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☆こんなことってあり?

☆瑞希視点

レイ君が成長してから4日間、レイ君は子供に戻ることはなかった。しかも、その次の日にまた成長してしまっていた。“僕”と言っていていた口調も“俺”になっているし、戻ってしまっていた時間が埋まってきているんだと思った。そして、きっと完全に戻ったときお別れするんだろうなぁと頭の片隅でぼんやり考えていた。


「なぁ、瑞希は俺が変わっていくのにあんまり驚いてないみたいだけど」

「そうかな、驚いてはいるよ。でも、一回こういう風に成長する幽霊と会ったことがあるからかな? 受け入れるのは早いと思う」

「同じやつがいたのか」

「うん、あの人は子供から一気にお父さんくらいまで変わったんだよ。あれには驚いたなぁ」


もう二週間もあたしのところに通ってくれるレイ君は同い年くらいの男の子になっていた。自分でも友達が増えたみたいで楽しくなって、たまに子供扱いすると怒られる。レイ君はあたしがどんな幽霊に会ったことがあるのか興味があるみたいで、ときどき聞いてくる。

でも、今日の会話には心配そうな声と表情があって何かを怖がっているような感じがした。だから、できるだけ明るく返したんだけど結果はよろしくない。


「でも、瑞希はもう会えてないんだろ?」

「まぁ、成長したってことは思い出したことと同じみたい。自分の状況を理解して納得するまでに時間はかからないんだって。だから、大人になったその人とは数回会った後、お別れしちゃった」

「そうか」


あたしが思い出しながら話してるけど、レイ君の表情は明るくならない。この手の話は好きじゃないみたいで話を聞いた後はあたしを後ろから抱きしめるのが定番になっていた。

今日も後ろから抱きしめられるけど、少しの圧がかかるだけで温もりはない。それがあたしをむなしくさせた。


「なぁ、瑞希。俺が怖い?」

「ぜんぜん。だって、あたしの話し相手になってくれるなんて、悪い人じゃないと思うもの」

「もし、生きて・・・俺が生きてたら、瑞希はどうする?」

「そんなの、会ってみなきゃわからないよ。今までだって、成仏した幽霊さんたちと再会したことなんてないし。そんな可能性、考えたことなかった」


少しだけお腹に回っていたレイ君の腕がぎゅうっときつくなった。その腕にそっと触れて言葉を続ける。


「でも、そうだったらいいなって思うよ。この人が生きててまたあたしに会いに来てくれたらって、今まで一度もないけど」

「そうか」

「今のレイ君はあたしよりも大きいし、強いでしょう。でももし、レイ君がそうだとしてあたしに会いに来てくれたんだったら、怖いことしないと思う」

「・・・・・・っ」


子供の姿の時とは逆でレイ君があたしを抱えているから少しの動きでも伝わってくる。今、その腕の中に収まってしまうくらい、レイ君が自分より大きいし、強いことは分かる。でも、絶対危害を加えてこないと心から思える自信があった。それを聞いてレイ君が少し驚いて跳ねる振動が伝わる。


「そうだ、少しさっきの人の話をしてもいい? なんか懐かしくなっちゃったから」

「このままで聞いてもいいか?」

「うん」


レイ君が頭をあたしの肩に置いたのを合図にぽつぽつと話し始めた。


□ □ □ □


あたしが中学生の頃、あの人はその時のあたしと同じくらいの姿で出会ったんだ。いつも何かを探しているような顔でキョロキョロしながら街を歩いてた。

よく話すようになって記憶が曖昧なんだって気づいたの。たぶん、子供に戻ってしまった人だと思った。ある日を堺に突然父くらいの年齢に姿が変わっていた。


あの人は玉置さんと言って、結婚を考えていた彼女さんを送った帰り道で横からトラックに追突されたらしい。その事故現場を見つけて、思い出したら姿が変わって彼女さんとか自分がなんだったのかを理解した。

それから、玉置さんはあたしがよく会いに来ることを不思議に思ったらしくてちょっとだけ相談に乗ってもらった。両親から恐れられて放任されていること、自分に見えてしまう人たちとの別れのつらさ、信頼できるのが親友しかいないみたいな本当に自分中心な悩みを聞いてくれた。


短い間だったけど、あの人はあたしに優しさをくれた。お母さんもお父さんもあたしの頭なんか撫でたことは無いし、最近は笑ってる顔も見てない。そんな時に玉置さんは


「こういうこともあるんだ。後悔しないように過ごさないとね」

「はーい」


とか


「男はすぐに信用しちゃいけないよ。よく見るんだ、おれみたいなのを探すんだからな」

「わかってます」


って、経験したらしい思い出を交えながら頭を大きな手のひらでぐりぐりと撫でつけて教えてくれた。それが一番嬉しかった。そっけない返しばかりしてしまったけど、恥ずかしさを隠すのに精一杯だった。


