ホタル
ブックマークありがとうございます(^^)
話は思いついたら書いてるので、トントン拍子で登場人物の感情が変わります!自分で書いてて「展開速すぎワロタ」と思うことが沢山ありますが、これからもよろしくお願いします!
月日は流れ、5年が経った。
九つだった玉蘭は十四になり幼さを残しつつも、確実に女性へと変わりつつあった。
「うーん…また大きくなった…?」
姿見で自分を見ながら念珠に尋ねるとそうですねと返ってきた。
「紹家の姫さま方の中で一番大きいのでは?」
「やっぱり念珠もそう思う?もう、成長しなくていいのに…」
「何を言うんです姫さま!女性であるかぎり、小さいよりは大きい方がいいに決まってます!」
「でも~、肩凝るし…」
身体というのは不思議だと玉蘭はこの頃思っていた。
特に凹凸の無かった身体は綺麗に括れていて、胸と腰を際立たせ、絶壁状態だった胸は形よく膨らんでいる。
「姫さま。本日はこちはの深衣でよろしいですか?」
「ええ。ありがとう念珠」
念珠に頭を綺麗に結ってもらい、ボロボロの簪を挿した。
白粉と紅も引き、金木犀の香をつける。
「とても美しいですよ!姫さま!」
珍しく着飾った自分はなんだか恥ずかしいけれど、今日だけはどうしても綺麗な姿を見て欲しいと思ったのだ。
「坊やもきっと姫さまに見惚れますわ!」
「だといいのだけど…」
今日は黒烏とお忍びで夜に会う約束をしたのだ。
私も年頃の娘だし、もしかしたらもしかするかもしれない出来事に備えて、湯浴みは念入りにしたし、月のものもこの前終わったし、黒烏が好きだと言っていた金木犀の香りの香も付けたし!
今夜は新月だが空には幾万の宝石たちが輝き、とてもいい雰囲気だ!
準備が終わると念珠を下がらせ、暫く待った。
日付が変わる頃に部屋の扉を叩く音がした。
「姫さま、お待たせしました」
声が聞こえ、跳び跳ねながら扉を開け、目の前にいる男に抱きつく。
「待ちくたびれたわ。さ、行きましょ!」
「はい。お手をどうぞ」
そう言った黒烏の掌に私の手を重ね、二人こっそりと馬小屋に向かった。
う、馬小屋でするの!?
と、内心驚きを隠せなかったが、私の考えがいかに馬鹿だったのかを痛感させられた。
馬小屋から出てきた黒烏は手綱を持ち、我が家で最も脚の速い馬を連れてきた。
その姿に拍子抜けしてしまい、目を剥いていると、黒烏は不思議そうに小首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「へっ!?い、いえ!!何ともないわ!行きましょ!!」
「え、姫さま何でちょっと怒ってるんですか」
「何でもない!!早くなさい!!」
黒烏に抱っこしてもらい馬の上に乗ると思ったよりも高くて、腰が退けてしまった。
続けて乗ってくる黒烏の背中にガッシリと抱きつくと、前からふっと笑い声が聞こえた。
「…今…笑った…?」
「笑ってませんよ…フフッ…」
「やっぱり笑ってるじゃない!!」
「ハハッ!だって…姫さま…怖いんですか?」
馬鹿にしたように私に言った黒烏の背中を軽く殴ってやった。
「イタッ!!」
「わたくしを馬鹿にした罰よ!!」
玉蘭は殴られても嬉しそうに笑っている黒烏を見ながら、黒烏って痛くされると嬉しくなる性癖の人なのかしらと少し引いた。
門兵は黒烏の友達らしく、話を通していたようで難なく出ることができた。
他愛ない話をしながら、馬の蹄の音と夏の夜の風を感じて眼を閉じていると、どこかに着いたのかその両方が止んだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
差し出された手を取り、馬から降りると、そこは森のようだった。
薄暗く今にも幽霊や獣が出てきそう……。
