第1話:ゲーム?
春。四月の爽やかな風が桜の花びらとともに、ここS高校の体育館を通り抜けていった。
今日はS高校の入学式である。見事受験戦争を勝ち抜き県内トップの高校に入学を決めた新入生たちが、真新しい制服に身を包み誇らしげに座っている。
と、その集団の中に一人だけ、誇らしくもなくだらりと、もはや椅子からずり落ちそうな姿勢で座って、いやたった今ずり落ちた生徒がいた。厳かな空間にガッタンと大きな音を響かせて、周囲から非難の視線を浴びながら目を覚ました彼は、ぼんやりした顔で椅子を立て直して座り、また何事も無かったかの様に眠り始めた。
「おい、これ落ちたぞ。式の最中に何寝てるんだよ」
話し掛けたのは彼の隣に座っていた少年だった。手には携帯を持っている。
「…ふぇ?あぁ〜、どーも」
そういって彼は少年からぶっきらぼうに携帯を受け取り、眠りの態勢にはいった。と思いきやいきなり跳ね起きると、先程の少年に話し掛けた。
「お前さ、ゲームとか好き?」
「は?何、いきなり」
「いや、ゲームだよゲーム。いろいろあるだろ。携帯とかでもなんでもさ」
「はぁ…。まぁ嫌いではないけど…?」
「マジ?よかった〜。じゃあお前もメンバー入ろうぜ!知ってる?ここの高校にある都市伝説」
「ちょっ…!声でかっ!何?都市伝説って。つーかメンバーって何なの?」
『次は新入生代表挨拶、代表、神園岬』
「あっ、俺か。行かなきゃ。お前名前なんてゆーの?」
「えっ!?西野桂馬だけど…」
「オッケ。ケーマね。それじゃ」
岬がステージに向かっていくのを茫然と眺めながら桂馬は驚いていた。あ、あいつが代表挨拶だと!?ということは、奴が入学テストのトップだったっていうことだよな?つーかミサキという名前からして、女だと思っていたぞ俺は!いやそれはともかく……。
桂馬は辺りを見回した。周りの生徒の表情は、皆揃って驚きを表していた。それもそのはず、ステージでたらたらと挨拶を述べる彼は、茶を通り越して金の髪、ネクタイは緩み、ピアスがライトに反射してキラキラと……。
誰もがこれからのS高に不安を覚えたに違いない。その中で最も不安を感じている桂馬は、彼の発した『ゲーム』という言葉が妙に気に掛かったのであった。