☆見えているよ、あたしには
☆女の子視点
幽霊とか怪奇現象とか
非日常的なものを魅力的に感じる人は多いと思う。あたしもそう思う。でも、普通の人とは違う立場で言っているとも思う。
なぜなら――――それらがあたし、北川瑞希の目には、はっきり映っているから。
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誰もいない学校に着くには早すぎるだろう時間帯。あたしは静かに家を出る。幽霊さんたちに絡まれるのと、絡まれているところを人に見られないようにするため。
「あら、今日も早いわねぇ。いつもお疲れ様」
「おはようございます、奥さん、そこは危ないですよ」
「いいのよ、怪我なんてしないんだから。それよりもいってらっしゃい、始業式なんでしょ」
「はい。じゃあ、いってきます」
奥さんは少し高いブロック塀に座ってのほほんとあたしに手を振っている。毎朝この場所であたしを見送ってくれる幽霊。
お昼前に始業式が終わって、特に授業はないので帰る支度をする。周りの女子が朝のクラス発表のとき並に大きな声で会話しているためか、内容が聞こえてくる。
「やったぁ! 王子と同じクラスっ、この一年で親密になれば」
「抜けがけは禁止だからね、ほら会長が目を光らせてるよ」
王子と呼ばれている人はこの学校では有名人のような扱いを受けている。人気者は大変そうだなぁなんて他人事のように考えていると、親友がなにか呟きながらやってきた。
「王子さまだって、何がいいんだろう」
「佳乃、あんまり大きい声出さない方がいいよ」
小声で注意すれば、んって了承してくれる親友。あたしのことをずっと見ていてくれる、もう保護者みたいな存在の葛西佳乃。幽霊の話を信じてくれる唯一の人で、逆に楽しく聞いてくれている。彼女いわく、この世は単純でつまらないらしい。あたしに見えている世界を見たいって言ってくれるほど、たまに羨ましがられることもある。
教室を出て、昇降口で靴を履き替えながらさっきの話に戻したのは佳乃だった。
「王子さまは怪我して入院してるらしいから、まだこの騒がしさですんでるけど、戻ってきた時のあの教室には居たくないかも」
「佳乃は王子に興味無いもんね」
「瑞希もでしょう? というか、王子さまがどういう顔か知ってるの?」
皮肉を込めて王子にさまをつけて呼ぶ佳乃に言われてふわっとおもいうかべてみるけどはっきりせず、自分の記憶の中には無いことが分かった。そんなあたしを見て佳乃は察したらしい。
「ほら、私は顔くらいなら思い出せるから。瑞希よりは上ね」
「何の勝負?」
「王子さまに興味あるかどうか、みたいな」
いつの間にか校門を出て、首をかしげながらこちらを振り返る佳乃に追いつく。佳乃の家より遠いあたしは途中の曲がり角で別れを告げて帰路につく。
朝、あの奥さんが座っていたブロック塀に寄りかかる影があった。背は小さく小学校低学年程度の男の子であると予想がついた。しかし、その子の服装は病院で患者が着るそれに似ていて、あぁ、この子もかと思いながらその影に近づいた。下を向いてる男の子の前で目線を合わせるようにしゃがみ込み、笑顔で話しかけた。
「こんにちは、君はどこから来たの?」
「――――っ!」
男の子はあたしと目が合ったことにすごく驚いたみたいで一瞬固まってしまった。けれど、あたしに見つけられたことに気づいて、目に涙を滲ませている。
「お、お姉さんは僕が見えてる? 見つけてくれる?」
「うん、君のこと、あたしには見えてるよ。だから、ここにいる君を見つけられたんだよ」
「だっ、だれも、見てくれなくて。気づいて・・・くれなくて。ずっと歩いてて!」
「うん、寂しかったね、大丈夫だよ。これからはお姉ちゃんが見つけてあげる」
「――うんっ!」
男の子をすっぽりと腕の中に入れて少し抱きしめて、背中や頭を撫でながら声をかけてあげると、落ち着いて来たのか。すぅっと体が透けてその場には何もなくなっていた。
こんなふうに小さな子供が道端でしゅんとしているのを見ると声をかけてしまう。そのままお別れになったり、また顔を出してくれたり、それが悲しいけど嬉しくて癖になってしまっていた。
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あの男の子はまたあたしに会いに来てくれた。寂しかったところに出会ったから懐いてくれたんだと思う。あまり外で話しているとおかしい人に見られてしまうので、その子をあたしの部屋に連れていった。
