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後宮恋物語  作者: あいまいみー
第一章 出逢い
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告白


「姫さま、どうですか?」


「うん。ありがとう」



夕暮れになり楽器の稽古を終え、自室に戻ってきた玉蘭は然程崩れていないだろう髪を結い直して欲しいと念珠に言った。


どうしたのかと思いつつもボロボロの簪を取り、髪に櫛を通した。

結っている間もそわそわする主を見てやっと察しがついた。



「坊やに逢いに行くのですね」


鏡越しにニヤリと笑った念珠に玉蘭は顔を真っ赤にした。

いつもならこんな風にならない玉蘭がどうしてこんなにも落ち着かないのかというと、二人きりで会うのは久しぶりで、尚且つ今日は自分の誕生日だからであった。




『玉蘭さま、澪鮮さまより贈り物でございます』


朝、部屋から出ると澪鮮さま付きの侍女が私に跪いて綺麗な装飾のされた耳飾りを渡してきた。


それを受け取り、澪鮮さまのもとへ走って向かった。



『澪鮮さま!』



後ろから声をかけると私の方を振り返り優しい笑顔が迎えてくれる。



『ありがとうございます!こんなに綺麗な耳飾り…ありがとうございます!』


『本当は簪にしようかと思ったんだが、玉蘭は耳飾りを持っていなかった気がしたのよ。なら持っているものより違うものをと思ってね…それに簪が欲しいならわらわの物をあげるしな』


ほれ、貸してみと言い、澪鮮は玉蘭の耳に飾りを着けてあげ、侍女に持ってきて貰った鏡で玉蘭の姿を写した。


『よぅ似合っとる』


玉蘭は自分の耳朶から垂れる朱を基調とした飾りを見て、また一つ大人に近づいた気がした。



気分良く回廊を歩いていると、柱の影から姫さまと話しかけられ見てみると、そこには黒烏がいた。



『おはようございます。耳飾り…奥さまからですか?』


『ええ。どう?』


『とてもよく似合っていますよ』


『ありがとう!ところであなたそこで何をしているの?』


『姫さまを待っていました』


『わたくしを?』



不思議に思いながら近寄る。



急にガシッと腕を掴まれドキリとし顔を上げると、黒烏の顔が間近にあった。



『今夜俺に時間をいただけませんか』


『…いいけど…どうし………あ!逢引ね!』


『……ま、まあそんなとこです…』


『分かったわ!東の庭園の池で待ち合わせましょ!近頃幽霊が出るらしいって、皆近づかないのよ!』


『わかりました。それでは失礼します』








以上が朝の出来事である。



「そうだったんですね」


「澪鮮さまから貰った耳飾りもつけてね念珠!なるべく綺麗に見えるようにして欲しいの!」


「はいはい。分かりました」



小さな頃から面倒をみてきた主人の恋を念珠は微笑ましく見ていた。


いつ頃からか姫さまは醜女だの美人になりたいだのと自分を否定するようなことを言わなくなった。

それが黒烏という一兵の青年との出会いによっての影響だということも察しがつく。




支度が終わると玉蘭は念珠を振り返り、抱きついた。


「いつもありがとう念珠。わたくしの数少ない味方でいてくれて」


「姫さま……」


念珠は失礼を承知で玉蘭の背中に手をまわした。


目頭が熱い…。



念珠には昔、夫と呼べる人物がいたが、酷い暴力を振るう男だった。その結果身体の中の臓物がいくつか使い物にならなくなり、子供を生むことも出来なくなってしまった。

その男とは離縁したものの、新たに念珠を娶ってくれる家は出てこなかった。子もなせず、不良品ばかりの身体の女など誰も興味を示さないし、必要としてくれなかった。

すべてに絶望しいっそのこと死んでしまおうかと濁流する川岸に立ったその時だった。


嵐でどこかからか飛ばされてきたであろうその紙には名家、紹家で新たに侍女を雇うということが書かれていた。


どうせ行く宛も無いのなら、やってみようと思い応募すると、天が味方してくれたのか雇用されたのである。


紹家には四人の姫がいたが、そのうちの末の姫は生まれたばかりだというのに誰も世話係がいなかった。

母親である女性も赤子が泣けば、赤子を部屋の外に出し、放置。

たまたま通りかかった奧さまが大慌てで抱き上げ、おしめを変えてやるなどをしていた。


二の姫さま付きの侍女をすることになった後も度々そのような場面に遭遇した。



この家で四の姫さまだけは特別虐げられる存在だった。



四の姫さまが三つになる頃だ。


回廊を歩いていると、その先に四の姫さまが庭を眺めながら立っていた。


華奢なその身体は力なく見え、庭に向けられる視線は虚ろで何も見ていないようだった。



ちゃんと食べているのかしら…。

四の姫さまにはまだ侍女がいないと聞いた。

なら誰が彼女の部屋まで食事を運んでいるのだろう。


可哀想に……

誰でもいいから侍女になってあげればいいのに…


そんなことを考えた。




その夜食堂で他の侍女たちと四の姫さまについて話した。


『四の姫さまの侍女なんて絶対に嫌だわ!だってこの前だって四の姫さまの吐いたものを仕方無く掃除してあげようとしたら、触らないで!!とか言われたのよ!!まぁ、その後自分で片付けてくれたから、服が汚れなくて良かったんだけどね』



若い一の姫さま付きの侍女がそう話すのを聞いて、他の侍女たちは言いたい放題に四の姫さまを罵っていった。


私は一人黙っていた。

四の姫さまは侍女の服が汚れることを心配して触るなと言ったのではないの?

