第169話 本編Ⅰ-58
随分ご無沙汰でした。
次回で本編Ⅰを終え、次々回から本編Ⅱに入る予定です。
イメルサの逆鱗に触れたとはドラゴンの奴、浮気でもしているのか。
彼女の剣幕な様子を見て聴衆は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
イメルサはそのまま剣でその男を刺した。
いや刺したように見えたが、見えない何かに防がれて剣が欠けた。
距離が縮まり俺にもその男がドラゴンでないことがわかった。
イメルサはあきらめずにガンガン剣を振り下ろす。
その時俺は初めて目の前の男が誰だかわかった。
あのイッチャってる目は忘れない。
忘れようがない。
あいつは日本にいる時俺が追っかけしていたアイドルバンド「マーキームーン」を襲い、俺を刀で差し貫いた暴漢だ。
なんでドラゴンじゃなくて、そしてよりによってあいつがいるんだ。
ドラゴンはどこへ行ったんだ。
「テメエ、ドラゴンをどこへやった!」
イメルサが叫ぶ。
「ドラゴン? 誰だそれっ」
と言いながら暴漢はモーションもなく、不意に剣でイメルサの腹を掻っ捌いた。
まずい。
俺はイメルサをその場から引き離し、治癒術を使った。
暴漢はニヤッと笑いながらこっちへ近づいてくる。
ここはイメルサを置いて奴を迎え撃つしかないのか。
すると突然頭を押さえ苦しみだした。
陰神がなんかブツブツ唱えている。
暴漢は陰神の方を向き、剣を放り出した。
その間に集中してイメルサを治した。
イメルサの傷はどうやら塞がり、完治とはいかないが、軽傷ぐらいの傷になった。
「お前たち、前も来ていたな」
陰神が俺たちに声を掛けてきた。
「ええ、そうよ。ドラゴンは、いえサトウリュウはどこへ行ったの?」
すると暴漢が応えた。
「なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「???……!!!」
「もしかしてあんたの名前もサトウリュウなのか」
俺は思わず日本語で叫んだ。
「お前日本人か?」
「そうだよ、お前がマーキームーンを襲った時、巻き添えを食らった」
「ああ、あのデブか。そういえばこんな顔形だったかも。お前も召喚されたのか」
「嫌、俺の場合お前に刺されて瀕死状態だったから、召喚されてここへ来た後死んだんだよ。で転生を重ねてるんだ」
「そっちの鬼人の女は」
「あたしはあんたに殺されて、こっちに転生した第一マネージャーだ」
「ああ、男前な女マネージャーか」
隙をついてイメルサは不意打ちを仕掛けた。
が無駄だった。
「俺は不死身なんだよ。おかげでここではタップリ楽しませてもらってるぜ」
俺は腑に落ちた。
思い出したのだドラゴンと魔ノ神との噛み合わない会話を。
【「この技が通用しないとは。お前が噂の召喚されし者か。しかし聞いてた話と違うな」
魔ノ神の言葉を聞き、ドラゴンは怪訝な顔をした。
「噂が流れているのか」
「そうとも。見るからに恐ろしい男で、隙あらば陰神に逆らおうとしていると聞いたぞ。一見おとなしいが、一度暴れだしたら誰も止められないとも」
「なんでそんな噂が」】
その時は俺は俺は魔ノ神がブルデッドと勘違いしているのだと思った。
司神も同じ勘違いをしていた。
でもわかった。
魔ノ神や司神が言っていたのはドラゴンでない方のサトウリュウのことだった。
「イメルサ、取りあえずこの場から撤退しよう」
怒りに燃えたイメルサを強引に引っ張った。
怒りだけでは倒せない。
片方は『ノ』のない偉い神、もう片方は不死身の召喚されし者。
勝てっこないのだ。
イメルサをこんこんと説き伏せた。
最終的には彼女も理解してくれた。
犬死はよくない。
そして暴漢に仕返しするよりドラゴンといつか元通りになる事が最優先すべきことだと。
俺はイメルサと別れ、修行を続けた。
とにかく目的を果たすためにはもっともっと強くならなければ。
そして数年の月日が過ぎた。
そんな俺に対し、また災難が降りかかった。
厄ノ神が両親を人質に取り、目の前に現れたのだ。
父であるガウディ=ベントールと母ベッキーだ。
「いいか少しでも妙な真似すると二人の命はないぞ。お前は剣で自分の喉を突け」
何か打開策はないか。
躊躇っている俺を見て厄ノ神は両親を死なないぐらいの深さまで刺した。