玉置さんとお別れするときは大変だった。自分が思い切り懐いてしまったために、気持ちが整理できなかった。


「瑞希ちゃん、いい? おれみたいなやつにずっと会いに来てくれてありがとう。実は最近は瑞希ちゃんに会うためにお別れを先延ばししてたんだ。でも、君のためにならないだろうからおれはしっかり別れの挨拶をしてからいこうと思う」

「お別れって、そんな急に」


泣きそうになるあたしを見て、申し訳ないって顔で謝る玉置さん。悪いのはあたしだってわかってた。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。玉置さんの次の言葉を待った。


「ごめんね、ほんとはこの状況も自分の行くべきところもわかっていたんだ。未練ではないが勝手に君の元から去ることができなくてここに留まっていたんだ。だから、君に別れを告げればおれはあちらにいける。きっと、最高の出会いがこれから待っているよ。おれが保障しよう」

「じゃあ最後にお願い聞いてくれますか」

「うん、おれにできることならね」


頷いてくれた玉置さんの手を取って目を合わせる。


「さよならじゃなくて、またねがいいです」


途中から手を握る力が増してしまったけど仕方ない。結構勇気が必要だった。玉置さんはその言葉と行動でいろいろ察してくれたみたい。

あたしが握ってない方の手で頭をくしゃくしゃと撫でて


「あぁ、またな瑞希」


そういって、すぅっと消えていった。頭に置かれたあの手の重みだけは今でも覚えている。


□ □ □ □


「それからは、何をするにも玉置さんの言葉がよぎるようになったんだ。後悔しないように、どんな幽霊でも受け入れて、何度も出会ってお別れした。でも過ごす時間が楽しくて、お別れの度に寂しくなったけど、佳乃っていう親友にいつも慰めてもらったの」

「よかったな、頼れる親友がいて」

「うん、あっ、レイ君のことも話しちゃってるんだよね。ごめんなさい」

「いいや、それほど信頼してるならいいよ」


レイ君は黙ったまま何か言い出しそうで出さない呼吸を繰り返していた。でも、聞いておかないと後悔しそうだと思ったから尋ねてみる。


「どうかしたの? 何か言いたそうにしてるけど」

「あ、いや――――もし、今日俺がここ来るのが最後だって言ったらどうするかな・・・と思って」

「レイ君と、お別れ・・・ね。前も突然来なくなったことがあったし、信じられないかな」

「そうか、変なこと言った。すまん」


謝ったレイ君はもう話す気はないみたいで、あたしもそのままゆったりした時間を過ごした。


同い年くらいになったレイ君は別れ際にあたしの頭をぽんぽんとして帰るのが習慣となっていて、それがあるとあぁ、今日も終わりかって寂しくなる。でも、さっきの様子からなぜかいつも以上に寂しさがこみ上げて来て、近くに来たレイ君の服をちょんと掴んで目を合わせた。


「またね、レイ君」

「あぁ、またな・・・瑞希」


頭に置いた手をぽんぽんとした後、くしゃくしゃに撫でてレイ君は帰って行った。玉置さんのことを話したせいか、レイ君との別れがあの時とかぶってしまい、レイ君の背中が見えなくなったとき涙があふれていた。


□ □ □ □


「どうしよう! 本当にあれからレイ君が来ないんだよ!」

「“落ち着いて、明日ゆっくりその話は聞いてあげるから”」

「でも・・・」


もう始業式から3週間が過ぎていて、今日はゴールデンウィークの最終日。この前の別れからレイ君はあたしのところに来ていない。最後にした会話がよみがえってきて、レイ君はあたしにお別れの言葉を言っていたんじゃないかと思うようになった。

不安に駆られたあたしは佳乃に電話をして話を聞いてもらっている。明日学校で会えるのはわかっているけど、すぐにでも言いたくて呼び出しボタンを押してしまったのだ。


「玉置さんのときと同じ感じがして、やっぱりこの前が最後だったんじゃないかなって」

「“わかった。じゃあ、明日いつもより早く行くから待ってなさい。朝に全部聞いてあげる”」

「うん、ありがとう」


そういって通話を終わらせるといつもレイ君が来ていた時間だったことに気付く。


「夜更かしも得意になっちゃったなぁ」


明日、佳乃に聞いてもらうことに安心したみたいでベッドに横になったらすんなりと眠ることができた。


□ □ □ □


ゴールデンウィークがあけて、いつものように早めに学校に着く。静かな学校がもう少しすれば人が増えてうるさくなる。佳乃が来るまで机に突っ伏して待っていようと腕を枕にして頭を預けた。


