第160話 本編Ⅰ-49
ベントール家は俺のことを温かく迎えてくれた。
母ベッキーなど泣き出した。
家族同様だったヒアルは手厚く葬った。
事情を聞かれ説明したが誰も俺を責める者はいなかった。
ウエンディは回復傾向にあり、時折笑顔を見せるようになっていた。
モスバは片足を引きずって歩く以外は普通と変わらぬ生活を送れるようになっていた。
俺はダイエットと修行に明け暮れる日々を送った。
そしてこの土地も季節的には秋といえる時期になった。
冬でも比較的暖かい気候で過ごしやすい安楽の土地と言われているここも、今年に限ってはまだ秋だというのに雪が降り出した。
そしてそれは止むことがなく、降り積もり続けた。
珍しく、いや初めてなのかもしれないこの地にまで寒波が訪れたのだ。
収穫期を迎えた作物は全滅し、同じトスリヤ国でも寒さに慣れてないこの地の人々は苦しんだ。
凍死する者、飢え死にする者が続出した。
そんな寒い時期に一人の旅人がこの地にやってきた。
元ブルック国の都ミュラー出身らしかった。
家族が暫く落ち着いて暮らした場所だ。
俺は懐かしくなった。
そしてその者はこの気候に困っているだろうと色々と親切にしてやった。
『元』ブルック国というのは、今はサンサーバ国に飲み込まれたからだ。
その日もブルック国の話をしていたが突然彼の顔色が変わった。
「じゃあキサマが王神様にあんな不敬を働いたのか。王神様のお怒りに触れてブルック国は滅亡したのだぞ」
あっという間にその話は町に広がった。
俺のことを恐れ多くも王神様に盾突いた無法者と思い、人々はこちらを見ては小声で何か話していた。
どうせ悪口の類に違いないだろうが。
俺はそれらを気にしないと言い聞かせやり過ごした。
するとその怒りの矛先がベントール家に向けられた。
『王神様にあんなことをしたからベントール家は呪われているんだ。そんなお前たちがこの地に来たから今年はおかしな気候になったのだ』
毎日群衆が押し寄せては抗議をしている。
この状況はまずい。
早く手を打たないと。
俺は意を決した。
「皆さん、私が王神様に失礼なことをしたというのはデマです。もし本当ならこうやって生きているはずがありません。
しかし皆さんの気が済むようでしたら俺はこの地を出ていきます。ちなみに父ガウディや母ベッキーとも私は血が繋がってません。拾われたんです。髪や目の色を始め、姿が全然似てないでしょ」
そして慌てて駆けつけた両親に言った。
「今までありがとうございました。恩返しどころかこんな騒ぎを起こしてしまって。私は偉い神様の命でまた行かねばなりません。今度は帰って来られるか。いつまでもお元気で」
芝居を続けた。
「町の皆さん、王神様にお会いした時にこの地に寒波のような苦しみを続けるのをやめるように言いますので」
人々は皆困り出した。
「いやいや、王神様のせいなんて誰も思ってないからさあ」
「頼むから王神様へそんな失礼なことを言わないでくれ」
「余所者が話しただけで町の者はそんな話信じてないから」
口々に人々は言い出したがこの辺が潮時だろう。
うまく騙せている間にい亡くなった方がいい。
体も少しは絞れた。
剣も鋭さが戻ってきたし、魔法の力もついてきた。
俺は再び家を出た。
目的は『王神』と『魔ノ神』を倒すことだ。
しかし今のままではこころもとない。
覚悟を決めた。
急速に強くなるためには邪神に伝授された『姿を消す』術が必要だ。
だがラデウスとしてその術を身につけると邪神に居場所がバレてしまう。
いや、もし邪神が現れたらさらに力を授けてもらおう。
俺は地面に頭を擦り付け長い間呪文を唱え続けた。
そして『姿を消す』術を身につけた。
それから十日の間旅を続けた。
するとようやく邪神が現れた。
久しぶりに見る邪神は成長していて別人のようだった。
一八〇センチはあろうか。
こいつが本当に陰陽神を後ろから不意打ちして陰神と陽神に分けたのだろうか。
まあ用心しないといけないな。