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第42話 神様って名乗った綺麗なお姉さん再び

マネージャーのダニエルと二人で約束していた部屋を訪れると背の低いでっぷり太ったおじいちゃんが抱きついてきた。


「サンテ大陸で一、二を争う歌聖に会えるなんて感激だよ」

そう言っておじいちゃんは頬を擦りつけてきた。


おいおい俺にはそのケはないぞ。


「ロビン、やめなさい。彼が困っちゃうでしょ」


シュッとしたスレンダーな小麦色の肌を持つ美人さんからおじいちゃんはたしなめられていた。

どうやらロビンというらしい。



「だって会いたくて会いたくて。待ち遠しかったからつい抱きしめちゃったんだ」


「そういうとこは子供なんだから。メッ!」


美人さんに叱られロビンはシュンとした。



「オーデウスさんごめんなさいね。彼が録音盤を発明したロビン=スウィフト、私が妻でタリューをやってるエマです。よろしくね」


どんだけ年の差カップルなんだよ、性欲を感じない俺でもチョー羨ましいぞ、ロビン!

タリューというのはオーデウスが血のにじむような努力をして練習していたギターのような弦楽器のことだ。



ダニエルが補足した。


「ロビン博士は自転車を発明したことでも有名なんですよ。そして今回世界的なのタリュー奏者であり作曲家でもある奥様エマさんのために録音機・再生機・録音盤というものを発明されたんです」


「私たち二人とも南マニナであなたのコンサートを観る機会があって、すっかり大ファンになったんです。ロビンなんか興奮して眠れなかったぐらいなんだから」


じゃあもうオーデウスの声は知ってるんだから俺はしばらく歌わなくても大丈夫かな。


「これからはどんどん録音盤が売れるようになると思うんだよ。だから魅力的な音楽があればいいと思ってね。エマのタリューにオーデウスの歌があれば最高のものになると思ったんだ」


「私から事前に連絡していたようにオーデウスは今喉というか体全体に変調をきたしていまして」

マネージャーのダニエルが申し訳なさそうな顔をした。


「そうだったねえ、それは心配だなあ」


「ええ、ですからここコットラで進んだ文化や流行を見て見聞を広めようかと思って。ねえダニエル」

俺はダニエルに同意を求めた。



グランなきあとダニエルはオーデウスの一番の理解者だった。





俺はオーデウスの資産を調べた。

どのくらいの期間かはわからないがオーデウスの歌を俺が会得するまでは収入がないからだ。

するとコンサートでの収入をかなり蓄えていることがわかった。

そして養父のグランが多額の遺産を残していてくれた。


すぐにも路頭に迷うといったことはなさそうだ。


さらにオーデウスには何人もの後援者がいた。

スポンサー? それよりはパトロンみたいな感じかな?


後援者とオーデウスとの関係を視た。

肉体関係は皆無だったが、金の力で縛りつけようとしていた。


芸術家にはパトロンが存在するってこと、本当にあるんだな。  

慣習なのか、オーデウスは嫌がってないけど、俺はちょっと苦手だな。

あまり束縛されたくない。


オーデウスみたいな被害者が出ないような世の中に変えるためには自由で且つ資金がなければならない。

なんとかお金を生み出す方法はないものか。





俺はオーデウスの記憶を視ながら歌の練習を始めた。

しかし全然上達しない。

元々俺は歌は苦手だった。

なぜなら音痴だからだ。


しかし今俺の体は歌聖オーデウスなのにどうして……。


俺がウサインボルトに転生したら足が速いはずだ。


あっ、でも俺が内村航平に転生してもうまく体操は出来ないかも。



集中して真剣に練習することにした。

新しい音楽を作り出したいからと一年の間だけ独りにさせてくれと言って、取りあえずダニエルにはサンテ大陸に戻ってもらった。


三月程の期間、密かにそして必死に練習を重ねてみたがオーデウスは遥か遠い存在だ。

オーデウスの記憶を視たり、グランに引き取られた頃のオーデウスの練習風景を視て真似たが思うように進歩しなかった。


ダニエルは海の彼方だから今のところ知られることはない。

だが未だに上手く歌えないという事実をもし彼が知ったら心配するだろう。

かといってダニエルに本当のこと、俺が転生したせいでオーデウスのように歌えないことを打ち明けるなんて絶対出来ない。






気分転換になるかもと思い、録音盤を作っているロビンの工場を見学した。

まだサンテ大陸ではほとんど出回ってないらしく俺も見たことなかった。


子供の頃見たレコードと似ていた。

レコードが黒だったのに対し録音盤は白だった。

原料はこの世界独自の植物パヤパヤ草から採取していた。

パヤパヤ草は生命力の強い植物だったが、食料にならないため雑草のように扱われていた。



それをつまようじみたいな針で鳴らすのだ。

その機械は再生機という名前で、ねじを締めて回すのだった。


電気のない世界で、よく工夫がされていた。

しかもわりとシンプルな作りになっており、大量に生産できるという。


奥の部屋は壁も厚くて頑丈だった。

外からの音が入らないような作りになっていてドアも二重になっていた。


なるほど防音室か。


その中には再生機よりずっと大きくて複雑そうな機械があった。

それが録音機だった。

そこに何も溝のない真っ新な録音盤を装着して録音する仕組みらしかった。


詳しい原理はさっぱりわからない。

しかしこの録音盤というのはあっという間に普及するだろう。

そしてこれをうまく利用すると世情を思った方向に変えられるかもしれない。


俺は養父グランの遺産をすべて注ぎ込んでパヤパヤ草を買い占め、それだけでは足りず新たに栽培しはじめた。


そしてロビンとエマを説得し、サンテ大陸にも幾つか再生機と録音盤を作る工場を建ててもらうことにした。

これでいいソフトがあれば大流行するはずだ。




それからまた三月経った。

俺が転生したオーデウスの歌は転生してすぐの頃に比べると格段の進歩があった。

しかし本物のオーデウスの歌唱力には程遠い。

ダニエルと交渉して、独りで自由になる期間もあと半年だ。


残りの期間で、転生した俺は本物のオーデウスに追いつけるだろうか。



そんなことを考えていると突然声を掛けられた。

「ねえ貴方がサトウリュウさんですね。やっと見つけましたわ」

鈴が鳴るような品のある声だった。


いつの間にか降って湧いたようにハリウッド女優顔負けの美人が目の前に現れた。


既視感があった。

というか思い出した。

ああああああっ、喫茶店で一枚の粗い紙を俺にくれた、自称神様のトビキリ綺麗なお姉さんだ。

民族衣装みたいなのを着た背の高いスタイル抜群な超美人を忘れるはずがない。

というか今俺がこんなに苦労しているのはこの人のせいって気がするんだけど。

もっと話を進めたかったけど間に合いませんでした。

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