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THE GAME IN DREAM~睡眠中はゲームの世界へ~  作者: 高鷹隆貴
第一章
6/13

西の森

 …って、どうやったら七月に桜なんて出てくんだよ。ほら、すべて幻じゃないか。はぁ、夢見すぎたせいかも。それにしても、妙に、スピカは親近感といいますか…話しやすいといいますか……そういうのがある。ま、おんなじ学生なんだからそこまで歳の差はないってことかな。とりあえず、あの性格をなんとかしてほしいものだ。せめてツンデレになるか、普通に友ととして戦う仲間、みたいな感じになるかにしてほしい。…あれ? 俺、絶対に一緒にクエストなんて行かないぞ、とか思ってなかったっけ? う~ん、自分でもよくわからんな。


「スピカかぁ…名前だけだとかっこいいなぁ」


 先ほどすれ違った女子高校生があまりにもスピカに似ていたものだから、一瞬の間に色々考えてる内についに口に出てしまった。しかも独り言程度ではなく、人に話すくらいの大きさで。

 通り過ぎたばかりの女子高校生は、それを耳にしてピタリと足を止めた。


「なんか星とかの名前ってかっこいいのあるよな…スバルとか。…俺なんか食べ物だし」


 周りには不自然だと思うほど人が少ない。そのため、二人の足音が一人分減ったときには、すぐに気が付くだろう。


「もずく……でもまあ、おいしいからいいよな、別に」


 だが、一歩一歩、確実に地面を踏みしめて、独り言を大きな声で喋りまくる颯は気が付かなかった。

 女子高校生の足の向きが、颯がいる方向へ向く。


「それにしても…海の藻屑はひどいよなあ」


 女子高校生は、腕から提げられた通学用かばんに手を突っ込んだ。そして、かばんからペンケースのようなものを出した。


「もうちょっと言い方ってもんがあると思うんだがな~…っと。俺、今すっげー大きい声でブツブツと言ってたような…」


 そこで、颯はやっと気付いた。彼女の足音が止まっていることに。…あと独り言の音量が大きかったことにも。ちょっとだけ恥ずかしくなってきた。

 あれ? さっきの女子の足音が聞こえない。止まったのか? 走っていったのか? それとも――いや、絶対そう…でゅあ?

 颯が後ろを振り向くと、信じられないものが目の前にあった。というか飛んできて頬をギリギリで避けて後ろに飛んでった。


「うわっ!?」


 反応が遅れたが、俺は確かに見た。飛んできた物体を。それは……ハサミだった。右利き用の。右利き用の。大事なことなので二回言いましたってわけじゃ…いや、意外と大事なんだよな、これが。俺左利きだからそういうのうるさいんだよね…………


「って通りすがりの男子になんてもん投げつけてんだテメェェ!!」


 颯はビシィ、と女子高校生を指差す。と、その少女はハサミを投げた方の右手を引っ込めた。


「あんた、もずくね? 顔と声とそのつっこみでわかったわ。それにブツブツとうるさいわね」


 聞き覚えのある声、口調。あの世界から、色だけ変わった髪と瞳。その少女は、(颯に対して)尋常じゃないほどの罵詈雑言を吐くのとは裏腹に、容姿端麗でお嬢様のような存在。


