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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0012.単独行動開始

 

 久しぶりの単独行動だ。独り言が加速するな。


 さて、幸いにも手元資金を借りられた。まずは生活基盤を固めておきたい。

 歩きながら考える。ちょうどさきほどいい匂いがしたあたりだった。


 まずは衣食住だな。そしてそれを維持するためのお金。つまり仕事が必要だ。


 この世界でお金を稼ぐ方法はなにがあるだろうか。もちろん元の世界の知識を活用するのにやぶさかでないが、しがない会社員だった俺にすぐにできるようなことはあるか?


 技術は間違いなく元の世界のほうが進んでいる。しかし仮にスマホを知っていてもそれを自分で作れるわけもない。ディスプレイ、アンテナ、メモリ、プログラム、一つとして原理を説明することもできない。仮に電気系エンジニアで設計図がかけたとしても、材料を加工する技術までは手が回らない。アンテナ基地局建設なんてもってのほかだ。一から技術を普及させるには道が果てしなく遠く、そこまで人生に余裕はない。


  では何か物を売る仕事はどうだろうか。とんでもなく破格で仕入れて安定して売れるものでもあるならいいが、そういうことに特化した能力ではない。強みのないところで競うのは得策ではないはずだ。


 可能性で言えば料理屋。元の世界にしかない料理があればいけるかもしれない。和菓子なんかどうだろうか。ただ、あくまで会社員であって和菓子職人ではない。お菓子作りなんて学生時代の調理実習ぐらいしか記憶にないしレシピを検索できる仕組みもない。もっと簡単でいい料理があるだろうか。


 とりあえずこの世界の標準レベルを知る必要があるな。ちょうどお腹も空いている。

 そう考えるに至るといい匂いのした方へと向かった。


「おう、いらっしゃい。見かけない顔に見慣れない格好だな 」


 店に近づくと露店の店主が声をかけてきた。


「旅人でね。これはなんだ?」


「ブレイズロールだ。パン生地に焼いた肉と野菜をくるんだものさ」


 ブレイズという名前がついているところかすると、この国の名物料理だろうか。見た目としてはトルティーヤ的な感じだな。


「ひとつもらいたい」


「まいどあり。五ゼムだ」


 ゼム? 話の流れだとお金の単位だろう。 

 そう言えばミラ達から受け取ったお金を確認するのを忘れていた。また返さないといけないから額を把握しておく必要があるな。慌てて袋の中を覗くと中には紙幣が十数枚、硬貨が三十枚ほど入っていた。よく見ると硬貨は全部同じ種類だ。紙幣のほうをよく見ると、十、百、千と書かれている。硬貨が一ゼムと数えると紙幣と合計してちょうど千二百ゼム。この御飯が五ゼムだから一ゼムが百円相当とすると、十二万ってところだろうか。


 硬貨を五枚取り出す。


 店主はそれを受け取ると、ブレイズロールを差し出してきた。


「はいよ」


 どうやら硬貨が一ゼムという推測は正しかったようだ。合っていてよかった。不審人物と思われるのは嬉しくないからな。合ってたということは、宿の相場は不明だが普通に暮らしても二週間分ぐらいの生活費にはなりそうだ。ミラ達に感謝しないと。


 ブレイズロールを受け取ると近くの椅子に腰を掛け、一口かぶりついた。


 ーー旨い。


 空腹というスパイスはある。しかし、それを加味しても美味しい。露店としてこのレベルが提供できるということはこの国の食事情は元の世界と同等レベルと思って良さそうだ。素人が生半可な覚悟で手を出すと火傷しかねない。料理屋の選択肢は消えた。


 残るはなんだろう。異世界の定番でいくとギルドか? 魔物が出るならこの世界にもあるかもしれない。


「ところで、この街にギルドはあるのか」


 ちょうどブレイズロールを食べ終わったタイミングで露店の店主に問いかけた。


「このご時世にギルドがないなんてド田舎ぐらいだろ。あっちだ」


「ありがとう」


「ギルドに所属しているのか?」


「いや、まだだが」


「そうか……」


 ……? 


 ギルドに何かあるのだろうか。もっとも、他に住み込みのバイトでもあればギルドに入らなくてもいいんだが。身の危険もありそうだし。


 店主の態度に疑問を抱きつつも、それ会話を続ける様子がなかったので教えられた方向へと歩き始めた。なんだったのだろうか。露店から少し離れたあたりでまた思考をめぐらそうとしたときだった。


 ドンッ!


「おっと」


 いきなり正面から衝撃があった。


 尻もちをつくと、衝撃の原因も同じように地面に転がっていた。


「イタタタ……」


 そしてゆっくりと体を起こすとこちらを向いた。


「お前……」


 …少年? 少女だろうか? 自分より少し幼いぐらいだ。


「待ちやがれ! このガキッ!」


 すると、更に奥から何やら物騒な声が聴こえてきた。

 その声が聞こえるやいなや、その少年?はあろうことか俺の後ろに隠れた。


「迫りくる物騒な声の主と追われている少年?との間に挟まれ、面倒な予感しかしないのであった」


 つい心の声の方が漏れてしまった。



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