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第16話 ヤンキーな神様と比較的まともな眷属

「ウーに入っている君、怖がらなくていいんだから。本当になんにもわかってないみたいだから教えるけどマリアは神様なの」


もしこの時何か飲んでたら確実に吹いてただろう。


「そしてウーとあたしはマリアが創ってくれたの。この話信じられない? でも本当なんだけど。ほらあたしの鼻光ってないでしょ?」


なんのことだ…… あああっ。

ミリヤが言ってた訳のわからないことの意味がわかったような気がした。



「すみません、もしかして嘘をつくと鼻が伸びます?」


「オメエ阿保か。鼻が伸びるって皮が伸びるのか。それとも骨が伸びるのか。そんな面倒なふうには神様も設定しねえよ。鼻がピカーッってなるんだよ」


「ふーん光るんだ。ってあれ? マリアさんだって神様でしょ」


「『さん』はつけなくて呼び捨てで構わないさ。オレは神様っていっても最低位の神だからそんなに人間と変わらねえんだよ」


「じゃあマリアが創ったリゼとウー…… でいいんだっけ」


「正確にはウーデルス。あたしとウーデルスはマリアの眷属。家来というか従者というか、実際は家族って感じに近いかな。最低位の神様の眷属だから種でいうなら神様と人との中間ぐらい」


「オメエがやっと目を覚ましたからいつものようにド突き合いしてそれからハグしたんだ。オレ流の挨拶だよ。そしたらオメエがオレにキスしてきたからびっくりしたぜ」


「そういうことか。でもド突き合いって?」


「さっきは一方的だったけどいつもはやり返してくるんだよ。ウーはよ」


「なるほど。いきなりボコボコにされてそれからハグされたからツンデレかと思ったよ」


「ハーアー!?」


ヤンキー特有の疑問形と感嘆形の混じったヤツだ。

ツンデレなんかじゃねえよバーカって意味か、それともツンデレってなんだよそれ知らねえなあって意味か、どっちだ?

まあ重要じゃねえからどっちでもいいや。






クールビューティと思っていたリゼが懇切丁寧に色々教えてくれた。


「君が入っているっていいのかな、彼の名前はウーデルス=マリア。この世に誕生して五年。ただし人間の五才とは違い、創られた時既に十二才だった。だから今人間で言うと十七才ね」


「そうなんだ。リゼはいくつなのか聞いてもいい?」


「それってもう聞いてるのと同じでしょ。創られてから四十七年よ」


「じゃあ俺いやウーデルスと」


「名前なんていちいち気にしなくていいわ、ねえマリア」


「ああ、そうだな」



意外となのか、人を超えた存在だから当然なのか、物分かりのよい方々だと思った。


「俺とリゼはかなり年が離れているんだね」


「そうなんだよ。ありがてえことによ、リゼを欲しがるお方がいてさ。それでその時になって慌てねえようにオメエをこしらえたんだよ」


俺の勘が働いた。

「おめでとうございます……でいいんですよね」


リゼが微笑んだ。

「間違ってはいないけど多分勘違いしてると思う」


「えっご結婚されるんじゃないんですか」


「ちげえよ。リゼは優秀だからオレよりずっと偉い神様になるんだよ」

マリアは誇らしげだった。


「マリアみたいな独立独歩じゃなくて単なる使いっ走りじゃない」


「そんなこと言うとそれこそバチが当たるぞ。例えるならそうだな……国王の側近と田舎町の役人ぐらいの差がある」


「それって盛りすぎです!」


「へえ、でも創られた方が創ってくれた神を超えることもあるんだ」


「それ自体は珍しいことじゃないみたい」


「じゃあ俺はどうなの。優秀?」


マリアとリゼは困ったように顔を見合わせた。

それだけで答えはわかった。



そしてリゼの講義は続いた。たまにマリアが脱線したけど。




マリアは人としてこの世に生まれたが喧嘩ばかりしていたバリバリのヤンキーだったらしい。

しかし弱い者苛めは絶対しなかったそうだが。


ある時山賊に村人たちが襲われているのを体を張って助けた。

だがその代わりマリアは致命傷になるような深手を負った。

そこへ名前も知らない神様が来ておまじないみたいなのを唱えてくれたら、傷がすっかり癒えて神様になっていた。

人間として十七才で神様になり、それから四十八年経つ。


神様にも外見が変わらない者と変化する者があり、マリアはまったく変わらない。

それは神様の階級とは関係はないということらしい。


リゼはマリアが神様になったばかりで右も左もわからないうちに創られた。

マリアは髪を一掴み抜いてオリーブオイルと一緒に壺に入れ、それを火にくべた。

すると姿を現したというか誕生したらしい。


適当に創ったら最高に出来のいい眷属が誕生したからビギナーズラックだったんだとマリアは笑っていた。


俺というかウーデルスの場合、マリアの欠けた前歯、ちなみにこれは彼女が土地ノ神になった後、他所の土地ノ神と喧嘩になった時に折れたものだが、その歯にマリアの血と唾と飲みかけの酒を混ぜたら誕生したらしい。