「やっぱりお前スピカだったか。あっちの世界とほとんど変わんねえな」


 あとその名前で呼ぶな。そしてもう一つ。ハサミの件はスルーする気か? 超怖かったぞ。それにしても、マジで女だったんだ。


「あんたに言われたくないわね。あんたなんて、全く変わってないじゃない。分かりやす過ぎるわよ」

「うるせえな。で、学校は大丈夫なのか? ここからだと徒歩であと二〇分はかかるだろ」

「平気よ。…って、なんであんたはわたしの通う高校知ってるわけ?」

「はっ……それはだなぁ……あれだ。その制服がうちの学校と似てたから印象に残ってんだよ」

「ふ~ん…? それよりあんたも学生だったわね。あんたこそ、いいのかしら?」


 スピカは腕を組み、颯に問う。

 やっぱそこ突いてくるかぁ。ま、テキトーに誤魔化しとりゃいいっしょ。


「ああ、気にするな。俺は平気だ。それにしても、意外と近くにいるもんなんだな」

「今日平日よ? 休むつもり?」

「禁忌に触れることになるからそのことはもう聞くな。それにしても、意外と近くにいるもんだな」

「現実でも同じような性格をしているとはね…聞いてて腹が立つわ」

「奇遇だな。俺も誰かさんに対してそう思っているんだが……それにしても、意外と近くにいるもんだな」

「あら、現実では逃げ腰のようね。ま、どっちでも構わないけれど」

「現実でも変わらないとか俺にとっては恐怖の塊でしかないんだよ。…そ、それにしても、意外と近くにいるもんだな」

「ええ、そうね。まさかこんなところで再開するとは思いもしなかったわ。わたしったら朝から災難ね」


 四回目でやっと答えてくれたわ。さて、さっさと本買いに行くか。


「ああ、世間は狭いな。…俺そろそろ行くわ。じゃあな、また夜に」


 颯がそう言って後ろを振り返ろうとした時、スピカに呼び止められた。


「ちょっと待って」

「ん? どした」


 それは、スピカらしくなくて。なんだかもじもじしてて。でも、それは一瞬だけだったけど、確かに今までのスピカとは違った表情をしていた。


「電話番号とメアド教えて。なんかあったらすぐに連絡できるようにしたいから」


 おい…フラグ立てんな。それなんかあるだろ、絶対。


「ラインでいいだろ」

「そんなアプリ…あったわね」


 こいつ…もしかして現実でもソロプレイヤー(友達ゼロ)なのか? まあこの性格だしな。そうかもしれん。


「ほい。これでいいな」


 互いのラインに友達が一人追加された。

 俺もソロプレイヤー(友達ゼロ)だからお互いライン交換すんの初めてで以外と時間かかったのは置いといて。


「ええ、感謝するわ」

「そうだ。一応自己紹介しておくよ。俺の名前はあく…亜木菟(あずく)(はやて)だ」

「わたしも名乗っておくわ。星宮(ほしみや)穂咲(ほさき)よ。これからよろしく」

「よろしく? 俺とお前は今日の夜にちょっと話したらさよならじゃねえのか?」

「現実でもこうして知り合っちゃったんだし、ラインだって交換したじゃない。これから一緒に戦いましょ?」


 脳裏にスピカと会った時からの会話が蘇ってくる。颯自身、酷い言われようだ。


「なんでお前なんかと…」

「でもわたしのおかげでモッツを倒せたでしょ? それにお互いソロプレイヤーで他人に迷惑は掛からないはずでしょ? それに二人の方が得だと思うのよね…どうかしら?」

「う~ん…じゃあ、とりあえずってことで」


 コイツの毒舌に耐えるしかなさそうだな。いつかツンデレとかに進化してくれることを願おう。


「じゃあな。また夜に」

「ええ、さよなら」


 お互に別れて、反対側に振り向いて歩き始めた。

 勢いでライン交換しちゃったし…それに初めて交換した相手が同じ高校の女子とか、どこの幸せな主人公だよ。いやまあ、相手があいつの場合幸せってことはないか。


 ◇ ◇ ◇


「よいしょっと。あとは待つだけか」


 あの後、本を買ってからいつものようにアニメ見たり本を読んだりネットサーフィンをしたりして夜を待ったが、結局スピカからはなんの連絡も来なかった。つまり、何もなかった。フラグとか、関係なかった。ラインの使い方くらいわかってるとは思うから、本当に何もなかったのだろう。

 そのため、颯はこうしてMDFの世界にやってきた。今は十一時一〇分。場所はいつもの静かなクエストカウンター前。颯はいくつかの並べられたテーブルを囲む椅子に腰を預けている。

 あいにく、ここでは武器や魔法を出すことができないため、ひたすら待つか、ショップやアイテムの確認をするくらいしかすることがない。二人以上いればそれらの問題は解決するのだが、残念ながら颯は一人である。


「あいつに来る時間聞いときゃよかった。くそっ」


 だからといって、このまま現実世界に帰ることはできない。ひたすら待つしかないのだ。


「とりあえず、クエストだけ決めとくか」


 颯がそうつぶやき、椅子から立ち上がったところで後ろから声がかけられた。


「も~ずく~! 待たせたわね~!」


 振り向くと、スピカが手を振って走ってくるのが目に入った。

 やけにテンション高いな。学校でなんかうれしいことでもあったのか? あとその名前で呼ぶな。


「ああ、待ちわびたぞ。もうちょっと早く来てくれよ」

「あんた、それ最低よ!? デートとかでそんなこと言ったら彼女とすぐ別れることになっちゃうわよ?」


 は? デート? なんだ? 俺は今お前とデートしてんのか?


「いや俺、彼女いねえし、俺と付き合おうと思うやつなんていねえだろうし、デートなんて俺の人生で一度たりとも無いイベントだし、そもそも彼女なんていらねえし」

「そ、そんなことないわよ。自信持ちなさいよ」


 なんだ、こいつ……ちょっと変わってねえか?


