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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0048.余韻

 

「はあっ……、はあっ……」


 歩く振動で傷口が痛い。自然と歩く速さも遅くなっていた。今後はせめて小刀ぐらいは常に持ち歩くようにしようと誓う。


 それにしても日本刀を置いてきたのは痛い。もはや愛刀となっていたのに。一応借り物だが、旅立つ時に譲ってもらおうとお願いするつもりだった。考えてみれば日本刀を常に帯刀するなんて、まるで侍だな。時代に逆行している。


 苦笑しながら先を目指す。


「ァオン!」


 前方から可愛らしい鳴き声が聞こえた。


「おお、チビ助じゃないか」


 よかった。暗くて道に少し自信を失いかけていたところだった。


 チビ狼は駆け寄ってくる勢いそのままに足元にじゃれついてくる。あんまり寄ると血がついちまうぞ。


 どうやら熱烈に歓迎されているようだ。無事に白大狼の依頼を果たせたと言うことかな。


 軽く頭を撫でてやると、チビ狼が少し前を歩き始めた。ほどなくして何となく見覚えのある景色を通り過ぎていく。暗くて定かではないが、この辺りは特訓中に来たことがある気がする。目的地はもう近い。


 さらに進むと既視感のある光景が見えた。


 月明かりに輝く白い毛並みをした狼達が両側に列をなして道を作っている。


 だが違ったのはその数だ。前回の五倍近くはいそうだ。


 得も言われぬ達成感があった。


 はしゃいで喜ぶようなことではないが、じわじわとした充実感が込み上げてくる。長いことやってきた仕事が報われたような感覚。実際に戦ったのは一日だが、そのために重ねた特訓の日々を思うと妥当かもしれない。


 白狼達によって形作られた道をゆっくりと歩いていく。


 前方には白大狼、そしてその隣に一回り小さい白狼が鎮座していた。


「よくきたな」


 会話できる距離まで近付いたところで白大狼が声を発した。いつにない機嫌の良さだ。


「色々と話したい事はあるかもしれないが、先にこれだけは言わせてくれ」



「我らの恩人、ヤマトに感謝を」



 ウワォォォーーン!



 白大狼の遠吠えを合図に周りの狼達も真円の月に向かって吠え出した。戦いに行く前とは違い、優しく歌うようなその鳴き声は森中を木霊し、心地よく耳に響いた。




 ひとしきり吠えた後、道を作っていた白狼達は徐々に列を崩していった。開会式が終わったようなものかな。


 手近な岩に腰掛ける。近くには白大狼とその隣にいた白狼が来ていた。


「その傷は何だ?」


「ああ、ちょっと…。妬みというか僻みというか」


「後で傷に効く野草を取って来させよう」


「助かる」


「なに、容易いことだ」


 幸い血はほとんど止まっている。出血死する事はないだろう。それにしても、あいつらは一体何なんだろう。組織的に動いているのだろうか。


「スマナカッタ。タスカッタ。レイ イイタイ」


 思考の世界に入りかけたところで呼び戻された。片言で声を出したのは先ほどから隣にいた、白大狼より少し小さい白狼である。所々、斬られたような傷が見える。もしかしなくても黒大狼の元の姿だろう。


「気にしなくていいさ。その代わりその刀傷は仕方なかったと思ってくれ」


「ムロン」


「それよりも何があったかを伝えておく必要があるだろう。こやつはまだ言葉が拙い。代わりに私が話そう」


 白大狼がバトンタッチした。


「結論から言おう。我が同胞達は魔物化させられた」


 誰に?


「人間かどうかはわからぬが……少なくとも人の形をした何者かだ。特徴は魔石のような紅い瞳」


 ……ここでつながるか。やはり諸悪の根源はヤツらで間違い無さそうだ。


 しかしどっちだ? 俺がこの世界にくるきっかけとなった方か、それともさっき遭遇した方か。あるいはまた別の……。


「心当たりが全くない、というわけではなさそうに見える」


「ああ。二人ほど。一人はつい今しがたやり合ったところだ」


 自分の傷を見せる。白大狼は少し驚いたように目を開いた。


「……こうも身近に潜んでいるということか」


 ヤツらの数が多いのか、魔物化した狼達を監視、観察していたのか。


「ヤツらの狙いは何だろう?」


「わからぬ。ただ、かつて世界で似たように魔物が増えたことがあると聞く。その時に魔物を率いていたと言われるのが……」


「魔王……だな」


「然り」


 調和を司るものを信じれば間違いなく存在したのだろう。


 そしてまた復活した。あるいは復活しようとしている、と考えるのが妥当か?


 白大狼と顔を見合わせるが推測の域は出そうにない。まだ手がかりが少なすぎる。


「ひとまず情報収集していくしかないな。俺はブレイズ王国を出て他の国へ旅しようと思う」


「そうか……我々はこの森からそう簡単に移動するわけにもいかぬ。どの森にも縄張りというものが存在するからだ。しかし、お主は我々の恩人。助けが必要なときは必ず駆けつけると約束しよう」


「ありがとう。心強いよ」


 同胞たちをもっと鍛え上げておかなければな、と白大狼に笑みが戻る。隣りにいる白狼は少し困り顔だ。



「ときに、あの少女は?」


「ああ、リッカな。一人で居たところを不意打ちされてそのまま逃げてきたから何も連絡できていないままだ」


「そうか。少女にも礼を言いたかったのだが」


「そのうち会うことになるだろうさ。彼女はブレイズ王国の出身だからな……」


 そうして話していくうちに急に眠気が襲ってきた。


 間違いなく疲労だろう。病み上がりで戦闘して、負傷しながらもここまで移動してきたからな。ついでにここには師匠と呼ぶべき白大狼がもいる。気持ち的に安心したのもあるかもしれない。


「悪い。少し疲れたみたいだ……続きは明日にしよう」


「ゆっくりと休むがいい」


 白大狼の返事を聞くと地面の柔らかそうなところに寝転がった。


 リッカ達は今頃どうしているだろうか……。


 しかし、それ以上考えるより先に意識が飛んだ。



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