他の者も吐瀉物を片したいとは思わないだろうからと自分で片付けたのではないの?


どうして誰もあの弱々しい少女の優しさに気付かないの?



その時昼間の事を思い出した。


可哀想に……

誰でもいいから侍女になってあげればいいのに…




ならどうして私はなって差し上げないの…。

可哀想とかそんな風に上から物言う資格私には無いだろうに。

きっとこの場にいる侍女や主である姉姫さまたちよりも純粋で他人の事を思いやる心を持ち合わせているだろう……。



彼女と比べて私はどれだけ愚かで汚い存在なのか思いしらされる。


まだあんなにも小さいのに必死に立ち上がろうとするあの子を私が支えないと……。

いつかの私のように絶望して命を落とそうとしてしまうかもしれない……。

他人から必要とされない、いなくていいと思われるつらさを知っている私が…私だからあの子を救ってあげられるのではないかと思ったのだ。







「それじゃあ行ってくるね」


「あ、姫さまお待ち下さい」


部屋を出て行こうとした念珠に引き留められ振り替えると腕に何かを付けられた。



「これ…」


「姫さま…お誕生日おめでとうございます」



それを聞いた玉蘭の眼には涙がたまっていた。



「ほら、姫さま。折角お化粧直しもしたのですから泣かないで下さい」


「…うん…。ありがとう!念珠」


もう一度念珠に抱きつき、玉蘭は部屋をあとにした。











「黒烏…いる?」


逢引なので目立たないように提灯を持たないで東の庭園に行くと暗がりにうっすらと人影が見えた。



「姫さま…」


「ごめんなさい。待たせてしまって」


「いえ、そんなに待ってないですよ」



愛しい声に二人は自然と身体が惹き付けられ抱き合った。

心地よい心音が鼓膜を刺激する。

暖かい体温が自分を包んでくれていることに何よりも安心した。




全身が愛しいと言っているように感じてしまうほど私は彼に溺れている。





「姫さま…あの…これを…」



暫くの抱擁の後、黒烏は懐から小さな箱を取り出した。

薄汚れて、白い箱だったのだろうが煤色になっていた。



「これは…?」


「その…姫さまのお持ちになっている物には遠く及ばないのは重々承知なのですが、どうしても何かを送りたくて…」



箱を開けるとそこには簪が入っていた。



「……お誕生日おめでとうございます」



私はそんなに良いものを持っていないけれど、この簪が一兵の給金で簡単に買えないことは分かる。



目尻に溜まっていた涙が筋を造り、輪郭をなぞって流れた。


私が泣いていることに気づいたのか黒烏はどうしようかと慌てていた。



「ひ、姫さま…やっぱりいらなかったですか…?」


「嬉しい……嬉しくて泣いているの…。わたくし…こんな果報者でバチが当たらないかしら…」



玉蘭は黒烏から貰った簪を大事そうに握り、黒烏の胸に抱きついた。


胸のなかで静かに泣く玉蘭に愛しさが溢れる。


黒烏はそっと大事なものを包むように彼女を抱き締めた。



「挿してくれる?」


「はい」



簪を受けとると黒烏は綺麗に結われた髪に刺さっているボロボロの簪を抜き、手に持っているものを挿した。


玉蘭が身につけていた簪はボロボロではあるが、とても高価な物ということはその重量が証明している。



「どう?似合う?」


「そうですね。似合ってはいませんね」


予想外の返答にムッと膨れると、黒烏は続けて口を開いた。


「姫さまは高貴な方です。決してこんな安物が似合うはずありません」


前に垂らしてある髪を一房手に取り口付け、情けな気に眉を寄せた。


その言葉を聞いた玉蘭は自分の髪を触る黒烏の手をパチンッと叩いた。


「何が安物なのですか!黒烏、あなたこの簪の価値が分かっていないの?」


「価値…と言いましても…姫さまが元より着けていました物より多分に劣ります」


「値段の話では無いわ!あなたがわたくしを想って贈ってくれた事がこの簪の価値を何よりも上げているのよ」


「姫さま……」


「他の誰でもない……あなただったから……」



玉蘭は黒烏の両の手を取り、彼の顔を見上げた。





「あなたを愛してる」





瞼をそっと閉じ、重なった唇は夜の空気で冷たく、涙の味がした。




ボキャブラリー不足をどうにかせねば……。

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