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縁の下の能力持ち英雄譚  作者: 瀬戸星都
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0000.物語は突然に

 

 目が覚めるとそこは不思議な国だった。


 そんなことがあるだろうか、いやあるはずがない。あってたまるか!

 だがそうも言ってられない状況である。

 いつものように会社に向かい、駅のホームで佇んでいたところまでは覚えている。が、その先がどうしても思いだせない。前後不覚である。しかしながら、目が覚めるとなぜか藁でできたベッドの上で寝そべっていた。寝心地はなかなかどうして悪くないがこの状況は間違いなく異常である。


 ついでに言えば、身体に違和感がある。


 うむ。間違いない。


 目が覚めると、身体が縮んでしまっていた!?


 怪しい取引現場を見てしまったわけでもないのに身体は子供、頭脳は大人を地でいくとは夢にも思わなかった。だが、その逆でなかったのは僥倖かもしれない。身体は大人、頭脳は子供なんて目も当てられない残念感である。む、女性だったら一部の層からは萌えられないでもないかもしれない。


  無茶苦茶な言い回しなのに雰囲気で意味が通じる母国語の偉大さまでたどりついたところで、ひとまずハードモードを回避できたことに安堵する。それにどうやら身体的には中高生ぐらいの感覚である。小学生というほど小さくもなかったのは救いだ。だってほら、高いところに手が届かないとか不便だし。


 こんな状況でもなかなか頭が回っている自分に驚きつつ周囲を見回す。どうみてもワンルームの小屋だ。風呂とトイレは付いていない。家畜を飼うような飼育小屋といっても過言ではない。ずばりそうでしょう!


 どうにもまだ精神的に安定していないようだ。


 だってそうだろう。 目が覚めたらどうみても病院には見えない見知らぬ天井ときたもんだ。おまけに身体に異変ときた。これはもしかしてもしかしなくても、認めたくはないが転生したとしか思えない。いや、まだタイムリープの線もあるか。それともパラレルワールドか。自分の顔の面影が残っているのか確認できないのがもどかしい。触った感じはそう変わらない気もするが、仮にタイムリープにしても自分が若返るという副作用は説明できない。一体全体何がどうなってこんなファンタジーに自分が巻き込まれたのだろうか。空恐ろしい。


 答えがでない問にたどりついたところで、これからどうするかに思考を移すことにした。

 自分の知る限りこういった物語は数多くあるがだいたいお決まりのパターンがある。お約束というやつだ。神様が現れて状況を説明される、そしてそれは往々にして間違いで死んじゃったからお詫びに好きなスキルをもって異世界で生きてねパターン、勇者として召喚されてどこかの国の王女様に頼まれて魔王退治にでかけるパターン、いずれにせよチート的なアレだ。


 ただ残念ながら、目が覚めるまでに神様と話して力をもらったわけでもなければ、むしろなぜこの状況に陥ったのか記憶すらない。さらに言えば目が覚めてから思いを馳せている間、王女様どころか、誰かが迎えに来る気配は一向にない。

 現実は甘くないか、そう嘆きながら身体を起こす。案の定、超人的な筋力が宿っているわけでもなさそうだ。仕方がない。とりあえずこの小屋から出るしかないか、と思い至る。

 そのとき、部屋の隅にあった背の高い棚の上に書物らしきものが目に入った。書物はその時代、その世界の在り様とも言えるものだ。


「読めるかどうかはさておき、何かしらの情報は得られるに違いない」


 存外、神様も粋なことをするもんだ、と笑みを浮かべながら棚に向かう。


「む」


 いつもの感覚だと手を伸ばせばギリギリ届きそうな位置だが、身体が縮んでしまった影響で少し届かない。

 よじ登るという手もあるが、なかなか年期が入った棚のようで体重をかければ壊れてしまいそうである。誰の所有物かはわからないがここで問題を起こしておくのは気が進まない。


「せめて本がもう少し手前に置いてあれば…んっ!?」


 そう思った瞬間、棚にあった本が少し手前に動いた。

 あまりにいいタイミングで驚く。


「ねずみか何かが…?」


 少し様子を伺うが、特に生物の気配はない。


「これはまさか」


 そう思って、心の中でもう一度念じてみた。一瞬立ちくらみに襲われたが次の瞬間、本はさらにゆっくりと手前に動き出し遂に棚から落ちたところを慌ててキャッチする。


 手元の本をマジマジと見つめる。

 前言撤回。どうやら高いところに手が届かなくても不便はなさそうだ。



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