第19話 魔法を使えるようになる稽古
ハッと目を覚ました。
また転生か。
目の前にリゼとマリアとマカーンがいた。
現世を思い出した。催眠をかけられたことも。
なぜか三人とも困ったような顔してる。
訳を聞いてみると催眠にかかった状態の俺が言ってる言葉がさっぱりわからなかったらしい。
リゼが頑張って聞き取れた発音だけ壁に書いていた。
それを声に出して読んでもらって合点がいった。
そうか日本語で喋ったんだな。
だからここにいるメンバーが理解できなくて当然だ。
こんな時に録音機か何かがあれば便利なのだが。
リゼが読んでくれたものは難解だったがなんとか所々わかる箇所があった。
そしてその内容がアーデウス、イデウス、ウーデルスのキャラクターとやや似ていることもわかった。
催眠状態での発言のため自分では覚えてないが『魔法を使う正義の剣士』『人々を救済する聖者』『悪の組織と戦うヤンキー』と言ったようだ。
この三つはアーデウス・イデウス・ウーデルスとの関連を仮定して考えたから解読出来た。多分だが。
たしかに俺が考えそうな物語のキャラクターだ。
他にも六つほどリゼが俺の発した音をそのまま起したものがあるが、速記でもない限り喋りに追いつくのは難しかったと思う。
想像してみたらわかる。
突然何語でもいい、自分が親しんでない言葉が流れてきて、それをカタカナでそのまま追って書けるだろうか。
俺が普通の状態ならちょっと喋るのストップとか言えるだろうが、催眠にかかっている状態ではは無理だったんだろう。
『魔法を使う正義の剣士』『人々を救済する聖者』『悪の組織と戦うヤンキー』の三つ以外は残り六つとは限らず、書き漏らしたものも二つか三つあったらしい。
この理屈でいくと俺は最低でも後六回は転生するということだ。
その六回だが、強引に解読すると『男のロマン、ハーレム』『人気バンドのボーカル』『影の仕事人』『戦記・良い政治』『女王・スパイ』『変身してヒーロー』となった。
自分でも意味がわからないし、これだけのヒントがあっても喫茶店で美人の神様から貰った粗い紙に書いた内容を思い出さない。
リゼにもう一度暗示にかけてもらえないかとお願いしたが、催眠状態にして同じ内容を再び聞き出すのは危険な行為でほとんどの人が廃人になるからと断られた。
マリアには前もって転生内容がわかってたらつまんないだろうと言われた。
そういう考えもあるかとあきらめた。
俺がアーデウス・イデウスの記憶をまさぐって垣間見たものまで完全に覚えている話をするとマカーンが実験をした。
何か法律の類なのだろうか、五分程度だったと思うがマカーンがすらすらと声に出した。
それを俺が覚えているかどうかのテストである。
結論からいえば全然覚えてなかった。
マカーンとリゼが出した答えは、二つの可能性だった。
一つめ、次の世つまり来世に行ったら現世のことをすらすら思い出す可能性があるということ。
前世の記憶となって初めて機能するというか蘇るということだ。
二つめ、あくまで転生した時に乗り移った者、今までだとアーデウス・イデウス・ウーデルスだが、その者の記憶をまさぐっている時視た内容については忘れることがないということ。
つまり乗り移った者が体験していて且つそれを俺が視た場合のみ忘れないということ。
頭が痛くなってきた。
転生に関する専門家であるマカーンが言うには俺の転生は非常に特殊で少なくとも今までにマカーンが聞いたこともないものらしい。
一、普通に生活していて何かのタイミングで前世の記憶が蘇るのが当たり前で、俺のようにいきなり元々(前世)の記憶が占領し、現世の者の自我がなくなるケースはない。
二、複数回の転生を経験する者はいない。
三、時間をさかのぼって転生することはあり得ない。
俺も特に三つめが気になった。
