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二話「思いと力」

 タウスさんが、去ってから数日。

 特に何事もなく、いつものように働いては祈る。そして、寝る。という生活が続いていた。

 そして、いつものように畑の野菜の世話をしている時。それは起こった。


「た、大変だ!ヘビーボアの群れだっ!」


「ヘビーボア」それはイノシシのような魔物で、ランクとしてはCランク。

 衛兵レベルのヒューマンが5人がかりで一体倒せる程度の魔物だ。

 ちなみに、ランクは下はDまでで上はAまであり、ひとつ上がるにつれて必要な衛兵の人数が5人ずつ増えていく。

 また、災害級と呼ばれる人類には手に負えないランクの魔物もいるが、その話はまた今度にでも。

 まあ、兎にも角にもそんなCランクの魔物もの群れが出現した。

 Cランクの魔物の群れとなるとその危険度は規模にも夜がBランク。村人達でなんとかなるようなものでは無い。


「どうするんですかっ!?」

「群れの規模は!?」

「群れの距離は!?」

「どこに逃げればいい!?」


 唐突のヤンマの報告に次々と村の者たちが思い思いに声を上げる。

 これはまずい。みんなパニックになってしまっている。


「落ちつけぃっ!!」


 皆が右往左往していると、村長が大声で、叫ぶ。


「国への要請はいましている途中だ。そして、魔物の距離は?」


 村長が尋ねると、ヘビーボアの群れを見つけてきたヤンマが答える。


「ここから20キロくらい先だ。明らかにこの村に向かって走ってきてただよ」


「ふむ、では群れの規模は?」


「10頭弱だよ」


「そうか、なら国から衛兵が来るまでは持ちそうじゃの。よし、皆は村の中央にある集いの館まで集まれ。そこなら石造りだから安全じゃろう」


 村長がそういったと共に次々と村の者が集いの館へと向かいだした。


「リーク。俺達も行こう」

「あ、父さん」

「ちょっと待ってて、取ってきたいものがあるから」

「取ってきたいもの?」

「うん」


 何故かはわからない。でも、なぜだかあの魔導書が必要な気がする。

 根拠のない不安が自分の中で渦巻く。


「…………まあ、いい。あと1時間程度は時間があるだろう。早く来るんだぞ」

「ありがとう」


 僕は巻物を取りに駆け出した。


 *


 巻物を取って集いの館へと、入ると、中は騒然としていた。

 人が集まったからかもしれないが、人数は20人程度。ここまでとザワザワはならないはずだ。


「何かあったの?」

「あ、お兄ちゃん。あのね、国の人が協力してくれないんだって。村長さん達がものすごく怒ってるの」


 国が協力してくれない。見捨てるというのか。

 確かにこの国は度重なる戦争で財産が少ないのは知っている。

 だが、衛兵を派遣する程度は出来るはずだ。

 税を搾り取るだけ搾り取っていざ、危険になったら見捨てるというのか。

 ふつふつと怒りが湧いてくる。


「…………お兄……ちゃん?なんか怖いよ?」

「ああ、ごめんな。大丈夫だ」


 いけない、顔に出ていたみたいだ。ミーゼには心配をかけないようにしないと。


「みんな、聞いてくれ。結論から言うと、衛兵の要請は断られた」


 皆が騒ぎ出す。


「落ちつけぃ、落ち着いてくれ。そこでだ、皆の中から魔物と戦うものを集める。メンバーは_____」


 メンバーは男性陣が戦場に出て、残りは集いの館で待機。

 最初の戦うメンバーが負けた場合のために、集いの館にも何人かいるのではという意見が出たが、どうせ最初のメンバーが負ければ後ろのメンバーも勝てはしないということで却下された。


