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こみゅしょう!  作者: TK
第一章
39/41

39

 最初のお客さんこそ元気なあいさつで出迎えた俺だったが、その後は失敗したということもあるが、我に返って裏声を出すのが恥ずかしくなってしまいなかなか接客ができずにいた。幸い俺と上野さんは飛び入り参加だったため、なぜか衣装は用意されていたが、それほど仕事をしなくても許されている雰囲気だ。というかぶっちゃけ何をやっていいかわからない。いらっしゃいませ以外に何すればいいんだ?わからないことはしっかり聞こう。これ大切。

「あの~」

「何? 溝部君」

「いや、結局何をすればいいか聞いてないなーと思いまして」

「ああ~ごめんごめん。といっても接客してとしか言えないんだけど、マニュアルとかないし。そうだなぁ、男なんだしもしもの時に備えて見張りってのはどう?」

 じゃあなんで俺はこんな格好させられてるんですかね……。

「はあ、わかりました」

「んじゃよろしく~」

 結局仕事がなくなってしまった。俺ここにいる必要ないんじゃないのかな。

 暇なのでここは辺りの様子をしっかり見張ることに専念しようと思う。

 コスプレ喫茶とは言ったものの、みんな結局メイド服ばっかりである。ただ色はみんなそれぞれ違うようだ。明るめの色が多い中、上野さんの黒だけが逆に目立っている。

 上野さんも何をしていいのかわからないのか、ぼーっとしている。その様子をじっと見ているとふいに目が合ってしまった。すると彼女は近寄ってきて小声で話しかけてくる。

「ねえ、これ結局どうすればいいの?」

 彼女がひそひそと話しかけてくるので耳が幸せだ。じゃなくて、

「え、えっと、俺はなんか見張りやっとけって言われて……」

「私もそれでいいかしら? 接客なんてまだ私には無理と思うのよね」

 そういえば彼女は俺と違ってコミュ障の範囲が広い。最近人と少し話すようになったけどそれは知り合いとだけだ。

「じゃ、じゃあ二人で立ってようか」

 こうして二人揃って見張りをすることにした。はっきり言ってめっちゃ気まずい。普通ならラッキーだと思うのだろう。だが今俺が置かれている状況はいささか普通とはかけ離れているように思う。

 一つは俺が彼女を意識しすぎて現在進行形で彼女に対してコミュ障状態であること。正直他の女子より緊張する。

 そして今俺は女装しているということ。どうして好きな人と女装しながら二人でいないといけないのか。これは拷問に等しい。

 ここはいったん退くしかない。じゃないと俺がもたない。

「お、俺はあっちの方で見てるよ」

「そう? そんなに広くないからどこで見てても変わらないと思うけど」

「いやいや、見張る以上はとことんやらないと」

 そう言って彼女との対角線上に移動することに成功した俺は安堵しつつも軽く後悔をする。

 いつまでもこのままではいけないと思いつつも打開をする勇気が俺にはないのだ。現状をきっぱりと維持することも、思い切って告白することもできないのだ。

 こうしていつものようにうじうじしているとその時、

「ねえちゃんたち可愛いな。このあとちょっと付き合ってくれよ」

「いえその、困ります……」

「ああ? いいじゃねえか」

 まるで見本のような迷惑客が現れたのだった。

 見張りを任されている身であるので咄嗟に前に出る。何を思ったのか俺はこの時裏声を忘れていなかった。

「お客様、そういったことは他のお客様にご迷惑が掛かりますので……」

「なんだよ……おっ、ねえちゃん可愛いね! どうだい代わりにあんたが相手してくれないか」

「ですからお客様」

「いいじゃねえかよ。な?」

「私男なんですよ?」

「えっ。……またまた冗談がうまいね!」

「いや、だから俺、男です」

「えっ」

 迷惑男は一瞬固まった。

「いやいや俺は騙されねえぜ。男の声も出せるなんて芸達者だね!」

「だから男なんだってば」

「いいからいいから行こうぜ」

 男は俺の腕をつかみそのまま連れていこうと歩き出す。力はかなり強かった。

「ちょっと、やめてくださいって」

 俺が本気で力を入れようとしたその時、

「そこまでです」

 一言で静寂が訪れた。

「そこまでにしていただけますか。これ以上は本当に、警察呼びますよ」

 声の主はもう一人の見張り役、上野さんだった。その凛とした声は怒気をはらんでいた。底冷えするような迫力に迷惑男は、先までの態度はどこに行ったのか、気圧されていた。

 それに、と上野さんは付け加え、

「この子は私のですよ?」

 まるで凍り付くような笑みで……いや待って今なんて言ったこの人?

 すごい迫力で放たれたその言葉に、男はおろか周りのみんなの空気が凍り付いた。

「えっとその、お幸せに?」

 混乱しているのだろう。男は意味不明なことを言って立ち去っていった。

 そのままの空気でしばらくたつと、ようやくといっていいのか、拍手が巻き起こった。

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