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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0014.お人好しと律儀者


「はぁ、はぁ、はぁ……」


撒いたか?


あのあと四回ほど曲がって狭い路地に入り込んだ。流石に追ってくる気配はない。


あがった息を整える。前を走っていた少年(?)も近くで息を整え……ん?


フード付きの長い丈の衣服をひらひらと羽織っていたのでよくわからなかったが、全速力で走って乱れた服の隙間から胸が膨らんでいるのが見えた。


少年(?)じゃなくて少女だったか。


小学高学年から中学生ってところだろうか。むしろこの体格にしては発育が良いほう……なんて考えていると、少女はフードを上げ声を荒げた。別に女であることを隠しているわけではなかったようだ。


「馬鹿なのか? 見ず知らずの子どもなんて助けるか、普通!」


わかってはいたが何という口の悪さだ。せっかくの整った顔が台無しである。


「見ず知らずの大人ならまだしも、見ず知らずの子どもなら助けるんじゃないか?」


そう返しながら少女の特徴を掴んでいく。背はミラよりも小さいが、ミラよりも出るとこは出ている。末恐ろしいな。フィーナのレベルに達する素質があるかもしれない。まだ発育途中のような幼さは残るが利発そうな雰囲気があるしこれまでのやり取りからすると実際頭は切れそうだ。黒く艶のあるショートヘアは元の国を思い出させる。そして、何より口が悪い。


「金を使ってまで助けるやつなんて、そんなお人好し……」


少女はこちらを見上げてきた。なんだろう。睨んでいるんだろうか。


「お、おまえ、まさか本当に」


ん? なんか動揺しているな。


「あたしの体を……?」


いやいやいや。そもそも女の子だということも知らなかったしな。


ってあぁ。そうか。


さきほどのベルグの様子を思い出した。


ベルグが変に納得したのはそういうことか。どうやら少女が趣味と思われたらしい。といっても、俺も見た目は高校生ぐらいのはずだからそんなに離れて……離れているかな。昔だったら元服しているぐらいだし、こっちの世界ではもう大人扱いかもしれないな。だが、とりあえずロリコンではない。そんな性癖はない。少なくとも、今、この瞬間は。


おっと、また黙ってしまっていたようだ。どうにも頭の中で勝手に話が盛り上がってしまうな。


しかし少女には、どうやら真面目考え込んでいるように見えてしまったらしい。



「ほ、本当に体目当てなのか? そ、そりゃ助けてもらったことには礼をしたいが、いや、でもっ、えっ…でも……、金まで出させることになったし、でも体なんて、いやっ、えっと」



なんか悶ていた。言葉遣いの割に律儀なのかもしれない。親切な人には弱いのか、押しに弱いのか。



「落ち着け。別に何もしない」


「……っ! だったらさっさとそう言えっ!」


どつかれた。なんだろう。これはいわゆるツンデレなのだろうか。それとも遅れていない反抗期か。


「おまえ、名前は?」


「ヤマトだ」


「あたしはリッカだ」


「おう、よろしくなリッカ」


気安く呼ぶんじゃねぇ、なんて蹴りがとんでくるかと思ったが来なかった。どうやら冷静になってきたようだ。


「いくらだ?」


「ん?」


「いくらぶちまけてきたんだ?」


「一二〇〇ゼムだ」


「っ……。わかった。そのぶんはあたしが働いて何とか返す」


やっぱり律儀だな。


「ヤマトは旅人って言ってたか? 宿はどこだ?」


いきなり呼び捨てにされたが嗜めようとは思わなかった。むしろしっくりくる。さん付けされた方が鳥肌が立ちそうだ。


「まだ決めてない」


「あん?」


「今日この街に辿り着いたばかりだ。とりあえず仕事探すためにギルドに向かってたんだが」


ありゃダメだ。ポリシーに反する。

百歩譲って金のためにギルドに行ったとしても、さっきの件で向こうから出禁にされそうだ。


「とにかく、別のところでも探すよ」


「わかった。しばらくは街に滞在するんだろ? とりあえず宿が決まったら教えてくれ」


「んーー、たぶん無理だと思うぞ」


「ん? どうしてだ?」


「所持金、ゼロだから」



「…………」



一瞬、静寂が訪れた。



「どこの世界に全財産使って人助けするやつがいるんだよっ!!」



何故か怒られた。


「でも大事な剣だったんだろ?」


形見か何かだろうか。少なくともあの大男から盗もうとするぐらいには取り返したかったはずだ。


「ったく、ただのアホなのか、ただのお人よしなのか、ただの……」


リッカは聴こえないぐらいの声でブツブツ言うと、大きくため息をついてこちらを指さした。人を指さしてはいけません。


「とりあえず、ウチに来い」


そう言うと踵を返して路地の出口へと歩いていった。


断る理由もなければお金もないので、その小さな背中に続いた。




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