知恵ノ神マカーンの知識の中では考えられないということ。
時間の進む方向は過去から未来への一方向のみで、さかのぼるということは逆行するということだ。
マカーンのこの考えにはリゼも同意していた。
まさか実はアーデウス・イデウスの世界とはまた別な異世界? ってことはないな。
マリアがとんでもないことを言った。
「一回世界が終わってまた最初から始まったんじゃないの?」
マカーンもリゼもそして俺もその仮説は思いつかなかった。
それだと逆行しないで済む。
その後、マカーンとリゼはしばらくの間おとなしくなってしまい、微妙な空気が流れた。
それからも青鬼人の話とか色々な話題が出た。
アーデウスとイデウスの魔法が今の俺には使えない件に話題が移った。
俺は忘れないうちにと、ウーデルスの得意な魔法について尋ねてみた。
「ウーが一番使えるのは勇気の魔法さ」
マリアが教えてくれたが聞き間違いだと思った。
なにそれ
改めて尋ねるとどんな場面でも怖がることなく立ち向かう力だという。
なんかの冗談でしょうと思ってリゼを見たが、人を担いでいる様子はなかった。
マカーンもなるほど! といった表情をしていた。
おいおいおいおい、その魔法役に立つのかよ。
といった内容をオブラートに包んで質問した。
「やっぱりいざとなったらハートだよ」
と言ってマリアは胸を叩いた。
リゼが付け加えた。
「マリアの持っているのは根性の魔法だものね」
持っている魔法までヤンキー丸出しかよ。
もっと火とか水とか風とか宙に浮く、召喚できるとかないのかよ。
「リゼはどんな種類の魔法なの?」
「あたしの場合はさっきの暗示の魔法が一番得意。それともう一つは洞察の魔法が評判いいけど」
それって何、相手を観察して見抜くとかいうそんなありきたりじゃないよねと思ったが聞くのが面倒になった。
「ウー、じゃなくてサトウリュウ、オメエがウーの魔法を使えるように稽古つけてやるよ」
「別に勇気の魔法なんか会得したって」
「まもなく獣人との間で戦がある。その時強くなかったら怪しまれるどころか下手したら死ぬぞ。いやもっとひどいのは捕まったら奴隷にされちまうぜ。それでもいいのか」
「戦に出なきゃいいんだろ」
「馬鹿、オメエは見た目はウーなんだ。戦に出ないなんてことは許されない。いつも暴れているウーを住民たちが許しているのは戦で活躍するってわかってるからだ」
マリアに戦い方を教わることになった。
俺はボロボロだ。さっきから何度もマリアに叩きのめされている。
一回も勝てない。
「オメエ弱っちいな。これが本番だったら何度死んだか。気合いを入れろ」
駄目だ。汗が目に入って霞んでみえる。
そこに木刀が上段から頭へまともに入る。
目の前が真っ暗になった。
と思ったら体が軽くなっていた。
マカーンが俺へ手をかざし何か唱えていた。
「これで全身の打ち身も消えるでしょう。体力もどうです?」
「復活できました」
しかしまたマリアにただ叩きのめされるだけなのか。
自分が気づかないだけで上達しているのかもしれないが、痛いのは嫌だなあ。
「マリア様に稽古をつけてもらえるとサトウリュウも強くなりましょう。しかしこんな初心者にマリア様の指導は勿体ない。この者には初め私が鍛えましょう」
それを聞いてリゼが慌てた、
「マカーン様、何をおっしゃいます。それならウーデルスのことをよくわかっているあたしが相手しましょう。マカーン様は何か気づかれたら助言をお願いします」
「リゼが木剣を握るとは珍しい。いい勉強になるぞ。オレも相手してほしいぐらいだ」
マリアがニヤッと笑った。
「マリアの相手をしたらこっちの身が持ちません。それに最初は木剣を持ちません」
そしてこっちを向いた。
「さあ、これから始めますよ。勇気の魔法を使えるようにします」