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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
29/50

0028.買い物

 

 家を出てリッカと並んで歩いていた。


「どうもリッカ母から勘違いされている気がするんだが。それに初対面からだいぶ性格が変わってきたような……」


「ヤマトが気に入ったんだと思う。慣れてきた証拠だよ」


「そういうものかな……」


 もはやリッカは諦めたような表情だ。しかしその境地に至るともはや負けを認めたようなものである。いや、別に勝負しているつもりはないのだけれども。意地とか威厳とかそういう問題だ。


「気を取り直してまずは服でも買うか」


 ようやくこの目立つジーンズともおさらばだ。捨てはしないけど。履きやすくて丈夫なのはいいがこの世界での隠密行動には不向き過ぎる。


「服にするのか? 防具は?」


「防具は確かに防御力は格段にいいが、見た目からいかにも戦えます、っていうのは旅をしていく上で不利に働くかもしれない。重さに慣れるまで移動が遅くなるだろうしいざというときに疲れてるなんて目も当てられない。ただ流石に何も無しってのは不安だからできれば服の下に着れるようなちょっとしたもの、ってのが理想だ」


「じゃあ一度トム爺のところに行ってみるか」


「トム爺?」


「ああ、ギルドも王国兵士も御用達の鍛冶職人だよ。武器や防具を売ってる」


 特に異論もないのでリッカについていった。リッカの案内のもとしばらく歩くと堂々とした店構えの商店が見えてきた。二階建てになっておりその壁には重厚な金属の看板が掲げてあり店の力量を誇示しているようにも見える。


「着いたぞ」


 店の扉を開くと店内には多くの剣が所狭しと並べられていた。店の奥からはカンカンと剣を打つような音が鳴り響いている。店内にはそこそこの客がいる。昨日の戦闘で武器の補給をしにきたか、もしものときのための備えを買いにきたか。キョロキョロと周囲を見回していると、リッカは慣れた様子で二階の階段の方に進んでいく。


「防具は上だ。トム爺もそこにいる」


「あ、あぁ」


 確かに刀があるから武器に用はないか。階段を登っていくリッカについていった。


「おお、リッカじゃないか」


「久しぶりだね。トム爺」


 二階に登るとすぐに声をかけられた。どうやら目的の人物のようだ。


「もしかして……」


 トム爺が少しリッカの後方を気にするような素振りをしたがリッカは横に首を振った。


「……そうか」


 トム爺は少し残念そうに呟いた。


「ここはな。よく兄貴が世話になっていたんだ」


 なるほど。確かにギルド御用達と言っていたな。


「ほっほ。クルトが武器を見るときの目はキラキラしておっての。色々と相手してやったんじゃよ。ギルドの有望な若者じゃったと聞いていたが惜しいのう」


 以前のことを思い出しているようだ。おそらくトム爺自身も楽しんでいたのだろう。


「おいおいトム爺。まだ死んだわけじゃないぞ」


「ほっほ。いやあ、すまんすまん。なにまだ若いんじゃ。時には休むことも悪くない」


 そう納得するように防具の整列を再開しようとしたところでこちらに視線を向けた。


「ほう。ところでお前さんは……?」


「ヤマトです。成り行きでしばらくリッカと行動することになりました」


「ほう……」


「今日は簡易的な防具がないか探しに……」


「なるほど……デートじゃな?」


 盛大にずっこけてあげてもよかったが間髪入れずにリッカが反論した。


「ただの買い物だよっ!」


「そうか。リッカはクルトにべったりじゃったからなあ」


「む、昔のことはいいから!」


「今もまだ子供じゃろうに」


「子供のほうが成長は早いんだよっ!」


 リッカが年相応に見えてきた。トム爺には心を許しているんだな。


「わかったわかった、で、何が欲しいんじゃ?」


「服の下につけれる防具はありますか?」


「ふむ。まあお前さん達には妥当な選択肢じゃな」


 トム爺に上から下まで観察されると少し奥にある商品を探し出した。


「これじゃな」


 程なくして出てきたのは鎖かたびらだった。本物を着るなんて思いもしなかったが最も妥当なものだろう。


「すみません。リッカに合うのもありますか?」


「なに? リッカも要るのか?」


「ああ。ヤマトと一緒に旅に出ることにしたんだ。ママの許可もとっている」


「……そうか」


 時が過ぎるのは早いのぉと呟きながらトム爺はもう一着の鎖帷子を取り出した。


「ほれ。子供サイズじゃ」


 リッカは受け取るとサイズ確認のため試着室の方へ向かった。


「ありがとうございます。いくらですか?」


「餞別じゃ。二千ゼムにまけといてやろう」


「二千……」


 手持ちの三分の二だが確かに防具は上質な感じがするし、国も御用達なのできっと安くしてくれたのだろう。命を守るものだ。むしろ安売りされたら心配になるか。


「ありがとうございました。じゃあこれで」


 ヤマトはミラから届けられたお金のうち二千ゼムを渡した。


「多少のサイズ調整や修理はしてやるからいつでも持ってくるといい」


「ありがとうございます」


 支払いを終えたところでちょうどリッカが戻ってきた。手に商品を持っていないところを見ると中に着ているのだろう。なるほど少し固そうなところはあるがばっと見はわからないな。


「ジャストサイズだった」


「よかったな」


 リッカに支払いを終えていることを告げると頷いた。


「ありがとう、トム爺。じゃあしばらく冒険してくる」


「気をつけるんじゃぞ。……ヤマト、リッカを頼んだぞい」


 トム爺に頷いて見せるとリッカと商店を後にした。


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