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第170話 本編Ⅰ-59


俺は神剣モルダウを抜くと自分の喉にあてた。

すると父と母が叫んだ。

「これからも自分の正しいと思った道を歩むんだぞ」


「これからもずっと愛してるわ。体に気をつけてね。さよなら」


そう言うと二人は刺さっている剣をさらに深々と刺しこんだ。

そして剣を握りしめたまま絶命した。


厄ノ神は剣を引き抜こうとあがいていたが父と母が命と引き換えにがっしり握った剣は動かなかった。



「ウォォォォォォ」

俺は絶叫しながら無意識のうちに厄ノ神を物凄いスピードで切り刻んでいた。



厄ノ神はバラバラになった。

もちろん生きてはいない。


こんな剣捌きは初めてだ、自分でも驚いた。

練習でも出来たことはない。

俺の怒りがそのままモルダウに乗り移ったようだ。

これなら今後も神の類の者たちとも闘っていけるかもしれない。




そして興奮して神経が高ぶっているのか『指向性のマイク耳』のスイッチが勝手に入っていた。

わかりやすく表現するならば俺の耳の感度がよくなって周囲の物音に反応したってことだ。


「誰だ、そこに隠れているのは」


「ほほう、よく気づいたな。気配を消していたんだが。やはりお前は人間にしてはなかなかの腕前とみた」


線の細いこの者はどこかで見た気がした。


そうだ、表情が魔ノ神とどことなく似ている。

しかし魔ノ神と異なりひょろっとしている。一体何者だ。


俺は『ネームの術』を使い誰か確認した。


彼の頭の上に『龍ノ神』と表示された。


確かによく見るとうっすらと鱗が生えている。


こいつが龍族のトップか。

でも全然威厳がないなあ。

鱗も薄いし。まだ俺が転生した『コデウス』の方が龍族としての風格があったなあ。


あっ思い出した。

ザンパから聞いた話だと龍ノ神の母親は魔ノ神の妹だったよな。

成程、だから龍ノ神の表情がどことなく魔ノ神に似ているんだ。


しかし目の前の『神』とまともに闘って俺は勝てるだろうか。

取りあえずはその場しのぎで何かしなければ。

両親の死を無駄にしてはいけない。


「ちょっちょっちょっと待ってよ。俺あんたのこと知らないんだけど」


「どうせお前は死ぬんだ、教えてやる必要はあるまい」


「いえいえ、理由もなくは嫌です。あんた、いえ貴方様は大変偉い方のようにお見受けします。

せめてお名前など教えていただけないでしょうか」


「よかろう、私は龍ノ神だ」


「貴方様のようなお方になぜ私が……」


「それは言えないなあ」


「まさか、龍ノ神様ともあろうお方が今から貴方様に殺される運命の私を畏れているのですか」


龍ノ神は気色ばんだ。

「そんなはずないだろうが」


「では誰かに口止めされているのですか」


「お前は何度も生まれ変わるらしいではないか」


俺は心底驚いたという表情を作った。

「よくおわかりですね。

でもそれでしたら私の転生は今回限りということもおわかりでしょう」


「うん? あっああ…… いや、なぜお前はそれを知っているのだ」


その質問待ってました。

「帝神様に言われたのです」


「なにー! 帝神様だと。ではそれは事実だ」


目の前にいる神はちょっと足りないのか、それとも疑うことを知らないのか。


「それで私を邪魔だと思っているのは誰なのですか」

俺はズバリ聞いた。


「そうか、お前はもう転生しないんだな。じゃあ教えてやろう。我が叔父に当たる魔ノ神だ」


「ええっ魔ノ神様ですか。全然接点がないのになあ。一体どうして」


厄ノ神が襲ってきたということはきっと邪神が指示してるはずだとおおよそのことはわかっていたが、龍ノ神の口から直接そのことを聞きたかった。


間抜けな龍ノ神は一瞬だけ親身になってくれた。

「まったく心当たりがないのか」


「ええ、そんな神々なんて私にとっては無縁の、そう! まったくの別世界です」


龍ノ神は考え込んでいたが、決断したように『おおっ』と声を上げた。


「どうせこの後お前は俺に切り刻まれるんだから教えてやろう。

お前を邪魔だと思っているのは邪神だ。

なんでも話によれば、お前は邪神が目標を達成するのを妨害する役目らしい」


「あのう、何のことだかさっぱりわかりません。具体的に教えてください」

あくまで謙虚なふりをした。


「俺も詳しいことはわからないが、お前が陰神と陽神を覚醒させるかもしれないんだって。そしてそのことは邪神にとってよくないそうだ」


俺は最低限の聞きたいことは聞き出せたのでモルダウを抜いて不意打ちをした。

龍ノ神は慌てふためいた様子で除けた。


なんだ、ちょろいな。


「お前いきなり卑怯だぞ、心の準備が出来てないからビックリしたではないか」

と言いながら龍に変身し始めた。

龍の形になった。

今から巨大化するのか。

? いつまで経っても大きくならない。

まさかこのサイズのまんま?

