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THE GAME IN DREAM~睡眠中はゲームの世界へ~  作者: 高鷹隆貴
第一章
8/13

召喚獣

※グロ注意

「この世界ではモンスターと戦うはずなのに、いつの間にかプレイヤー同士の争いになってんじゃねーか」

「ええ、まったく…もずくの分際で何ほざいてるのかしら? …あなたなら平気でしょ?」


 スピカは後ろを見てやや悪戯っぽく微笑みながらも、目の前で起こっている出来事には少々驚いている。


「褒めるかディスるかどっちかにしろよ! …あ、ディスるのはやめろ! それとその名前で呼ぶな!」


 いつも通りのつっこみを絶やさないのは、当然ながら颯だ。至近距離に立つスピカを睨み、火炎剣を持った左手をとにかく動かしまくる。手ごたえを感じながら、電気がビリビリと伝わってくるのがわかる。


「うるさいわね。それにしても…ほんと静かね」

「どっちだよ!?」


 俺の声と、敵の声と、魔法を弾く音と、魔法が放たれて木々がなぎ倒されたり燃されたりする音は、確かにうるさいけど、外側の森の中はしんとしてて静かなんだけどね?

 今、俺の後方にいるキザな獣人族のプレイヤーが、俺とスピカに雷の矢っぽいのをたくさんぶち込んで来てやがる。俺がすべて火炎剣で弾いてるからスピカには安心してもらいたい。

 で、スピカは草陰に隠れているかもしれない敵の仲間を魔法を使って捜索中。ちなみに、捜索の仕方は茂みや木に向かって、いつもの火炎玉を何発もぶち込むというやり方だ。火炎玉の威力は火属性の下位魔法くらいに調節してあって、できるだけ捜しやすいようにしている。残念ながらこの世界には索敵魔法というものが無いようで、こうして捜すしかないのだ。…簡単だろ? 同時に森林破壊も進んでるぞ。まあ明日には設定上、元に戻ってるだろうから気にしない気にしない。


「さあさあどうした! 守ることしかできないか? 所詮剣士…魔法には勝てないか? 無力な奴め。さあ、これなら守ることすら…」


 魔力を気にせず雷の矢を打ち続ける獣人族のプレイヤーは、挑発と共にさらに異なる魔法を加えようとした。その挑発が不味かった。

 一瞬にして空が雲で覆われ、月明かりが遮られた。


「うちのパートナーを…馬鹿にしてんじゃないわよぉ!!」


 スピカが激昂し、怒り任せに獣人族のプレイヤーの頭上に無数の(いかずち)が降り注いだ。辺りを雷光と轟音が支配した。まるで天罰を受けるように雷が音を立てて落ちる。そのプレイヤーに休む暇を与えない。

 雷属性の上位魔法、轟雷だ。通常のベヒモスならこれを食らったら丸焦げになっていただろう。


「あんたの部下かしらないけどわたしを突然襲って! 透明になってわたしたちに近づいて! 雷の矢を打ちまくりやがって! それら全部こいつが退けてくれたのよ! 謝んなさい! 謝れ! 〇す! ぶっ〇す! 気持ち悪いのよ、あんたたち! 〇ね! 変態! 〇ね!」


 スピカが叫ぶたびに、雷の威力が増して獣人族のプレイヤーの頭上に落ちていく。四方八方に散りばめる電気が、肌を通って体全体で感じられる。颯は背中に冷や汗を掻いた感覚を覚えた。

 スピカ、それ女子が言っていい台詞じゃないと思うよ? 怒らせたらこんな仕打ちを受けるのか。…それにしてもスピカが受けたことを聞くと確かに酷い奴等だな。あいつら。


「あ、あの…スピカさん?」


 と、颯が恐る恐る声を掛ける。やがて、雷の雨が止んだ。敵の姿は跡形もなく消えていた。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ……ふう…ストレス解消! さて、捜索捜索っと」


