親友
「はぁ~…黒烏、今日もそれしか食わないのかよ。ほら、俺の饅頭やる」
黒烏の兵仲間で同郷の彗翔は呆れ顔で横に座った。
紹家の使用人は自分の食事は貰った給金で支払わなければならない事になっている。
そしてここ半年、黒烏はある目的のために食費を出来る限り浮かして貯金しているようだ。
お陰で腕などが細くなったように見える。
「別にいい。堪えられなくなったら、その辺の草でも食べる」
「いや!草なんかじゃ、ぶっ倒れるぞ!」
「子供の頃一月ぐらいそれで乗りきった。それに今日でこの生活も終わりだからもうどうでもいいだろう」
「まあ、そうだけどさ…」
今日午後から非番の俺らは久しぶりの休日を市街で買い物をしようと約束していた。
と言っても、別にそんなに金を持っているわけではないので、安物を物色しに行くだけなのだ。
俺は実家の妹に人形でも買おうと思っていたのだが、黒烏は今までのように故郷に送るものだけでなく、他にも買いたい物があるようだ。
「先に舎に戻って支度してるから、さっさとしろよ」
少なすぎる昼食を終えた黒烏は食器を片付けるとさっさと出ていってしまった。
あいつの隠している秘密を知っているのは仲間内でも俺だけである。まぁそれも仕方なくといった感じで教えて貰っただけだ。
事は先々月ぐらいだったか…。
その日俺は夜間の見張り当番のために、舎で仮眠をとっていた。
巨乳のお姉さんたちに悪戯される幸せ過ぎる夢をみていると、一気に現実に戻される程の痛みが頭に走った。
「ッッッッッた!!!」
「おい、起きろ」
頭を抑えながら起き上がると、そこには見目麗しい美青年が俺を見下ろしていた。
男色の気があるやつなら一発で落とせそうな程の見た目のこいつは黒烏という。俺の幼なじみで、実家も近所だ。
貧窮した村に仕送りするために都まで共に出てきた。
俺にはかなり冷たく当たるが、周りにはかなり優しい。
「…あ?黒烏、何だよ」
「今日の夜間警護お前だったよな」
「そうだけど…?」
「今夜、出かけるが他言無用にしてくれ」
何でと言うと、言いたく無さそうな顔をした黒烏にはは~んと察しがついたような笑みを浮かべてやった。
「お前たまーにひょっこり姿消す事があったけど、外に恋人でも出来たんだろ」
「……は?」
「いや、皆まで言わないでいい。俺は嬉しいよ。お前は女に言い寄られたりしても、ほぼ無視だったから男色家なのかと思ってたからな。しかも俺にだけ態度が違うから俺の事が好きなんじゃないのかと思ってたんだよ」
立ち上がりぽんぽんと肩を叩くと、鋭い眼光で睨まれ、額を思いっきり殴られた。
「仮に俺に男色の気があったとしても、お前だけは相手に選らばないし、外に恋人もいない」
本気で殴るなよ…。
細いわりに鍛えてるから力強いんだよなこいつ…。
「じゃあ、何しに外出すんだよ…」
「…ホタルを観に行くんだよ」
「は?ホタル?」
そういえば前にホタルがいる池の話をしたことがあったな。
でも、あのあとこいつ一人で観に行ってなかったか?また行くのか?
「ホタルそんなに好きなのか?」
「別に。ただ観せたい人がいるだけだ」
観せたい人?
恋人いないとか言って嘘だろ。
「女だろ」
「……。」
「何だよ。外じゃ無いってことは中か。翠華さま付きの侍女か?あの方の周りは美女ばかりだからな~。しかも、お前を見かけるとキャーキャー騒いでたし」
「……違う」
「はぁ?じゃあ誰だよ」
めんどくさそうにガシガシ頭を掻いていると、黒烏は何かを呟いた。
「あ?聞こえねーよ」
そう言った俺に掴みかかった黒烏の顔は今まで見たことの無いものだった。
「玉蘭さまだよ!!」
耳まで真っ赤になるこいつは誰だ……。
俺の知っている黒烏はどこにいった……。
「じゃ、言ったからな。誰にも言うなよ」
はとが豆鉄砲くらったような顔の俺を残して、黒烏は舎から出ていった。
そんなことがあり、四の姫さまと幼なじみの逢瀬を手伝った門兵とは俺であった。
どういった経緯で知り合い、そんな関係になったのかは知らないが、俺が知る限り幼なじみの初恋なのである。応援しないわけが無いだろう!!
「おー!兄ちゃん!金貯まったんかい?」
市の簪屋に行くと店主の親父が店から顔を出した。
「ああ。簪を受けとりたい」
巾着から銭を取り出し、渡すと親父は「ひ、ふ、み……」と数え出し、黒烏はその間に箱を開け、傷などが無いか確認していた。
「はい。丁度ね!毎度!奥さん喜んでくれるといいな!」
会計が終わり、店をあとにすると、一緒に来ていた彗翔の元へ向かった。
「簪ねぇ~」
ニヤニヤ意味ありげな表情の彗翔は一回や二回殴ったぐらいでは変わらないだろうと黒烏は思った。
「なんだよ」
「いや~、わざわざ取り置きしてもらっておくなんてよっぽど欲しかったんだな~と思ってさ~。な~んでそんな欲しかったわけ~?」
「……姫さまの誕生日が近いんだ」
照れ臭そうに言う黒烏を不覚にも可愛く見えてしまった。
「え、そうなの?そういえば紹家は玉蘭さまの誕生日は祝ったことねーな」
旦那さまや奥さま、玉蘭さまの姉姫さまたちの誕生日には盛大に宴を開くが、玉蘭さまを主役とした宴会は無かった気がする。
「旦那さまが必要無いと言って行わないそうだ。贈り物も奥さまか侍女の念珠殿だけかららしい」
「なるほど~。噂通りの疎まれ姫なのか~」
俺の言葉にカッとなったのか勢いよく胸ぐらを掴まれ黒烏の顔が間近まで寄った。
「姫さまは…!!」
「そうキレんなよ。お前が惚れるってんなら、それだけあの姫さまはいい女だってことだ。俺は親友の目を疑ったりしてねーよ」
無言で俺から手を離した、黒烏は先程買った簪をじっと見つめた。
「綺麗な簪を贈りたいと思って銭を貯めて買ったが、本当はこんな安物…姫さまには合わないだろう」
名家のご息女だからな……。こんな市場の安物よりも良いものを着けているんだろうなとは想像できる。
「それでも姫さまきっと喜ぶだろうよ。何せお前がくれた物なんだからな」
二人が邸を抜け出したあの夜、チラリと見えた姫さまの視線は一瞬たりとも黒烏から外れることは無かった。それが何よりの証拠である。
「……ああ。ありがとな彗翔……」
夕焼けに照される黒烏は酷く悲しく見えた。
俺は応援し続けるよ。それがどんなに叶わない恋をしているのだとしても。




