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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0011.いつから錯覚していた?

 

 街に辿り着くと人々の往来が目に入った。なかなか活気がありそうだ。


 どこか感慨深い。ようやく人間らしい生活ができそうだ。お金はないけれど。

 好奇心が抑えきれずしきりに周囲の様子を確認する。商店が立ち並び市場が開かれている。広場からは美味しそうな香りが漂う。勝手知ったるのかミラとフィーネはよどみなく進んでいくので、自然とその後をついていった。


 しばらく歩いて、ふと気づいたら城の正面にいた。

 あれ、どうして城に直行しているんだっけ。そもそも城って用事がなくても行っていいのか。


「お帰りなさいませ!ミラ王女。よくぞご無事で」


 そんなことを考えていると、いきなり門番が駆け寄ってきて深くお辞儀をしながら挨拶してきた。


 ん?ミラ王女?


「ご苦労さま」


 ミラは当然のように受け答えて進む。

 困惑していると、目が合ったミラがにやりと笑った。なかなかのドヤ顔だ。


「てっきりフィーナかと思っていた」


「ふふん。念には念を、ね。貴方も王女と呼んでも構わないわよ」


 いつから錯覚していた? 初めからだ。錯覚させられていた。なるほど。やりおる。


「高貴な身分と言っていたぞ」


「フィーナは私の近衛隊隊長よ。然るべき地位にあるわ」


 フィーナは黙って頭を下げた。初に会ったときにフィーナの警戒が強かったのもミラに害をなす危険人物かどうか判断していたってところか。それにミラに対して目上から接する様子がほとんどなかったのもそのせいか。


「ミラよりも王女らしく見えるな」


「あら?不敬罪がお好みかしら」


「これはミラ王女、ご冗談を……ってか」


 いまさら態度を変えるのも煩わしい。当のミラも気にしていないようだしこのまま接することにしよう。少なくとも周りに誰もいないときは。だが王族となるともう気軽に会うこともないかもしれないな。


「もしよければ父に紹介するわよ?」


「謹んでお断りしよう」


 つい反射的に答えた。ミラのいい人というわけでもないのに挨拶するのは如何なものかと思ったからだった。しかし、それはあくまで元の世界の常識かもしれない。こういう世界ではむしろ絶好の機会だっただろうか。コネ社会だとすると王との謁見はまたとないかもしれない。


 でも王だぞ。キング。ボロの釣り竿で釣れるやつではない。正真正銘の王様だ。もし日本にいて、いきなり天皇に紹介するわと誘われて、お願いと即答できるほど人間ができてはいない。ふむ。考えても結局答えは同じだったかな。


「あら、もったいない」


 あ、やっぱりこの世界ではそういう反応なんだ。


「まだ自分の記憶もよく思い出せていないからな。しばらくは勉強するよ」


 もっともらしい理由をつける。咄嗟にしては十分だ。


「仕方ないわね……そうだ。貴方お金も持っていないんじゃないかしら」


「ああ、無一文だな」


「フィーナ」


 首肯したフィーナが荷物から袋を取り出し手渡してくれた。いくら入っているんだろうか。そう言えばお金の価値すら存じてない。


「貸してあげるわ。利子はつけないであげるからもし街を出るつもりなら同額を返してからにしなさい」


「……わかった。信頼してくれてありがとう。助かる」


「それじゃあ、ここでお別れね。私達は報告する必要があるから」


「ああ。また返しに行くよ」


 ミラは軽く手を上げて答えると胸を張って城内へと入っていった。


「なかなか興味深かったです」


 フィーナはそう言って軽く頭を下げるとすぐにミラを追った。

 そう言えばフィーナの能力は何だったんだろうか。あえて能力を見せなかったのか、代償のためか。


 なかなかどうして優秀な二人だった。

 手元に残ったお金を見る。これもきっと自分をしばらくこの街に留めさせる仕掛けだろう。


 聡明なミラがいればこの国はきっと安泰だ。こちらは実年齢よりも若返っているのに年下を相手にした気は全然しなかった。身体年齢につられて自分が精神的に若返ったのかもしれないが。


「とりあえず街に戻ってみるか」


 期待を胸に踵を返した。




 その頃、城内では。


「どうでしょう。力を貸してもらえるでしょうか」


「楽観的には考えない方がいいかもしれないわね。一癖ありそうだったし。ただ、あの能力は興味深いわ」


 城内を歩く二人は謁見の間へと進んでいた。


「ただいま戻りました、父上」


「おお、ミラよ。よくぞ戻った。して首尾は?」


「神殿は見つかりましたが、神殿自体には特に何も」


「そうか」


「しかし先客がおりました」


「なに?」


「年は私達と同じぐらい。見慣れぬ服、曖昧な記憶。本人は転移したと申しておりました」


「いま、転移と申したか? あれは単なる言い伝えではないのか。その者の出任せではないのか」


「現時点ではなんとも。剣技も並の兵士以下です。ただ能力持ちでした。それも強力な」


「ほお……フィーナ、お主はどうだ?」


「会話の節々から世間のことは全く知らない様子でした。しかし頭の回転は早く、ところどころ何かを隠しているようにも見受けられました」


「ふむ……あいわかった。その少年の足取りはつかんでおけ」


 玉座に座り顎に手をあてながら思索する。


「今は一人でも戦力が欲しい。もちろん有能に越したことはない」


「はい」


 二人は頭を下げると謁見の間を後にした。


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