黒烏は馬の手綱を木にかけると、私の手を取り森の奥へ進んで行った。
「姫さま、ここからは眼を閉じていてもらえませんか?」
「眼?これだけ暗いのだから開けてても変わらないでしょ?」
「いいから、瞑ってください」
仕方なく黒烏の言う通りに閉じる。
一気に暗さが増し、外界からの情報が聴覚に集中しいろんな音を拾ってしまう。
そのことで更に怖くなり、黒烏の腕にしがみつきながら進んだ。
急に立ち止まった黒烏を不思議に思ってあると、何かに脚を引っ掻けたようで彼に向かって倒れてしまった。
「大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい!大丈夫よ!」
ビックリして眼を開けるとそこには光の世界が広がっていた。
点いてはは消えて点いては消えてを繰り返す無数の微光……。
「これは……何…?」
「ホタルを見るのは初めてですか?」
「ホタル……?この光が……?」
指に止まった小さな光がほんのりと点滅する。
文献では読んだことはあったけれど、私の想像より何倍も美しかった。
「初めて…凄い…こんなに綺麗なんて思わなかった…」
「仲間にここにホタルがいるって聞いて来てみて初めて見ました。俺の故郷は渇れ果てた土地だったので」
「そうなの…。わたくし、あなたの故郷に行ってみたいわ!」
「ハハッ、姫さまには都の方が合っていますよ。何でもありますから。俺の故郷は本当に何も無いんです」
「あら、何もなくないわよ。あなたの家族がいるじゃない」
「家族ですか…?」
「そうよ。それにあなたという人を育んだ空が自然があるじゃない。十分過ぎるほどいろんな物があるわ」
「ですがかなり遠いいですし…」
「あなたはわたしくしを導く風なのでしょ?山の向こう海の先へ行けるなら、あなたの故郷まであっという間よ!」
今夜の玉蘭はいつにもまして美しくて、緊張していたのに、こんな風に嬉しくなることを言われると歯止めが効かなくなりそうだ。
黒烏は転んだときのままの態勢だった事に気づき、離れようとする玉蘭の腰を引き寄せ、抱き締めた。
彼女は突然の事に一瞬身体を強ばらせたが、そのあと俺の背中に手をまわし、優しく抱き締め返した。
気持ちを口に出来ないのは俺たちには身分という越えることの出来ない壁があるからだ。
お互いの気持ちが通じあっていることは分かっていても口には出せない。踏み越えてはならない線がそこにはある。
いつか彼女はその身に相応しい人と結婚するだろう。それが名家に女として生まれた彼女の役目なのだ。
「ねぇ、知ってる?ホタルは成虫になってからは水しか飲まないんですって」
「そうなんですか」
「幼虫の間に蓄えた栄養だけで生きるの。でもそれもすぐに尽きてしまうそうよ。」
「儚いものですね。こんなに綺麗なのに…」
「そうね。でも、羨ましいわ…」
「…どうして?」
背中に回る腕に力が入った。
何処にも消えないで欲しい言うように。
「このホタルたちは番を見つけて、子孫を残すと死んでしまう。一生に一度だけの恋をし、結ばれて死ねるのよ」
「………。」
「愛しい人に愛されたまま死ねるなんてとても羨ましいわ…誰のものにもならないで、恋した人だけの自分でいられるのだから…」
どのくらいの時間そうしていたのだろうか。
ホタルたちがその命を燃やし、恋をする中で玉蘭と黒烏はいつまでも抱き合っていた。
「このまま時が止まれば…わたくしだけのあなたなのに…」
「姫さま…」
そうですね。
あなたを今殺してしまえば誰のものにもならないで、ずっと俺だけのあなたでいてくれる…。
スッと身体が離れると、悲しそうな彼女の顔がそこにはあった。
「帰りましょ」
「…はい」
帰り道、俺たちは何も話さなかった。
ただ背中から感じる温もりだけをずっと感じていた。




