
「姫さま……」
「教えて…何があったのか。どんなことでも受け止めるわ」
自分を私のために犠牲にしようとしないで。
二人の未来の事なら二人で考えましょ。
「俺……姫さまにだけは嫌われたくないんです…」
「嫌ったりなんてしないわ。あなたに馬鹿女と言われても嫌いになれなかったのよ?」
ちゃかしたように言うと「すみません」と言う黒烏は少し可愛いかった。
「ねぇ黒烏。
今度こそ嘘偽りの無いあなたの言葉が欲しいの」
「はい…」
玉蘭は黒烏の目をしっかりと見ながら、言葉を紡いだ。
「わたくしを愛してる?」
「はい。誰よりもあなたを愛しています」
炉の炎に照らされた二つの影はゆっくりと重なった。




