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はじまり
それは遠い記憶ーーー…
日差しの強い庭に跪いて私を見上げる一人の男。
『失礼ながら私は姫様は“クモ”の様な方だと思います』
『蜘蛛?わたくしはあんなに脚は無いわ!』
『ち、違います!空にある雲のほうでございます。』
空の…あの白い…?
『な、何故?』
『風に導かれ、山の向こう海の先、どこまでも自由に流れ行く雲に似ています』
大きく開かれる眼。
心が揺れる。
気持ちが溢れる。
『なら、お前がわたくしの風になってくれるか?』
わたくしをどこまでも導く、わたくしという雲に寄り添う風にお前はなってくれる?
少し驚いた顔をし、真剣な表情の彼は
『はい。あなただけの風になりましょう。』
私の手に口づけをし、恥ずかしそうに笑った。