人間のサイズと変わんないぞ。

これだとあんまり恐くない。

勝てるかもしれない。



「お前、変身した後のサイズが小さいからって今俺のことを馬鹿にしてるだろう」

そう言って龍ノ神はこちらを睨んだ。


いや馬鹿にはしてないつもりだが。


「どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって」



いつも馬鹿にされてるのか龍ノ神はコンプレックスを持ってるな。


「俺がどれだけ強いか教えてやろう。その後お前は死ね」


なんか龍ノ神には今から命を懸けた闘いをするという緊張感が感じられなかった。


勝てるかもしれない。

しかし龍のお約束の口から火を吐く攻撃は避けなければならない。

どのくらい距離を取ればいいのか。


奴が息を吸い込み口を開けた。

慌てて後ろへ下がった俺に向かい、黒い粘液のようなものが飛んできた。

意外に飛距離がある、が俺は除けることが出来た。


辺りの草木に粘液がかかったが、見る限り変化がなかった。


「おい、龍の特徴といえば口から火を吐くことだろう。火はどうした」


「うるさい黙れ」


なんだ火は吐けないのか、よっしゃ。


俺は一気に距離を詰めた。

ウーデルスの時の必殺技『ジャンピングフック』あれを応用して跳躍した。

恥ずかしながら『ジャンピングフック』とは蹴り技であり、フックではないのだが。

まあ厳密にいうと恥ずかしいのは俺ではなく、俺が転生する前のウーデルスなのだが。


『ジャンピングフック』とは反対に、腕を前に出す姿勢となり、神剣モルダウを突き刺すつもりだった。

奴が粘液をビュンビュン飛ばす。


一瞬モルダウが『まずい』と声を出したような気がした。

気のせいだよな。

俺はモルダウで粘液を振り払ったが俺にも粘液は少しかかってしまった。


しかし何の異常も感じられない。

俺はホッとしながらモルダウを奴に突き刺した。

いやそのつもりだったが刃がたたなかった。


どうしたんだ、モルダウ!


俺は火系魔法を使おうとしたがなぜか発動できない。

長い事使ってなかったからか。


「どうした、技を仕掛けてこい。暇つぶしにもならんぞ」

余裕の表情で龍ノ神は俺を挑発した。


「一体何をした」


「ははは、もうお前には勝ち目はないのだ。この粘液はすべての威力を奪い取るのだ。

つまりその剣の切れ味もなくなり、お前の術もすべて効かないのだ。

そしてジワジワと体に毒が回り、最後は命を落とすのだ」


なんだか体が痺れ目が霞んできた。


俺は自分に治癒術を施そうとしたが何も変わらない。


「無理無理、お前如きに俺の必殺技を覆せるはずがなかろう」


もう駄目か、帝神は助けに来てくれないのか。

思い切って呼んでみた。


「帝神様!!! まだ死ぬ訳には参りません。助けてください」


それを聞いて目の前の龍がダッシュで逃げ出した。

そして急に辺りがしーんと静まり返った。

しかし帝神は現れなかった。


俺は覚悟を決めた。

そこへ変身を解いた龍ノ神がおずおずと戻ってきた。


「お前ハッタリか。よくも驚かしやがって」


残り二回の転生のためにも何か情報を聞き出そう。


「最後の転生で貴方様のような強いお方と出会えてよかったでした」


「そうかそうか」


「どんな神々にも弱点があるという話を聞いたことがあるのですが貴方様には弱点などないのですか」


「どうせ死ぬんだから教えてやろう。俺の弱点はこのヒゲだ」


「ああ、そんなところに弱点があるとは。でも最強の粘液をお持ちですから誰も近寄れないでしょうね」


龍ノ神は嬉しそうな声を出した。

「人間風情がよくわかっておるではないか。俺は最強なのだ」


「他の神々にも効き目はあるんですか」


「試したことはないが、同等の神には効くはずだ」


「王神とかには」


「お前色々聞きすぎるぞ」


気づかれたか? 俺は慌てた。

「いえ、出来れば龍ノ神様に我が宿敵である王神を倒してほしいと思いまして」


「うんお前は王神と敵対している? おかしいなあ」

龍ノ神は最後は呟くように言った。


もう持たない。

何か聞き出さなければ。

「ザンパには弱点はないのですか」


「なんでそんなことが知りたいのだ。お前おかしいぞ」


「いえ、ザンパが危機に陥った時に助けるためにも……」


ああ俺の命が尽きようとしている。


「ああそうか。奴の弱点は酒だ。ああ! お前今回で転生は終わりだったんじゃなかったのか」


奴が剣で俺の心臓を突き刺してくれた。


ああやっと楽になれた。

そしてまわりが暗闇につつまれた。


すると辺り一面が金色に輝きだした。

だが何の気配も感じなかった。

声がした。

「後二回の転生で成功させなければならないのだ」


威厳のある声だった。

「どなた様か存じませんが姿を見せてください」


「姿かたちなど持っておらぬ」


あれっこの状態でもネームの術は使えるんだっけ。

俺は試してみた。

すると姿はないものの『主神』と表示された。


『主神』って確か『帝神』のお兄さんに当たる偉い偉いとてつもなく偉い神様だったような。


そっか、弟の帝神が銀で兄に当たる『主神』が金なのか。


「あのう、お姿を」


「くどい! 姿などないのだ。本当の神になど意識さえあれば形など必要ない」


「でも帝神様は」


「あああれはわかりやすくするために形どっているだけだ!」


「そういうことでしたか」


なんか威張り腐っている感じで好感が持てなかった。


「お前なんぞになんと思われようがどうってことはない」


げっ! 考えを読まれている。


「まあいい、ところでお前には思慮が足りん。過去を見つめ直し、しばらく反省しろ」

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