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★見つけてほしい、僕のこと

★男の子視点

無事に高校二年に上がれると浮かれていた春休み。始業式を迎える二週間前、目の前で道路に飛び出した子供を助けようと俺は咄嗟に動いていた。その後、どうなったのか自分ではわからない。


□ □ □ □


僕は病院にいるらしい。服は患者さんが着るような水色の簡単な作りのもの。普通に床に立てているし、動き回れるからどこも悪くないって思った。でも、ベッドには僕が大きくなったらこうなるのかなってくらいのお兄さんが頭に包帯を巻かれて眠っている。

ためしに近寄って手を伸ばしたらその手はベッドもその男の人の体もすり抜けた。


「あぁ、そっか・・・」


自分の記憶がはっきりしだして、ベッドに寝ているのは自分――南城奏多で病院にいる理由もなんとなく察した。けれど、この姿は自分の心を幼くさせているらしく、この部屋にじっとしていたくないと思った。

病室を出て、小さい歩幅でトコトコと病院内を歩き回る。僕の姿を気にする人は居ない。むしろ、ぶつかりそうになってもそのまま歩いてくるような、ここに存在していないような反応しかなかった。それがむなしくて、椅子に座ってるおじいちゃんの目の前でぶんぶん手を振ってみたり、看護師さんの後ろをついて行ってみたりした。何にも起こらないし、誰とも目が合わなかった。

人が沢山いるのに見つけてもらえないことに耐えられなくなって、病院を抜け出した。こんな僕に自動ドアが反応するわけなくて、ただ走っていったらすり抜けてしまって、幽霊のようなものなんだなって納得だけはした。


あらゆる所を歩き回っても誰にも見つけてもらえない。たびたび、病院に戻り自分の体に戻れないことを何度も確かめた。ベッドに横たわる僕を見舞いに来たのは両親と親友の伊東翔琉だけで、お見舞いに来る人を眺めては僕を見つけてくれない怒りとどうしようもないむなしさをぶつけようと腕を振るけど当たることはなかった。


「なぁ、奏多。明日はもう始業式だ。そろそろ、起きないか? 俺はお前がこのままで学校なんか行きたくねえよ」


その苦しそうな翔琉の声を聞いても体に戻れないし、幼い心ではその言葉をしっかり受け入れることもできていなかった。


「僕はここにいるんだから、見つけられない翔琉たちがいけないんだ!」


勢いのまま、行くあてもないのに病院を飛び出す。子供の足では短時間では遠くまで行けないことはわかっていた。けど、どうしようもなくて、太陽が沈んでも歩き続けたし、一応すれ違う人が僕を見つけてくれるか確認した。でも、やっぱり結果は通り過ぎるだけだった。次の日になっても、うろうろした。太陽が真上に来るころ、こんな僕を見つけてくれる人なんていないんだと途方に暮れて、背中をブロック塀に預けていたときだった。


「こんにちは、君はどこから来たの?」

「――――っ!」


声をかけられて、顔を上げると僕と目線を合わせるようにしゃがんでいるお姉さんがそこにいた。僕の後ろはブロック塀でこの人が僕に向かって話したんだとわかる。それがどうしようもなく、嬉しくて目に勝手に涙がたまっていた。


「お、お姉さんは僕が見えてる? 見つけてくれる?」

「うん、君のこと、あたしには見えてるよ。だから、ここにいる君を見つけられたんだよ」

「だっ、だれも、見てくれなくて。気づいて・・・くれなくて。ずっと歩いてて!」

「うん、寂しかったね、大丈夫だよ。これからはお姉ちゃんが見つけてあげる」

「――うんっ!」


ここまで歩いてきたのがこの人に会うためだったのかと思えるくらいに夢のようだった。それからお姉さんは僕を優しく抱きしめてずっと欲しかった言葉をくれた。今までの不安やむなしさが全部吸い取られたみたいで安心感に包まれた途端、体が透け始めて焦る。それを察したお姉さんは背中をゆっくり撫でてくれて、いつの間にかその場を離れていた。


□ □ □ □


なんか体が重く感じる。目をゆっくり開けようとすると眩しすぎて開けられない。腕で影をつくろうと手に力を入れるものの、持ち上がることはなくちょっとだけ指先が動いただけだった。


「奏多!? 起きたのか」


耳にそんな声が聞こえてくる。俺の見舞いに来てくれていたあいつ。俺の顔を覗き込んでいるのか、うまい具合に影ができて、瞼を持ち上げることに成功した。かすれた声が喉から出てやつの名前を呼ぶ。


「――――か、翔琉」

「あぁ、ちょっと待ってろ。人呼んでくるから!」


翔琉はそういって足早に部屋を出て行った。ふと、さっきまでの夢のような出来事を思い出す。俺が通ってる高校の制服だった。彼女にまた会いたいなぁと考えていると医師を連れてきた翔琉が戻ってきた。


「頭を打った影響で意識が戻るのに時間がかかってしまったみたいですね。記憶の方に問題もないようです。これからは体が動かせるように少しずつ慣らしていきましょうね」

「よかったな、奏多」


そんな診断を受けて、翔琉は俺の両親とは入れ違いで帰っていった。

あの日、子供を助けた後少しだけ車に接触して頭を打ちつけたらしい。眠っていた二週間の記憶は幽体離脱のようなもので見てきたので特に驚くようなことはなかった。


□ □ □ □


目が覚めた次の日。また、子供の姿で離脱してしまっていた。それに、立っていた場所は昨日、彼女に出会ったあのブロック塀だった。日が暮れ始めた夕方だったから、高校生ならこのくらいの時間に通るだろうと思って昨日のように待ち伏せてみた。

