THE GAME IN DREAM
どこだ…ここは…? 日本じゃないのか? 俺はなんでこんなところに?
様々な疑問が颯の頭の中を駆け回る。
すべてのプレイヤーの装備は初期装備に戻っている。記憶を改竄されたため、誰もそこには触れていないが。
「本当にどこなんだ……一体なにが…」
何のためにここにいるのか。そもそもこの世界は何なのか。
今の状況を根本的に理解することができないまま、突如異世界に召喚されたプレイヤーたちのゲームが始まった。
その事件が起きたのは、ダイグト完全版発売の春から四か月後のことだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
二〇五〇年。
その年のある日、二人の日本の科学者と、二人のエンジニアが、これまで誰も試したことがない、ある実験に挑んだ。
それは、夢の研究だ。
夢には様々な種類が存在する。正夢、悪夢、逆夢、明晰夢等。
一人の研究者は明晰夢を研究した。明晰夢とは、睡眠中に見る夢のうち、「あ、これ夢じゃん。やったー自由だ―!」などと、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことだ。
そして、もう一人の研究者は、共時性、またの名を、シンクロニシティというものを研究した。それは、端的に表すと、他人と同じ時間に共通の夢を見る、という類の夢である。この夢はごくまれにしか起こらないため、研究が難しいとされてきた。
二人の実験では、それらを合わせて一つの夢を誕生させるという奇想天外な実験が行われていた。そしてついにその実験は成功した。その実験の被験者らは、こう述べている。
「これはまさしく自由そのものだ」
「これを使えば、夫と夢の中でも生活できるわ」
この発言により、その二人のエンジニアはあることを考えた。
――この夢をさらにコントロールできれば、自由なゲームのようなものを作り出すことができるだろう、と。
その考えにより、さらに研究が重ねられた。一人の被験者がその夢から永遠に目覚めなくなっってしまった、という悲劇が訪れるまでは――。
その事件もあり、それらの研究の実験が禁止され、永遠にエンジニアらの夢は叶えることができなくなってしまった。
――のだが。
その五〇年後、二一〇〇年のことである。ある一人の若いエンジニアが立ち上がった。彼の名は、圷雅。
彼は自身が十五歳のころに、約五〇年前に禁止となった研究を「自分は自殺したいから」という理由で解禁することに成功した。もちろん、初めは相手にすらさせてもらえなかったが、約半年もの間、粘り強く何度も何度も説明をして、ついにその実験を解禁させることに成功した。
彼は、それから半年の間研究をして、その試作品の装置を作り、それから半年後には完全版を作り上げた。
この研究は秘密裏に行われていたため、その実験結果を耳にした世界中の人々に混乱を招いた。だが、その中でも、彼は更に半年後の二一〇二年の春に完全版を発売した。
「いい感じにまとめられてんな~」
と、颯はテレビを見ながら満足そうに呟く。
ここは亜木菟颯が住む住宅の、彼の部屋だ。
現在一七歳、高校二年生…とはいうものの、颯は引きこもりなわけだから、学校には行ってない。まあちょっといろいろあって。
颯は目の前のリモコンを手に取り、テレビの電源を切ると、ベッドのそばの机に置かれたヘッドフォンを見た。
「安全性と質の良い睡眠を重視した、睡眠時着用ゲーム起動装置、『THE GAME IN DREAM』ねえ。もうちょっといい名前は無かったかな」
それこそが、圷雅が生み出した、夢を見ているときに世界中の人たちとゲーム(のようなもの)ができる装置だ。商品の名称が長いことからつけられた呼び名は――『DGIT』。ダイグトと呼ばれる。
一見普通のヘッドフォンなのだが、身に着けた人が眠りについたときにのみ起動し、夢の世界へと誘われる。
「ふぁ…眠くなってきたし、もう寝るか」
現在は午後十一時。
颯はそのダイグトを手に取ると、ベッドに寝転がった。
「よいしょ」
ダイグトのコードは既にコンセントに刺してあるため、ダイグトのコードをディスク読み込み装置に繋げて、目を閉じる。そのまますぐに眠りに落ちた。
『安全確認――安全です。睡眠確認――動作に不必要な部分はレム睡眠へ移行――完了。…THE GAME IN DREAMを起動します。『マルチプレイヤー・ドリーム・ファンタジー』を読み込み中…完了――起動します』
ダイグトから頭の中に流れてきた女性のAIの声を聞いていると、パアッと視界が開いた。真っ白で巨大な立方体の中にいる感じだ。辺りには何も見当たらない。
『プレイするセーブデータを選んでください』
その声とともに、目の前に三つのセーブデータが現れた。颯はそのうち、一番上のデータを選び、手で触れる。
『このデータでプレイします。よろしいですか?』
「はい」
『マルチプレイヤー・ドリーム・ファンタジーの世界へ、行ってらっしゃい!』
今日はつっこませてくれ。…最後だけテンションアゲアゲじゃねーか。なんだ? 都会の遊園地のアトラクションで乗り物に乗る時に手を振って送ってくれる可愛い可愛いお姉さんのつもりか? 俺は同級生の方が好みだからせめてそっちにしてくれ。
次の瞬間、颯は光に包まれた。
読んで下さってありがとうございます。
設定がおかしいことがあるかもしれませんが、ご了承ください……