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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0045.覚悟

 

「この国に降りかかった魔物の脅威を退けた此度の働き、そして魔物から解放する能力。資格、資質ともに十分。事実を知る者からすれば既に英雄であろう」


 マール王が称賛してくれる。事実だけれど改めて言われると照れるものだ。


「しかしこの栄誉はまだほとんどの国民に知られておらぬ。今回のことを私から正式に公表することでそなたは名実ともにブレイズ王国の英雄として皆に認識されるだろう。新しい英雄の誕生に国民の不安がやわらぎ心のよりどころとなる。国力も増強され、ひいては国家の安定につながる。私としても歓迎したい結末だ。何なら娘との結婚も前向きに進めよう」


「娘を副賞みたいに気軽に差し出さないで」


 表情こそ微笑んでいるミラだがこめかみのあたりが引き攣っている。


 リッカはどう思っているか定かではないが、時折こちらを見てどこかそわそわしているように見える。


「全くの冗談でもないのだがな……。とにかく地位や恩賞については保証する。しかし光があれば闇もできる。相応の危険に晒されるのもまた事実」


 マール王がゆっくりと語る。もしかすると考える時間をくれているのかもしれない。



「この国の英雄として表舞台に立ってはくれまいか?」



「申し訳ございませんが、辞退致します」



 間髪いれない即答にリッカとミラは面食らったようであったが、マール王は表情を崩さなかった。もしかすると予想通りだったのかも知れない。


「……臆したわけではないな?」


「はい。理由は一つ。この国にずっと滞在するわけにはいかないからです」


 この国の英雄になって元の世界の手がかりを得るきっかけを得るかわりに行動範囲が制限されること、逆にきっかけは得られないが元の世界の手がかりを広範囲に探索できることとを天秤にかけると後者の方に可能性を感じた。転移者がみな英雄とも限らないし。


 結論は出ていたが順序よく説明する。


「ご指摘のとおり、私は別の世界で過ごしていた記憶があります。こちらの世界では少し若くみえるかも知れませんが本当はもう少し年をとっています」


 正式に自分の口から認めた。少なくともここにいる人たちは信頼することにした。


「言葉を話す白狼や能力なんて不思議な力があるこの世界はとても興味深いですが、元の世界にも多少なりとも思い入れがあり残してきた家族もいます。帰れる方法を探しておきたい気持ちが今は強い。ブレイズ王国はこの世界で初めて訪れた国で、私は他にどんな国があるのかすら知りません。いずれ何処かを拠点するにしても今はあまりにも無知。この世界のことをもっと知ってからにしなければ私の望みは叶わないでしょう」


「なるほど。そなたの意向は理解した。もう一度だけ確認しておくが英雄の肩書きが嫌なわけではないのだな?」


「…? ええ」


「私との結婚が嫌なわけでも無いわよね?」


 続け様にミラが口を挟んだ。なんか力入ってないか? 嫌かどうかというよりもまず想像すらしたことがなかった。そもそも別の世界にきているという状況が状況だし、元の年齢ならまだしも今はまだ結婚するには早すぎる年齢だ。身分を考えるとこちらの世界の常識では早すぎることもないのかもしれないが。


 少し想像してみる。この国の第一線で戦えるほど強く、対人スキルは極めて高い。欠点らしい欠点を見たことがないどころか愛らしい美貌は将来性があり、家柄は言うまでもない。知りうる事実だけ並べれば相手として文句があるはずもない。が、今さら嬉々とするのも変だし、単なる例え話だ。だよな? 当たり障りなく返すことにした。


「まさか。恐れ多いだけですよ」


「そ、そう……」


 ミラは安心した様だ。何に?


 リッカの視線が痛いのは何でだろう。


 声をかけようと思ったが、マール王の言葉が先を制した。



「ではブレイズ王国では、そなたを英雄として扱おう」



「は……?」



 我ながら間の抜けた声を出してしまった。今までの話の流れは何だったのだろうか。


 マール王はにやりと笑う。


「ただし我が国に滞在する必要はない。そなたが、いや、他国の国民が望むなら他国の英雄となってもよい」


 つまり、どういうことだ? 何を考えている?

 意表を突かれて頭の回転が追いつかない。


「無国籍英雄、無国境英雄、無所属英雄、いや、全所属英雄と呼ぶべきか? まあ、呼び方は後で決めればよい。そなたにはこの国にとどまらない真の英雄となって欲しい」


 今度はこちらが面食らう番だった。


「暗黙の了解として一人の英雄は一つの国に仕えることがほとんどだ。それは他国との関係がよくないという政治的な側面によるもの」


 なるほど。他国にとっての英雄とは限らないからな。他国へ行って警戒されるだけならまだしも密偵と扱われると面倒だ。


「しかし、今回の件のように近年は魔物の勢力が強まってきている。今は国家同士の不毛な争いをしているが、いずれ魔物を相手に各国が団結しなければならなくなる日がきっとくる。そなたには架け橋となって欲しいのだ。その稀有な能力はきっと各国の希望となる」


 マール王は先を見ていた。それも世界規模で、だ。視点が違う。これが一国の主。本当の意味で王たる者だと尊敬した瞬間だったかもしれない。


 それにしても、いつのまにか話が壮大になってきたぞ、そんな大役こなせるのか? まだこの国にきて一ヶ月足らずだぞ? いや、そういう意味では一国に馴染まなずに旅人というスタンスの方が都合がいいのかもしれないが。あれ? 意外と悪くないのか? もう色々な話があり過ぎて混乱してきた。


「異論はないな?」


 理由はこの国から出られない事だけと言った手前、反論の余地はない。


 なんかどえらい展開になってきた。


 サプライズ過ぎる人事に不安と期待、そして心配と心労と心痛を抱くのだった。




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