 肩で息をしていたのにも関わらず、さも何も無かったかのように敵の仲間の捜索を再開したスピカがいた。

 あんた日頃からどんだけストレス溜まってんの!? 原因が俺じゃないことを願おう。


 刹那、


「――――ぁ」


 スピカの背中に剣が刺さった。

 誰かが短剣を投げつけ、スピカの心臓を串刺しにしたのだ。

 剣身の長さは三十センチ、横幅は五センチほどの短剣だ。投げつけるのによく使われており、投擲ナイフとも呼ばれている。

 彼女の鮮血が飛び散る。瞬殺ではなかったらしい。スピカは意識を保ったまま、その場に座り込んだ。

 自身の胸から突き出た剣先を見て、理解した。


「…あ、あ……もず…く…」


 スピカは地面に横倒しになり、現実と同じような痛みを感じ始める。口から血が垂れ、意識が朦朧とし始める。

 とてもリアルに感じられるのは、ダイグトを使用したときから皆知っていることだ。ここまで再現したのは、少々やりすぎという意見も少なくはない。

 颯はその情景を唯々呆然と眺めることしかできなかった。ふと我に返った颯は、すぐにしゃがみ込む。


「スピカ! 大丈夫じゃないな!? 回復薬はあるか?」


 颯は回復魔法を使えない。なぜなら、回復魔法は各属性魔法と異なり、一部の者しか所持していないからだ。そのため、町でお金を払って回復薬を買わなければ、クエスト中に回復する手段がない。

 颯は丁度切らしていたため、スピカに回復薬を渡すことができなかった。


「なんでもいい。すぐに回復をしてく――なッ!?」


 スピカの安否を確認しているところを狙われてしまったようだ。右腰が少しだけ軽くなった。

 右腰に携えていた、火炎剣を作り出す鞘を奪われたのだ。

 それを奪った犯人はそそくさと草陰に身を隠す。


「待て! 誰だ! それを返せ!」


 颯はバッと立ち上がり、駆けだそうとした。が、「これでいいか?」という男性の声と共に放たれたのは光属性の閃光だった。先程の轟雷の数倍の閃光がこの空間を支配する。颯は目を守ることができず、その光を(じか)に食らってしまった。


「うぐっ……」


 颯は両目を押さえて座り込んだ。背中からはスピカがぜえぜえと息を荒げているのが伝わってくる。

 このままだと不味い…狙われる可能性が在り得る。唯でさえ、スピカがこんな状態なのに、襲われると手段が限られてしまう。


 ぼやぁと、ゆっくりとだが徐々に視界が開けてきた。すぐにスピカの安否を確認するため、振り向かずに背中で問いかける。


「スピカ、大丈夫か?」

「ええ…なんとか動けるわ。安心して。――今楽にしてあげるから」

「…は?」


 完全に視界を取り戻した颯が、スピカの妙な発言を耳にしてバッと後ろを振り向くと、両手を颯に向け、人の高さほどの大きさのある魔法陣から、今にも魔法を発動させようとしているスピカの姿があった。

 そして、彼女は呟くようにして唱える。


獄魔(ゴグマ)


 複数の黒い『何か』が颯を襲った。


 ◇ ◇ ◇


 木陰に身をひそめながら、二人のプレイヤーがお互いの顔を見る。タクトと彼の部下だ。


「タクトさん、さっきのは…轟雷、でしょうか…?」

「おそらくな……それにしてもすさまじい魔力だ。相当強いやつだろうな。まさか…あの獣人族か?」

「もしそうだとしたら…あの剣士と同レベルに達しますよ?」

「まだ監視し続ける必要がありそうだな。…っと、戻ってきたみたいだ」


 こそこそと話し合う二人の下に、先程颯たちと戦を交えていた二人が駆けつけた。


「タクト、戦利品だ。ほら」


 そう言ってタクトに物を投げつけたのは、金髪でショート、動くたびにそのうざったらしい態度を見せるあの獣人族だ。

 タクトは袋に包まれた()()を片手で受け取ると、中身を取り出した。


「まさか…本当に存在するとはな。これが、やつが持ってた魔法剣を作るっていう鞘だな?」


 タクトが袋から取り出したものは、颯がスピカを心配している内にもう一人の部下が奪った火炎剣を作るための鞘だった。その炎は燃えることを忘れずに、鞘の中で静かに赤く輝いている。