「どうした? スピカらしくないぞ? 学校でなんかあったか?」

「いや!? いやいやいやいや…そんなことないわよ? 学校でなんて何も…」


 スピカは颯から視線をずらし、遠くを眺めた。


「『あったよアピール』すんのやめろ。で、なにがあったんだ?」

「…アピールなんてしてないわよ。まあ、なんというか、その…」


 彼女は下を向いて今日の朝のようにもじもじとした態度で恥ずかしそうに続ける。


「その、か、彼氏ができたのよ! う、羨ましいでしょ?」


 スピカは思い切り、今日のことを告白すると、腕を組んで自慢げな態度をとった。

 なるほど…だからさっきからデートだの彼女だのうるさいわけだ。


「へー。そりゃよござんした。お前彼氏すっぽかしてよく俺と遊べるな。あと、さっき言ったから省略するけど別に羨ましいなんて思ってないから」

「ふ、ふ~ん! 本当は羨ましいくせに、なに見栄を張ってるのかしら? そんなことだから…」

「さっさクエスト行くぞ。…西の森でベヒモス十頭討伐のやつお願いします」


 颯はさっさと話しを切り捨てると、いつものNPCに声をかけた。


『承知しました。そちらの方もご一緒になりますか?』

「はい、よろしくお願いします」

「え、ちょ、あんた…なんでクエスト行くのよ?」


 スピカが颯の予想通りのことを尋ねたため、颯はスピカの耳にそっと口を近づけ、小声で教えた。


「ここじゃ剣や魔法が使えないからだ。それと二人きりで話したいからな」

「しょうがないわね…わかったわよ」

「行くぞ」


 西の森に向かうため、二人は町の西門に向かって歩き始める。


「ねえ、もずく」

「なんだ?」


 あとその名前で呼ぶな。


「わたしのクラスにね、あの圷雅(あくつみやび)がいるのよ」

「は? マジで?」


 圷雅といえば、このダイグトやMDFを作成した張本人だ。スピカはクラスに彼がいるという。


「すごいでしょ? しかも驚きなさいよ! それが…」


 いや、俺が驚いたのはそっちじゃないんだが。


「それが、わたしの彼氏はその圷雅なのよ!」

「は…はあああああぁぁぁぁぁ!!??」


 驚きすぎてスピカの目の前で思いっきり声を上げてしまった。慌てて口元に手を置く。


「うるさいわね。…それにしても驚くのも無理はないわよね。…そういうことなのよ。すごいでしょ」


 いや、だから俺が驚いたのはそっちじゃないんだってば。


 ◇ ◇ ◇


 今は、町を出て西の森に向かっている最中(さいちゅう)だ。二人は並んで歩いている。


「えっと、まず、何から話そうか?」

「そうね…あの燃えてた剣、なんなのよ? その炎纏ってる鞘と関係あるのかしら?」


 スピカはそう尋ねると、颯の右腰に掛けられた炎の鞘を指差す。

 そうか、まずそこからか。…めんどくせ。


「よくわかったな。あの燃えてた剣は火炎剣。魔法剣の一つだ」

「魔法剣!? あれって作れないんじゃ…」

「だから、頑張って作ったんだよ。ほら、見とけ」


 颯はそう吐き捨てると、左手に持った普通の剣を右腰の鞘に納刀する。そして、引き抜く。

 引き抜かれた剣は紅蓮の炎を纏い、自らを火炎剣と変化させていた。


「消えないだろ? これが魔法剣だ。で、この鞘は火属性を使って作ったから今の時点では火炎剣しか作れないけど、たぶん全属性使える」

「ほんとね…火が消えてないわ。あんた、よくこんなもの思いついたわね」

「だろ? で、だ。この前の見ただろ? 衝撃波みたいなやつ」

「ええ、それも不思議だわ」

「こうして、イメージして火炎剣を振りかぶっても、ちゃんとできない」


 颯は衝撃波をイメージして火炎剣を横に振るが、周りの雑草が焦がされる以外に、何も起きなかった。


「でも、声に出せば、できるらしい。すぅ……衝波斬ッ!!」


 颯はそう叫びながら火炎剣を再び横に振ると、前よりは小さいが、衝撃波が生まれ、前方に飛んでいった。


「え? え? そ、そんなことが…できるなんて…」

「実際見たことないものでも、声に出すことで、発動することができるんじゃないか?」

「すごい…知らなかったわ」

「じゃ、行くから手を繋いでくれ」

「どこに?」


 スピカは躊躇うことなく颯の手を握ると、颯を見て問いかける。


「東の森から町に帰ったときあったろ? 今からあれで西の森まで移動する。ちゃんと握っておけよ」

「え? それってもしかしてあれ?」


 颯は西の森でスピカを助けた場所を思い浮かべた。そして、同時に光魔法と陰魔法を組み合わせる。

 二人の足元に半径一メートルの大きい魔法陣が現れた。


「ああ、転移だ」


 魔法陣から放たれた光は二人を包み込み、二人を西の森へと転移させた。


 ◇ ◇ ◇


 西の森。木々に囲まれており、太い木から横に伸びた枝の上にポツンと放棄されたような小屋。高い位置から草原を見渡せる、その小屋から外にでてすぐの足場から、二つの人影が草原を眺めていた。


「おい、あいつだ。あの獣人族も一緒だぞ」

「本当か? ならついでにそいつも葬っちまおうぜ」


 その二人は、以前スピカが殺されそうになったときの、襲い掛かったほうのプレイヤー二人だった。


「ああ、あいつ絶対に…って、なんだあの技は!?」

「衝撃波…? そんなものが使えるのか?」

「おい、あいつら手を繋いで…消えたッ!? そんなばかな!」

「あのクソ剣士、一体何者だ!?」


 と、小屋の中からもう二人のプレイヤーが姿を現した。フード付きのマントをかぶり、顔から足まですべて隠している。


「ごちゃごちゃとうるさいぞ」

「「す、すみません!」」

「おそらく…転移魔法だろうな。なめてかかると返り討ちにされるだけだ。さあ、作戦を立てるぞ」

「「了解です! タクトさん!」」


 その四人のプレイヤーたちは、小屋の中へと姿を消した。

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