第23話 危難が続く
もちろん初めての戦だったが、敵の動きがよくわかった。
相手はほとんどの者が震えていた。
味方もそうだったが。
楽しもうというようなやつはいない。
動きが硬いのだ、余計な力が入っているのだ。
それがわかると楽になった。
俺は自分が落ち着いていると自覚していた。
相手が剣を振り回している。
大振りだ。
まともに当たればそれなりの威力だろうが、鋭さがない。
鈍くて遅い。
マリアやリゼに比べたらどうってことない。
こちらは相手が大振りしているその隙に最小限の動きで捌いた。
剣は合わせない。
一振り毎に敵を戦闘不能にした。
手首、肘、足、筋も効果的だった。
全然疲れない。目の前の敵はみんな倒れてしまう。
どんどん前へ進んだ。
俺の前には一人だけ熊のようにでかい獣人が立っていた。
熊系の獣人なのだろう。
「おい小僧、名はなんという」
「我は土地ノ神マリアの眷属ウーデルス=マリアなり」
「なんだと。あの憎きマリアの創った出来損ないか。さっきから見ていると噂とは違った戦い方じゃないか」
一角の武人とわかるオーラをまとった熊のような男が言った。
この男は何を言ってるのだ。どういう意味だ。噂と違うとは。
「なんだ小僧、動揺しているな。わしに怖気づいたか」
「いや噂だとどんな戦い方だと聞いているのか」
「当たるを幸いにバッタバッタと叩き潰すような剛の剣だと聞いておったが、女のような剣を使うとは。お前オカマじゃったのか」
オカマと聞いて俺はさらに動揺した。
本当はオカマと同性愛者とはちょっと違うのだが。
そうだ、今言われて気づいたがウーデルスの剣はこんな感じじゃないよな。
もっと正面から思い切りぶつかるような戦い方をする。
今の俺の方が無駄のない合理的な動きだとは思うが。
どういうことだ。
俺の動きが止まっただけでなく、気の緩みを感じたのか熊のような獣人はでかい剣を振りかざしてきた。
「わしの前で気の緩みを見せるとは愚弄するのも程があるぞ」
慌てた俺は剣で受けて防いだ。
ズシリと重く足が地にめり込んだ。
剣が悲鳴を上げている。そんな感じがした。
実際ひびが入ったかもしれない。
熊男は満足そうにニヤッと笑った。
「剣の遣い手同士の戦いとは、やはりこうでなくてはならんな」
その時背後に気配を感じ、右横へ飛びながら後ろを振り向いた。
狐のような顔をした男が長い槍で突いてきた。
熊男が吠えた。
「眷属殿、今わしが戦っている最中。邪魔しないでもらいたい」
「ああ済まぬ」
狐男は素直に謝ったがその鼻が一瞬光ったのを俺は見逃さなかった。
熊男がでかい剣を再び振り下ろした。
受け流したとしても刃こぼれだけでは済まないかも。
俺はさっき受けた奴の剣の衝撃からそう判断し、強引に体をひねってよけた。
そこへ狐男の槍が飛んできた。
よけきれない、俺はそう判断し剣で防ぎ長槍を弾いた。
「眷属殿、その得物は武人にふさわしくない。しかも投げるとは卑怯であるぞ」
熊男が味方である狐男に意見していた。
誰も槍を持たないのはそういう訳か。
狐男は剣を手にしながら宣言した。
「今のうちだけだぞ、そんな口がきけるのは。私はコイツを倒したら、次にマリアを倒し、人間の町まで含めた広大な範囲の土地ノ神になるのだ。その暁にはお主を眷属にしてやってもいいぞ」
狐男は俺を倒すのが当たり前のつもりでいた。
たしかに俺の剣はさっき飛んでくる槍を防いだ時に折れていた。
「ふん、先のことはまあいい。しかしウーデルスはわしが倒す。手出し無用じゃ」
それには応えず狐男はコーンと叫んだ。
するとざっと二十人程の獣人がこちらへ駆けてきた。
何か手を打たないと状況はどんどん不利になると俺は瞬時に判断した。
一旦退くのが一番だったが、獣人に囲まれつつある今は不可能だ。
行動に移った。
走りながら折れた剣を熊男に投げつけた。
奴はかろうじてよけたようだ。
予定内のことだった。
その間に狐男がさっき投げてきた槍を拾い、憮然としている熊男に投げ、刺した。
狐男が剣で突き刺そうとしているのがわかっていた俺は、それを避けながら回り込んで熊男に走り寄った。
槍が貫き、倒れた熊男の手からでかい剣をもぎ取る。
狐男が再び差し出してきた剣をぎりぎりのところで受け止め、狐男に蹴りを入れた。
狐男がココンと叫んだ。
すると取り囲んだ獣人たちがそれぞれ槍を手に持ち迫ってきた。
狐男を人質に…… いや状況は打開できない。悪化するだろう。
獣人たちが襲ってきたのを剣で捌いた。
しかしでかい剣は使い勝手がよくない。
四人ほど倒したが俺も何箇所か傷を負った。
「恐れるんじゃない。このウーデルスという若造はあっという間に傷をつけて戦闘不能にさせるが、殺しはしない。傷を浅くつけてるんだ。だから剣が早いんだ。お前たちが傷をつけられたとしても半年もしないうちに治るだろう。だから怖がるんじゃない」
この狐男は知恵が回る。
最初に打つべき手は狐男を黙らせることだ。
俺は使い慣れないでかい剣を獣人たちの後ろに回った狐男に投げた。
狐男の前に飛び出した獣人に剣は突き刺さった。
「この男の仇を取るのだ。若造はもう何も得物を持ってはおらんぞ。倒した者は私が土地の神になった暁には眷属に取り立ててやろう」
獣人たちが手柄を立てんと我先に俺へ飛びかかってきた。
この世界ともおさらばか。
次の瞬間俺の手から火が放たれた。
何人かの体が火に包まれた。
敵が怯んだ。
「いっせいに槍を放て。それっ!」
狐男の指示がとび、男たちはいっせいに槍を放った。
俺は火の魔法で半分近い獣人を火祭りにしたが、足に二本、腕に一本、背中に一本、脇腹にも槍が当たり傷がついた。
まだ俺が生きているのは獣人たちが槍の扱いに不慣れで体に突き刺さったものはなかったからだ。
致命傷に至るような深い傷はない。
だが意識がぼんやりしてきた。
もう手から火も発射出来ない。
火に用心しながら十名足らずの獣人がじりっじりっと近づいた。
今度こそもう駄目か、そう思った時にバモンが飛び込んできた。
なんとか今日中にもう1話UPしたいものです