「リーク。その巻物は置いていけ。邪魔になるだけだろう」

「あ、うん」


 父さんに言われた通りに魔導書をおこうとしたが、そこでふとタウスさんが言っていたことを思い出した。

 もしかして、タウスさんの言っていたのって今日のことなのではないだろうか。

 もしかしたら違うかもしれない、でも今能力を手に入れていて損は無いはずだ。

 そっと魔導書に手をかける。

 そして、鍵を外しておもむろに魔導書を開いた。

 その瞬間、魔導書が強い光を放ち目の前が白く染った。




 ____どこだ、ここは。


 目を開けるとそこは見たことの無い場所。

 見渡す限り白い。

 壁や地面があるわけでもなくただただ白い。


『よく来たのお、王の卵よ』


 聞いた事のある声。

 声の方を向くとそこに居たのはタウスさんだった。


 ____タウスさん!?何してるんですか?ここはどこですか?王の卵ってなんですか?


『わしはタウスでは無い。あと、質問の答えじゃが、それはお主が行くべき道を進めば時期にわかる事じゃ』


 ____タウスさんじゃない?じゃあ、あなたはなんなんですか?


『わしは、そうじゃのお。強いて言うならば…………いや、やめておこう。それも時期にわかる事じゃからの』


 ____何も答えてくれないんですね


『すまんのぉ、わしからは今はなんとも言えんのじゃ』


 ____まあ、いいです。それであなたと僕はなんのためにここに居るんですか?


『ああ、それか、それはお主が手に入れる能力のことじゃ。今からお主が手に入れる能力の名は感情(エモーション)。お主の思いに応じて力を強化する能力じゃ』


 ____なんか、よく分かりませんが、とりあえず強い感情を持てばいいんですね。


『ああ、そうじゃ、憎しみでも喜びでもいい。一定以上の感情の増幅が見られた時に発動する』


 ____分かりました。ありがとうございます


『ああ、王の卵よ。力をつけろ、そしてこの世をお主の思うように導け____』




 視界が元に戻る。今のは幻覚か、開かれた魔導書が手に残るばかりで自分の体にはどこか変わった感じもしない。


「おい、リーク。さっさと行くぞ」

「あ、うん。分かったよ父さん」


 そう言えば、一定以上の感情の増幅が見られた時に能力が発動するとか言ってたから何かを考えると発動するのだろうか。

 それなら、納得がいくが、もしかしたら今のはただの幻覚で魔導書も偽物の可能もある。

 だが、タウスさんのことを信じていない訳では無いが、魔導書の能力も当てにはしていなかったので落ち込むようなことは無かった。


「よし、お前ら聞け。あと5分ほどで奴らは来るはずだ俺らが倒れれば村の奴らは全滅だ気合い入れていけっ!」


 村の入口まで来ると、村一番の力自慢であるゴルダスが士気をあげようと一声かけ、それに皆が「はいっ」と答える。


「来たぞっ!」


 ゴルダスの鼓舞から数分後、ヘビーボアの群れが見え始めた。


「いけっ、弓を放て」


 ゴルダスの指揮似合わせて、弓を持った者達が矢を放つ。


「ギャッ」


 よし、一匹仕留めれた。だが、他のヘビーボア達はやかを刺さっていても何ふり構わず突進してくる。


「いけ、前衛食い止めてくれ」


 前衛の比較的屈強な者達がヘビーボアを食い止めにかかる。

 たが、屈強とはいえ所詮農民ヘビーボアを止められるはずもなく次々と倒されていく。

 やばい、このままじゃダメだ。

 次々に倒されていく者達を見ながら焦りがこみ上げてくる。

 そして僕の中にある焦りは、次第に苛立ちに、そして怒りに変わってきた。

 やめろ、もうこれ以上気づつけないでくれ。


 ____見捨てるのか?


 だれだ、こんな時に。


 ____見捨てるのか?


 だから誰なんだ。それに見捨てるって僕には見ているしか出来ないじゃないか。


 ____お前にはあるじゃないか、神に祈って手に入れた力が。


 力…………そうだ僕には力があった。


 ____そうだ、願え、そして祈れ、お主が望む力を。


 僕が願う力それは…………守る、力なきものを理不尽な暴力、搾取から守る。

 力の差も覆せるような逆転の力。


 ____ふふ、お主に力を貸そう。受け取れ、我が力。


 その瞬間、僕の内側から何かがこみ上げてきた。

 ヘビーボアの突進と吹き飛ばされていく人々がスローモーションになる。

 体が軽い。

 今なら行ける気がする。

 ヘビーボアの方へと走っていき、殴る。

 するとまるでスポンジのようにヘビーボアの体に拳が吸い込まれて、ヘビーボアが弾け飛んだ。

 そして、もう一匹、もう一匹とヘビーボアを倒していき、最後の一匹を倒した途端、安心感とともにスローモーションが元に戻り、とてつもない脱力感に襲われた。

 そのギャップに体が耐えきれず膝から崩れ落ちてしまった。


「お、おい。リーク大丈夫か?」


 父さんのの声が聞こえる。だけど…………もうダメだ。


「つか……れ…………た」


 そのまま僕の視界は暗転した。

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