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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
17/59

足取り


これで良かった……。


これで良かったんだよ……。


井戸場にしゃがみこみ、黒烏は声を殺して泣いた。


所詮奴婢の俺には彼女を不幸にはしても幸せにすることなんて出来ないじゃないか。


それに本当に知られたくないことを彼女に知られなくて良かったじゃないか。


自分の本当の姿を知れば彼女はきっと俺を嫌悪する。

それだけは嫌だ……。



彼女の絶望しきった顔が目に焼き付いて消えない。



『わたくしを人生の通過点にして……』


通過点なんかなわけがない……。


きっとこんなにも愛しいと思える人は後にも先にも出てこない……。



打ちひしがれていると、ザッと背後に何者かの気配を感じた。


振り返らなくても分かる。


鼻孔をかすめたこの香りは奥さま愛用の香だからだ。




「ご苦労だったな」



機嫌の良さそうな声で俺の肩に手を置いた彼女は朱色の唇を三日月型にし微笑んだ。




「わらわも人の子。お前の幼き頃の事は慈悲として言わないであげたのよ」



澪鮮は黒烏から手を離すと布巾でその手を拭きながら話し始めた。



「玉蘭ととても相性の良さそうな良家の方を見つけたのよ。今度邸に招くつもりじゃ。知もあり権力もある素晴らしき方よ。」


澪鮮のその言い方は"お前に無いものを全て持っている"と言いたげであった。



「約束通りこのまま邸を出ていかなくていいわよ。その代わりあの子に二度と近づくな」




それだけ言うと澪鮮は去っていった。




黒烏は何も考えられなくなり、ただただその場にひれ伏すしかなかった。







兵舎に戻ると皆身支度をし、今から何処かに出かけるようだった。



「黒烏!!お前何処でなにやってたんだよ!!」



唖然とする俺に彗翔が掴みかかり怒鳴った。

何かあったのかと問えば隊長が来て、面倒くさそうに事情を話してくれた。



「四の姫さまの姿が邸中捜したが、いないそうだ」



血の気が退いていった。


夕暮れの事があった後だ。

それに外は嵐だ。野犬には遇わないにしても土石流に巻き込まれない保証はない。



「門番は……門番は何をしてたんだよ!!」


俺が怒鳴ると、俺が昔庇ってやった後輩の兵が萎縮するように柱のかげに隠れた。


近づき、胸ぐらを掴みあげると顔を青ざめさせて震え出した。



「まさか…四の姫さまだからどうでも良かったとか言うんじゃないだろうな!!明らかに様子がおかしかったんじゃないのかよ!!」


「よ、四の姫さまなんて…旦那さまや姉姫さまたちにも疎まれていなくなったところで誰も困らないだろう…」


震えながらも必死に笑うようにそう言った男に怒りがこれ以上無いほど込み上げ、そのまま力の限り殴り捨てた。

床に倒れた男は歯と血を吐き、伸びてしまったのか白目をむき動かない。


それでも納まらない怒りを更にぶつけようとすると、彗翔に腕を捕まれた。



「おい、そんなことしてないで捜しにいくぞ!お前が捜さないでどうするんだよ!!」


彗翔の言葉に我に返り急いで支度をして、豪雨の中に繰り出した。





「俺は川の方を捜すからお前は市街を捜せ」


彗翔の言葉に頷き、声を張り上げながら走った。



嵐は更に酷くなり、目を開けているのもつらくなるほどに雨が叩きつけてくる。


人っ子一人いない路を歩きながら考えるのは姫さまに言った言葉の数々だった。


恐かった……あんな言葉が最後になってしまうのではと思うと、後悔で頭がぐらぐらした。



市街を抜け、森の入口に差し掛かり、引き換えそうとしたときだった。


泥の中に落ちている高価な耳飾りが視界の隅を掠めた。



「!!これっ!!」


姫さまがいつだったか奧さまに貰ったと嬉しそうに言っていたものとそっくりのそれを手に取り、雨で洗い流した。


「やっぱり……」



姫さまの物だ…………。


耳飾りを握りしめ、闇深い森の中に進んだ。



何度も彼女の名前を叫んだ。


脚に泥がまとわりつき、重量を増した脚が進もうとするのを阻む。



声も掠れて降りつける雨音にかきけされていたが叫び続けた。


一瞬でもいい。彼女にこの声が届けば……。



どれくらい進んだのか、分からなくなるぐらい経ったときだった……。



太い木の根本に横たわる朱色の何かがみえた。



走って近寄り抱き上げた。

酷く冷たくなった頬に手をそえれば反応が無い。


急いで手首を触り確認すると、まだ脈打っていることが分かった。




「姫さま……姫さま……」



生きていた……良かった……良かった……。



気休めにしかならないと思いながらも、雨に濡れた羽織を玉蘭にかけた黒烏は彼女を横抱きにし、立ち上がった。


この嵐のなか真っ暗な森をうろつくのは危ない。



ここに来る前に家が見えた。

そこに一旦避難させてもらおう。



黒烏はぐったりとする玉蘭を抱える手に力を入れ、再び走り出した。





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