「ああ、なんなら試しにやってみるか?」

「そうだな、やらせてもらおう」


 タクトはふっと口元に笑みをこぼすと、腰に刺さった投擲ナイフをサッと手に取る。右手に持った炎の鞘にその投擲ナイフをしまい込み、五秒待ったあとに目の前で静かに引き抜いた。

 その投擲ナイフは炎を纏い、赤く燃え盛る火属性の魔法剣、火炎剣へと姿を変えていた。


「ほう…こりゃすごい。――ハッ!!」


 タクトはそのナイフを背中の木に向けて一突きする。

 スッ、と幹を焼いて、刃が木に刺さる。そのまま横にスライド。何の躊躇いもなくその木は横に焼き斬られ、ズシィンと音を立てて横倒しになった。

 タクトは、未だ炎が消えないナイフを自身の顔の前に持ってくる。


「なかなかのものだな。こいつは使えそうだ」


 不敵な笑みを浮かべてナイフを見つめるタクトは、その後、自身以外のメンバーそれぞれに監視を続けろという指示を出した。


「さあ…これからが見ものだな」


 ◇ ◇ ◇


「獄魔」


 スピカの詠唱により、複数の黒い何かが颯を襲う。彼女の掌には、三つの魔法陣が存在を示していた。

 その何かとは、小型のベヒモスだった。が、唯のベヒモスではなく…あの妙な雰囲気を醸し出したベヒモスだった。一頭のベヒモスがその鋭利な爪を煌めかせ、颯に一直線に飛びつく。

 颯の頭は混乱状態に陥り、とても避けることができる状態ではなかった。そのため、初めの一頭の鉤爪が颯の左肩を貫いた。刺された勢いで颯の体が後方に吹き飛ぶ。ベヒモスによって地面に押し付けられた。肩からじわじわと血が流れ出る。


「ぐ…ぐあああッ!!」


 肩に走る痛みに耐えきれなかった颯は、絶叫を上げた。

 そんなこともお構いなしに、続いて二頭のベヒモスが左右に分かれて颯を襲う。ベヒモス三頭による連携プレーだ。

 颯は痛みに耐えながら、左右から襲い掛かるベヒモス二頭にそれぞれ右手左手を向ける。


「吹き飛べッ! 風砲!」


 左右の掌に出現した魔法陣が左右同時に目に見えない砲撃を放つ。

 風属性の下位魔法、風砲。威力はゼロに等しいが、対象にヒットした場合、その対象は十メートル以上後方に吹き飛ばされる。範囲は狭いが、使いこなせば強力な武器にもなり得る。


「無駄よ」


 だが、スピカが言い放ったと言葉と同時にベヒモスが高く跳躍する。二匹一緒にだ。当然、颯が放った風砲はベヒモスに触れることなく過ぎて行き、近くの木を根元から折って吹き飛ばした。お陰でベヒモスとの距離は遠ざかるどころか縮まってしまった。まるで、スピカがベヒモスたちを操っているように見える。

 スピカのこの行動は一体なんなのか。それを聞きたいが、今はそれどころではない。

 颯は剣身が約七十メートルの片手剣を自身のインベントリ内から右手に出現させ、目の前で颯を地面に押さえつけているベヒモスを斬りつけようと試みる。が、既に遅かった。

 上空から飛びついてきた二頭のベヒモスが颯の両腕にそれぞれ噛み付く。鋭く並んだ牙が両腕に貫通してめり込み、とたんに体中を激痛が走る。牙がめり込んだ両腕からさらに出血し、颯の服がじわじわと血で染められていく。


「うがあぁぁぁ!!」


 颯はその激痛によって再び叫ぶ。森の狭い範囲に空しく響くだけだった。


「大人しくこれで死になさい。そして二度とわたしの前に現れないで頂戴」


 鋭い目つきで颯を睨んで、目の前に掌を掲げるスピカの足元に、半径約三メートルの魔法陣が出現する。紫色に輝いており、時折黒い砂煙のようなものが舞い、バリバリと雷が鳴っている。不吉な予感しかしない。

 その間、颯の体は更なる痛みに襲われていた。

 最初に襲ってきたベヒモスは、もう片方の前脚で颯の脇腹を刺し、両サイドのベヒモスは未だ腕に噛み付いたまま、前脚で颯の腕を何回も引っ掻く。精神的にも肉体的にも深い傷が次々に刻まれていく。その度に颯の鮮血が飛び散り、彼の周りが血の海と化し始める。

