一話「老人」
少年漫画のような物語が書きたくて書き始めました。
ぜひ少年漫画を読むような感覚で読んでみてください。
力が欲しかった。
育てた農作物は国にむしり取られ、ギリギリの食料と心もとない火の魔石の温もりで凍えながら冬を越す日々。
この、弱肉強食の世界で生き残るための力が欲しかった。
昔、英雄譚を読んだことがある。貴重な紙でできた本のため、1度しか読んだことないからよく覚えてないが、確か、平民の少年が努力をして強い力を手に入れて、魔王を倒すというものだった。
たが英雄譚は、所詮英雄譚。
現実では、一日中農作業をして、次の日のために夜は早く寝る。
そんな一日に剣や魔法の訓練を入れる隙なんてない。
だから僕は寝る前に毎日祈った。
この世界を作ったとされる創造神ギルティアに神頼みなんて馬鹿げているだろうか。
だが、祈るしかなかった。
だから祈り続けた。
僕には力がなかったから。
そして、いつもどうり祈って寝ようとすると突然強くドアを叩く音が聞こえてきた。
家族は寝入っていて気づいていない。
「はい、どちら様ですか?」
ドアを開けるとそこに居たのは七十歳くらいのお爺さん。
「夜分遅くにすまんのお、旅のものでタウスと言うんじゃが、道に迷ってしまっての。セーレへと向かいたいんじゃが…………」
セーレと言えばここから三十キロくらい東にある街だ。
今から行っても着くのは真夜中、行っても入れてくれないだろう。
「いいですよ、お爺さん。でも、今から行っても着くのは夜中で入れないだろうから1晩ここに泊まって行きませんか?」
「いいんですか?」
「ええ、何も出せませんが、寝床だけならありますんで」
「ありがとうございます。あんたが親切な人でよかったわい」
そうして、お爺さんを家へと招き入れた。
話を聞くとこのおじいさんは、元々貴族だったが、権力争いに嫌気がさして旅を始めたという。
そして旅の中で魔法書などを読んだり、鍛錬などをしたのでそこそこ戦いもできるそうだ。
そして、僕の話もした。不思議な人で、話す予定のなかったこの国を憎んでいることや、力がほしくて毎日神に祈っていることなども話してしまった。
後から思い出すと、たぶん後悔してしまうような内容だが、不思議とその時はすらすらと話してしまい、結局遅くまで話し込み、
あまり寝ないまま次の朝を迎えた。
*
朝。僕はいつも通り一番に起きて朝食の支度をする。
妹はまだ小さく、両親も仕事で疲れているのでこういった家事全般は僕の仕事だ。
「おはよぉ、お兄ちゃん」
「おはよう、ミーゼ」
「お兄ちゃん、変なおじいちゃんが寝てたんだけど…………」
「ああ、あの人はタウスさんと言う人で旅人だそうだ」
「へぇー、まあ、お兄ちゃんのお客さんならいいんだけど」
そう言えば昨日の夜はみんな寝てたから誰にも言ってないな。
母さん達には言っとかないとめんどくさい事になりそうだ。
「ごめん、ミーゼ。ちょっと母さん達を起こしてくるから火みててくれる?」
「うん、分かった」
ミーゼは笑顔で頷き、屈んでジィっと薪が燃えているのを見ていた。
母さん達を起こしに行くと、タウスさんも起きたようで、布団を片付けて座っていた。
置物のようにキョトンと座っていたので思わず笑ってしまった。
「ふふ、おはようございます。タウスさん。朝ごはんできてますよ」
「ああ、リークさん。何から何まですいませんねぇ。なにかお礼をしたいんじゃがのぉ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。とりあえず食事なんで一緒に行きましょう」
母さん達にはタウスさんの説明をしたら、あっさりと受け入れてくれた。
知らないおじさんを止めるのにもっと抵抗がないのかと言いたいところだが、それは、泊めた張本人が言えることではないなと思い口には出さなかった。
と、まあそんなわけで、今タウスさんと、母さん、父さん、ミーゼそして僕といういつもより少しだけ多い人数での食事になっている。
いつもは、会話は少なく淡々と食事をしていたが、今日はタウスさんのおかげで、盛り上がったものになった。
タウスさんの話は不思議と人を惹き付けるもので、寡黙な父でさえも、彼の旅の話には聞き入っていた。
砂丘という砂の丘や、大昔、偉大な魔法使いが怒って魔法をかけて永久に吹雪が止まない土地。
そしてそこに住む亜人や、人間。
それらの話は僕の心を踊らせた。
この村から一生出れないのは知っている。
だが、夢を見てしまった。タウスさんのように力をつけて各地を旅して回るのを。
だが、夢は所詮夢。そんなものは早々に切り捨てて、僕はいつもどうり食器を洗うことにした。
*
タウスさんが、荷物をまとめている。
それにしても、今回の出会いは良かったと思う。
この村から出れない身だが、思いを馳せることは出来るようになった。
この世界に対して恨みを持っていたが、この国しか見ていないことに、自分の視野の狭さに気づかされた。
感謝しなければいけない。
「それでは、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。色々な話を聞けて良かったです」
「いえいえ、それと、リークさんこれを受け取ってくれんかの」
タウスさんが懐から巻物を取り出した。
「これは?」
「これは、魔導書です」
「ま、魔導書ですか?」
魔道書と言えばとても高価なもので安くても金貨五枚はする代物だ。
一日に銅貨3枚しか稼げない僕達にとっては生活費を考えないで3年はかかる。
生活費を考え出すと、毎日が生きるか死ぬかの僕らには一生賭けて稼いでも稼ぎきれないだろう。
「こ、こんな高価なものをいいんですか?」
「よく聞いてくだされ、あなたには近いうちに力が必要となる時が来る。その時のためにこの魔導書は必要となります。使い方は、この魔導書を開くだけ。そうすれば勝手に能力が手に入るはずです」
「力が必要になる時?」
「そうです。あなたにはその時が必ず来る」
タウスさんの物言いにはなんとも言えぬ説得力があった。
「わ、分かりました。それでは貰っておきます」
そうして、僕は受け取った。この巻物が僕のこの先の運命を大きく変えるものとは知らずに。