やっぱり、彼女は僕を見つけてくれた。それに手を握って、家に連れていかれる。僕は誰にも触れなかったことを話すと彼女が僕を見つけたから触れるらしいと教えてくれた。彼女が僕を認めてくれたことが嬉しくて繋がれた手をぎゅっと握る。

彼女の部屋に入れてもらって、彼女が僕と目を合わせるために屈んだ。


「あたしの名前は北川瑞希、君は名前、言える?」


そう聞かれて、完全に子ども扱いされているのがわかった。意地悪も込めて名前はわからないと答えると、じゃあレイ君ねと勝手に呼び名をつけて楽しそうに呼ぶ。それがなんか悔しくて瑞希と呼び捨てにすると笑顔ではいって返された。

少し話した後、帰ろうかなぁなんて思うと、この前みたいにいつの間にか戻っていた時とは違うと気付く。幼くなっている心がそうさせるのか自分のしてほしいことを正直に口に出してしまう。


「瑞希、帰ろうと思うんだけど、あの・・・前みたく」

「そうだね、帰らないとね」


僕の声を途中で切ったにもかかわらず、望んでいた少しの締め付けが体を包んだ。背中を優しく叩かれていると、あぁ帰らなきゃという気持ちに支配される。瑞希の腕が離れ、見上げると寂しそうな目と視線が絡む。さっきまでの帰りたさが一気に削がれるが、じゃあまた明日といってその場から逃げた。


体に意識が戻り、誰もいない病室に俺の溜息だけが響いた。


「あぁもう、あんな離れたくなくなるような顔するなよ」


分かれる間際の瑞希の顔が頭から離れなくて、また会いに行こうと思ってしまっていた。


□ □ □ □


それからは日中は体を動かせるように慣らしていったり、見舞いに来る翔琉と夕方まで話して、深夜近くに瑞希のもとを訪れる流れができていた。なぜか眠る前に瑞希に会いたいと考えて寝落ちするとあの家の近くにいるから困る。恥ずかしいから適当にごまかしているけど瑞希にはばれている気がする。でも、子供姿だからか寛容な部分もあるんだろう。本当の俺はたぶん同い年くらいだから、あの瑞希の背なら余裕で超える。このままでもいいかと思う反面、子供すぎる自分に嫌気がさし始めたころだった。

俺の離脱した姿が成長していた。目線が高くなり、声が低くなっている。それに気付いて、このまま瑞希に会いに行く勇気が出なかった。


「なぁ、子供が突然大きくなって目の前に現れたら受け入れられるか?」

「は? 何の話だ」

「なんでも、ちょっと真剣に答えて」


いつものように見舞いに来た翔琉に聞いてみるが、やっぱりどこかおかしいのかと心配されただけで終わった。そのかわり、察しの良い親友は核心をついてくる。


「それはお前が早く学校に戻れるように、退院できるように一生懸命になっているのと関係あるのか。今日はやる気というか元気がなかったと聞いた」

「なんで、そういうのに感づくんだよ」

「親友だからな、何かあったのか」


翔琉に話すべきか、さっきの言葉から真剣に聞いてくれる準備はできているらしい。俺は一人で悩んでも解決しないと思って翔琉だけには言うことにした。


「嘘だと思うかもしれないけど、聞いてくれるか?」

「あぁ」

「実は始業式の日に――――」


俺が目覚めた始業式の日や退院に向けて努力する姿との関連性から納得して、むしろ辻褄が合いすぎて驚いていた。それと、意地でも瑞希の名前は出さなかった。


「その女子は知らない奴だったんだろう?」

「まぁ、俺は小学生みたいになっているし、警戒はされなくて。むしろ警戒しなさすぎて困るというか」

「あぁ、わかった。それで、その姿が今は会えないくらい変わっていたと」

「ん、今よりは若いんだけど」


翔琉はさっきの質問を理解して、うーんと考えたと思うと適当に答えた。


「会えばいいだろ」

「簡単に言うなよ」

「いいから会ってみろ。玉砕したら何とかしてやる」


そんな後押しを受け、決心が着くまでに3日。そのくらい瑞希に会ってないと気付いた。



勇気を振り絞って瑞希の部屋前まで来たものの、期間が空いたせいでどう声をかければいいか悩んで立ち止まってしまう。すると、部屋から小さくこぼれてくる独り言が聞こえた。


「今日もレイ君、来ないのかな。もしかしたら、もう会えないのかな」


その声があまりにも、弱々しくて自分がここに来るまでに時間を空けたことを後悔した。ドアをすり抜けた俺はベッドで丸くなっている瑞希を見つけた。その姿が小さく見えて無性に顔が見たくなる。


「――――もう寝たのか、瑞希」


低くなったはずの俺の声に反応して抱き締めて顔を押しつけていた枕から離れ、俺の方を向いた。俺の姿が変わっていることに驚いているのがわかる。目線を全身に回してから徐々に表情が柔らかくなっていった。


「れ、レイ君?」


最後の確認のように俺と目を合わせて尋ねてくる。その目を見て安心してなぜか習慣化した挨拶を瑞希にする。


「うん、ちょっと変わったけど。・・・ただいま」

「――おかえり、レイ君」


すぐそばまでやってきて、いつもの返しをくれる。


――――あぁ、悩んでないでさっさと来ればよかった


そんな風に思ってしまった。


明日完結します。

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