 もうだめだ、このままじゃ死ぬ。誰か助けてくれ。

 颯の頭の中は、さまざまな痛みと共にそれらの言葉が駆け巡っていた。

 スピカが召喚したベヒモスたちに蹂躙される颯。スピカはその光景を変わらぬ瞳で眺めながら、颯に最後の台詞を聞かせる。


「其の姿を我の前に現せ! 地獄の番犬(ケルベロス)! 其の者に天罰を下せ!」


 スピカの足元の魔法陣が淡い輝きを放ち、獣を呼んだ。雷がバリバリと、先程よりもさらに音を立て始める。次いで、そいつは頭から姿を露にする。

 巨大な犬の顔が三つ、それぞれ首を持って、だんだんと見えてくる胴体につながっている。三つとも鎖につながれた鉄の首輪をそれぞれの首にはめている。その次に出てきたのは前脚だ。付け根から見られるがっちりとした筋肉。五本の指から突き出た二〇センチほどの大きさの鉤爪。それは後ろ脚にも見られ、その巨体を支えるために、後ろ脚はさらに筋肉がついている。最後に、長い尾が三本生えたそいつの名は――


「ケル…ベ…ロス…?」


 地獄の番犬と呼ばれ恐れられる、ケルベロス。『この世界の地獄エリアのようなところがあって、そこに生息しているため未だ誰も目にしたことがない』と言われているが、なぜかその姿だけは、町『アルギエル』で露になっていた。そのため、颯は一目見て理解したのだ。

 スピカはこいつを、自身の召喚獣として呼んだ。

 召喚獣――それは、プレイヤーに召喚されたモンスターを指す。モンスターの召喚は陰属性魔法の一種で、これは、颯のようにいくら魔法が使えたとしても、獣人族でなければできない。獣人族の特権である。

 ただし、召喚獣を召喚して操れることができるのは、特大の魔力を有した者に限る。しかも、モンスターの大きさが大きければ大きいほど、魔力消費量が多くなる。つまり、スピカはそれ相応の魔力を秘めているため、このようにケルベロスを召喚することに成功した。ちなみに、三頭のベヒモスも同様である。


 ケルベロスは、三つの頭を揃って颯の方へ向け、その双眸で彼らの獲物を睨みつける。その瞳に宿るものは、殺意のみ。


「グルルルル………ガアッ!!」


 唸り声を上げ、三頭のうちの一頭が口を大きく開き残りの二頭に突進の合図を出した。

 同時にケルベロスの四本の脚が大地を蹴った。その巨体からは想像もできない速さで颯をめがけて駆ける。ケルベロスと颯の距離が一瞬で縮まる。ケルベロスの突進に気付いたベヒモスたちは、自分まで巻き込まれるのはごめんだとばかりに、さっと身を退いた。


 その時だった。

 颯の体が浮き、彼は自身の肌に柔らかいものが触れている感覚を覚えた。そう感じている間に、颯は空中を風の如く移動し、速度が落ちながら彼の動きが止まる。そして、地面にそっと()()()()

 月光に照らされ、銀色に輝く艶やかな長い髪が視界に入る。そこから見えてきたのは颯が持つものとと同じ耳、頬、鼻、口そして目。なぜだか、彼女の瞳の奥から喜びが伺える。容姿端麗なその美しい姿は、月夜の下で非常によく映える。

 正真正銘人間族のその美少女は、動きやすく、素早い移動が可能な防具を身に纏い、左腰には一本の鞘を装備していた。

 彼女はその空色の瞳に無惨な颯の姿を映した。そして、ふっと笑みを浮かべると、スピカが立っている辺りを見た。


「待っててください、ヒーロー未遂さん。今からわたしが片付けてきますので」


 聞き覚えのある澄んだ声を発した銀髪の美少女は、これまた銀色に煌めく両刃剣を右手に、自身の足元で「チャキ」と音を立てて構えた。

設定があまり安定してませんので、変なところあったら報告お願いします。

今後編集するかもしれません。

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