二回目に会ったとき、その子は名前が分からないと言う。単純なあたしはレイ君と呼ぶことにした。自己紹介をしたらレイ君はあたしを呼び捨てにしてくる。そんな部分もかわいらしいと思って流しておく。
「レイ君、また来てくれたんだ。おかえり」
「ただいま、瑞希!」
あたしの家を覚えてからは、部屋に訪れるまでになった。もうそろそろ深夜の0時になるという頃で普通の生活だったら、もう寝てるはずの時間。レイ君が来るもしれないからって、この時間まで起きているようになった。
「瑞希、待っててくれたの?」
「うん。レイ君とお話しするの楽しみにしてるからね。何か、今日は面白いもの見つけた?」
「そう! あのね――――」
楽しそうに話をしているけど、この子もいつか成仏して、あたしの前から消えてしまう。こんなに仲良くなっても、それだけは避けられないことが頭をよぎる。このくらいの幽霊は純粋にあたしを見てくれて、この関係が終わってほしくないって考えてしまうんだ。
「瑞希? なんか、悲しい?」
「ん? いや、違うよ。うーん、レイ君はあたしと話していて楽しい?」
「うん! じゃなきゃ、会いに来ないもん」
「そうだね、・・・ありがとう」
「瑞希が泣いてる時は今度は僕が隠してあげるからね!」
胸を張って堂々と言ってくれる姿にジーンと感動してしまう。最初に抱きしめたことをずっと忘れないでいてくれてるみたい。
そろそろ、レイ君の帰る時間。レイ君、と呼んで手招きすると、ちょこちょことあたしの前までやってくる。お別れの合図みたいなもので一回ぎゅっと抱きしめる。はじめはレイ君からのお願いだったけれど、最近ではあたしから呼ぶようになった。彼も嬉しそうにしてるから、やめる気はなかった。だって、これが最後になっちゃうかもしれないから。
「じゃあね瑞希、また来るね」
「うん、いつでもおいで」
そんな会話を最後に、レイ君はドアをすり抜けて帰っていく。
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レイ君を見つけてから一週間が経とうとしていた頃、佳乃が寝不足気味のあたしに気付いて、何かあったのか、もしくは現在進行形で起こっているのか質問攻めしてきた。仕方なく、レイ君の話をすることになる。
「へぇ、面白いことになってるね」
「かわいいんだもん、レイ君」
夕暮れどき、誰もいない教室の隅の席で佳乃にレイ君の話をしていたけど、あたしも佳乃もそれなりに周りへは普通の会話に聞こえるよう霊とか匂わせる単語を用いないよう気をつけている。
「子供に懐かれやすいのはわかるけど、今回はずいぶん大胆な子だね」
「は?」
「だって、もう瑞希が大好きなんだって感情、聞いてるだけで伝わってくるもの」
「まぁ、すごく甘やかしちゃうのはいけなかったかなって反省はしてるんだよ。たぶん、会えなくなってダメになるのはあたしのほうだから」
「いつもの調子で流せないくらい、楽しいんだね」
「うん、後でなぐさめてね。佳乃のおかげで今までやってこれたようなものだから。頼りにしてます」
「はい、いつでもどうぞ」
そんな会話をした日、レイ君はあたしの元を訪れなかった。学校の帰り道とかに見つからないかと思ってきょろきょろしたけど出会うことはないまま、3日が過ぎてしまう。
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「今日もレイ君、来ないのかな。もしかしたら、もう会えないのかな」
ベッドの上で枕を抱き締めて丸くなっていた。レイ君がいつも来ていたこの時間も近づくほどに寂しさだけがこみ上げる。霊たちは物音をたてないので気配も察することができない。深く考える前に寝てしまうおうかと目を閉じて抱いていた枕をよりきつく締めた。
「――――もう寝たのか、瑞希」
そんな声が聞こえてゆっくり目を開けると、小学生くらいだったはずのレイ君は背が伸びてあたしと同じくらいまで成長していた。さっき聞こえた声も名残が少しあるけれど、レイ君が楽しそうに話すあの声より一段と低くなっていた気がする。あたしの名前を呼んでいるから、レイ君だとは思うけれど確証はない。
「れ、レイ君?」
「うん、ちょっと変わったけど。・・・ただいま」
姿が成長していてもあたしに会いに来てくれた。それが嬉しくて、ベッドからすぐ立ち上がって、レイ君の前に行ってからいつもの挨拶をした。
「――おかえり、レイ君」
同日に男の子視点も投稿しています。
全体的には4話で完結します。