しばらくして目を覚ますとぼんやりとした頭で周囲を見た。いつもより人の気配が多い。しかも、廊下に集中していた。佳乃はまだ来ていないらしく、もう一度机に突っ伏す。廊下の女子たちの会話が結構聞こえてくる。


「まさか、今日から王子が来るなんて思わなかった!」

「ね、早く来ないかなぁ」

「もう来てるらしいよ、職員室にいるみたい」

「ほんと!?」


王子が今日から学校に来るんだ、同じクラスなんだから顔をちゃんと覚えよう。そんな決意をしていると廊下が騒がしくなる。女子たちの黄色い声というか、それが徐々に大きくなりその声がこの教室まで届くようになる。というか、教室の近くにいる女子たちが騒いでいるからか、結構それが大きくて寝れるような感じがしない。そして、その声を浴びているであろう王子がこの教室に来たんだとわかった。


「寝てるのか? 瑞希」


黄色い声にまぎれて聞こえたのは、レイ君の声だった。まさか学校に来るなんて思わなくて、小さい声で反論する。


「話しかけるなら、時と場所を考えるって約束したじゃない」


ゆっくり振り返ると足元に自分と同じ色の靴が見え、男子用の制服を着ていることがわかった。それを頭の片隅に入れて足元から上に視線を向けるとあの青年が笑顔であたしを見ていた。

驚いて椅子からすごい勢いで立ち上がる。その状態で固まったあたしに対して、レイ君は霊だった時と同じように頭をなでるように手を動かした。周りの女子がかなりうるさいけど、嬉しくてたまらない。霊の時には感じられなかった温かさがその手から伝わってきたから。少し目が潤んでしまって、喜びからレイ君の目としっかり合わせる。


「え、・・・え? ・・・レイ、君」


突然現れたし、制服着てるし、霊じゃないし、あたしの頭は情報の処理が追いついていない。レイ君はあたしが泣いてると思ったのか


「下向いて、そのまま付いて来て」

「え」


あたしの手をつかんで教室から連れ出される。言われた通り、下を向いているけど、ある意味恥ずかしくて上を向けなかった。階段を上がってついたのは屋上だった。

あたしが先に屋上に入って、その後にレイ君がドアを閉める。丁寧に鍵までかけた。それからあたしと距離を詰めて手をつかまれる。逃げる気なんかないのに。


「驚かせてごめん」

「王子だったの? レイ君」

「その名前は好きじゃない。あと、俺の名前はレイでもない」


掴んでいた腕を引かれて、彼の腕の中に納まる。耳元でお願いされるような声で否定された。実は王子の顔を知らないあたしを見かねて、佳乃に名前だけでも覚えろと教えられていた。


「――――南城奏多君?」

「・・・うん。奏多でいい」

「奏多君。どうして、ここに?」


この前から会いに来なかったのはこれのせいなのかと思っていると、まさかの返答が返ってきた。


「瑞希に会いに行っていたのは幽体離脱した俺だったんだ」

「ゆう、たいりだつ?」

「すごいだろ」


自慢げにいう奏多君がほんとにここにいるんだって確かめたくて、背中に腕を回してぎゅっとしかえした。そして、奏多君が腕を緩めてあたしの顔を覗き込んで尋ねてくる。


「なぁ、俺に言うことない?」


またな、と言って別れたあの日からずっと言いたかったのに、会ったらすぐに言おうと思ってたのに、まさか幽霊じゃなくなって会うとは思わなくて忘れてしまっていた。


「――――おかえり、奏多君」

「うん、ただいま。瑞希」


ちゃんと笑顔で言えたかわからないけど、嬉しそうな奏多君を見て、まぁいいかと思った。奏多君の手が頬に触れてそこから温かさが伝わってくる。


「温かいね」

「そうかな、普通なんだけど」

「レイ君のときより、温かい」


温かさを感じることが嬉しくて涙がこぼれていた。奏多君は優しくそれをぬぐってくれる。それにも温かさを感じて涙が増すだけだった。


「瑞希、俺を見つけてくれてありがとう。たぶん、見つけてもらえなかったら、起きられなかったと思う」

「・・・どう、いたしまして」


言葉を詰まらせながら、答えるけど十分伝わったみたい。


「こんな俺だけど、また仲良くしてくれませんか」

「――あたしでよければ、喜んで」


そう答えれば腕の中にまた納まって、少しきつめの締め付けに身をまかせた。

次話の奏多視点でとりあえず完結です。

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