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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0025.約束

 

 居間に入るとさきほどまでリッカの座っていたところに腰掛けた。


「どう思う?」


 単刀直入だった。


「俺としてはありがたい話ですが、反対です」


 リッカの母が続きを促したので客観的に述べる。


「考え方や言動がマセていてもリッカはまだ小さいし、女の子です。瞬間的には自分よりも動けますが体力面では厳しいでしょう」


 リッカの母は頷くでもなくじっとこちらを見つめてくるのでもう少し付け足した。


「それに将来の夢、やりたい事は色々あっていい年頃だし、自分に合っていることを探していていい時期です。旅に出ることも悪いとは思いませんが、些か性急だと思います」


 実際の年齢ならまだしも今の俺の見た目からすると自分も背伸びした発言にとられたかもしれない、が本心のまま語った。


「そう。貴方が唆したわけじゃないようね」


 リッカの母が息を吐いた。


「私も旅に行かせるのは反対よ。大事な娘ですもの。でもそうやってリッカを縛り付けてそれでリッカは幸せになれるかしら」


「いつかはそうやって引き止めたことを感謝される日が来るかも知れません」


「ええ、そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。結局、先のことなんて誰にも分かりはしないわ」


 リッカの母は少し諦めたような口調だった。


「あの子はなかなか頑固だからもし今回引き止められたとしても、きっといつかは旅に出てしまうわ。早いか遅いかの違いよ」


 まったく誰に似たのかしらね、と自嘲気味に笑う。


「それでもまだ大きくなってからの方が……」


「単純に体力面ではそうだけど、大きくなったら大きくなったで女としての危険が増えるわ。逆に今なら子どもであることを利用できるかもしれない。むしろリッカなら大いにそうすると思うわ」


 確かにそうかもしれない。子供のほうが相手も油断するだろうし、何かと見逃される可能性もある。


「それに今なら貴方がついていてくれるのかしら?」


 今できるのは誠意をもって正直に言うことだった。


「……同行することに異論はありません。最初に言ったようにむしろありがたいです。ですが、正直に言うとお恥ずかしながらリッカは今の自分より強い。自分が守ってあげられるかはわかりません」


 無意識に顔を伏せてしまっていた。胸を張って自分が守ると言えない無力感を悔しく感じた。


「強くなくても守れることはあるわ」


 ハッとした。思わず顔あげると視線が合った。


「戦う前に逃げることも、守ることの一つだわ。無謀な戦いに臨まない判断、それがたとえ人に後ろ指をさされる道だとしても、それを選ぶことができるのなら守ったといえる、私はそう思う。そしてどんな絶望的な状況でも最後までリッカのために身体を張ってくれる、そんな人に私はリッカを任せたい」


 リッカの母は真っ直ぐにこちらを見つめてきた。


 本当の分岐点はここだったかもしれない。自分も腹をくくるべき時だ。


「約束します。自分の及ぶ限り最大限リッカの盾になることを」


 真っ直ぐに見つめ返した。放った言葉に偽りはない。自分がどうありたいか。それを今一度思い出した。


「……なら、大丈夫ね」


 リッカの母は少し安心したように肩の力を抜いた。


「でも、リッカを傷物にしたらもちろん責任はとってもらうわよ」


「そ、そんな心配は無用ですよ」


 苦笑しておいた。


「あら、親の私が言うのもなんだけどあの子はきっと美人になるわよ」


 確かにその可能性は高そうだ。一瞬光源氏計画も悪くないと想起してしまったことは内緒だ。


「あなた、きっとリッカに気に入られているから脈はあると思うわよ?」


「どっちに転んでほしいんですか……」


「もちろん、リッカの望む方よ」


 そう言ってリッカの母は微笑んだ。



「ん? なんでヤマトがここにいるんだ?」


 ちょうどその時、さっぱりとした様子のリッカが通りかかった。


「リッカが好きになった人がどういう人が確認していたのよ」


「なっ、だっ、バッ!」


 リッカが声にならない声を上げる。なっ、誰が、バカ言ってんじゃねぇ、かな。ndbとかナダバとか略語で使えそうだな、なんてくだらないこと考えている間にもリッカの母の口撃は続いた。


「あら、違ったの? てっきり駆け落ちの約束でもしていたのかと思ったわ」


「あ、あのな。あたしは真剣に……」


「冗談よ。でも嫌いな人とは行かないでしょう?」


「……嫌いじゃない」


 あさっての方を向いたうえに小声だったが聞き間違いはしなかった。嫌われるようなイベントは特になかったと思ってはいたが、改めて聞くとちょっと照れる。別に好きだと言われたわけじゃないんだけれども女性から嫌われていないというのは少なからず嬉しいものだ。きっと多くの男性はそうだと思う。まぁリッカの場合は女性というよりも少女なわけだけど。


「嫌いって言ってたら全力で旅をやめさせるところだったわ。聞き分けがよくないとヤマトさんの足手まといになってしまうもの」


「……! それじゃあ!?」


 一瞬リッカは驚くも、すぐに意味を悟る。


「可愛い子には旅をさせよ、とはよく言ったものね。ええ、リッカの好きなようになさい。その代わり何があってもリッカ自身の責任よ。ヤマトさんに助けてもらえるなんて甘い考えではダメよ」


 そう言い聞かせる様は厳しくも優しくもある理想的な母親に見えた。そう言えば自分の母親は、と思い出そうとしたところでリッカの母が今度は身体ごとこちらに向いた。


「ヤマトさん、不束な娘ですがどうか末永く……」


「なにかが違ってる気がするんですが……」


 わざとなのは間違いないがどこまで本気なのかつかめない。それはさておき、リッカの母から信頼された分、これまで以上に気を引き締めないといけないな。


 ちらりとリッカを見るとそこには満面の笑みがあった。




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