ウーデルスはリゼの正反対で鼻つまみ者とまではいかなくとも暴れん坊として名が通っている。

番長かそれとも町のチンピラってとこか。

チンピラよりは番長の方がいいが。


マリアの血とか混ぜたからガラが悪くなったんじゃないかと俺は思った。


基本この世界の神様は長命であっても不死身ではないらしい。

マリアのような土地ノ神ぐらいの者はあっけなく病死することもある。



ここはミシュ大陸の海岸線からそんなに離れていない町で国という形にはなってない。

時代は『新世』二七年。アーデウスの時は『正義』(暗黒とも言う)、イデウスの時は『聖始』、どちらとも違うし、正義の前は大陸が二つに割れたのが始まりの『分世』だったよなと思った。


だがよく話を聞いていると『新世』は大陸が二つに割れ新しい世界が始まったから『新世』となったらしい。

つまり『新世』は『分世』のことだった。

『分世』とは後の時代の者がつけたのだ。

大陸が分かれたから『分世』とつけたのだろう、わかりやすい。


ということは現世はアーデウスの時より一四九〇年前! イデウスの頃より二一八七年も前!

転生ってさかのぼることもあるんだ?


現世は大陸が二つに割れてまだそんなに経たない時代で世の中が混沌としている。


まあそれが起こってから二七年しか経ってないんだもんな。


あちらこちらで戦や略奪が多発していた。


獣人と人間も対立していて争いが多かった。

人間の方が形勢は不利だった。


獣人の多いミシュ大陸だからそうなのかな。

それともこれがきっかけで獣人が増え人間の数が少なくなったのか。



特に勢力のある宗教はないらしい。

マニナ教についても一応尋ねてみたがそんなのは聞いたことがないらしい。


そりゃそうか、イデウスの頃より二〇〇〇年も前だしな。



この時代は魔法が盛んだった。

魔力を持つ者が多くて、それが当然だと思われていた。

イデウスの時代とは大違いだ。



結局夕飯を挟んで寝る時間までリゼの講義は続いた。


「オレもリゼも今日の予定をキャンセルして付き合ってやったんだから明日と明後日はオメエの相手は出来ない。飯だけは用意してやるけどな」


「じゃ今度ゆっくり話が出来るのはいつ?」


「次の次の次の日だ。三回目の夜が明けた日だ。それまでゆっくり体を休めておけ。なんせ勢いよく馬から落ちたんだから」


「君も考えを整理しなきゃならなかったりするでしょう。ちょうどよかったじゃない」


「うん、そうだね」


「ねえねえ今度話す時は君のことを色々と教えてもらうわ」


「それはもう、こっちから相談したいぐらいだから願ったり叶ったりだよ」


神様と今度偉い神様になろうってお方に相談できるなんて。

本当なら相談料としてかなり支払わなければならないところだ。


「そうそう、誰が訪ねてきても居留守を使った方がいいかも。じゃないと色々面倒でしょう。特にバモンが見舞いに来ても絶対ドアを開けちゃ駄目」


「バモン? 男、女、どっち?」


「男の子よ。怪我してまだ動けないってことにしとくから。外に出るのも禁止ね」


「うん、了解」


「じゃあ部屋に戻って寝るわ」


「オレも明日から忙しいからもう寝ちまおう」


「色々知ることが出来てよかった。でも原因がわかってホッとしたよ」


「何が?」


「えっ…… ちょっと恥ずかしいけど言っちゃうね。マリアもリゼもすっごく綺麗なのにときめかない自分が心配だったんだ。ショックなことが続いて精神的なダメージを受けたからだと勝手に思い込んでいた」


マリアとリゼは意味ありげに顔を見合わせた。

そして二人ともこっちを向いて俺の話の続きを催促した。


「でも理由がわかった。二人とも人間で例えると俺にとっては家族みたいなものだろ。だから異性の対象にならなかったんだ」


話を聞いた二人はなぜか笑いをこらえるふうにみえたがマリアが我慢出来なくなったのかガハハッと豪快に笑いだした。

それに釣られてリゼまでフフフッと声をあげた。


「何かおかしいこと言ったっけ」


リゼが応えた。

「君の分析は合ってるかもしれない。でも君がウーの影響を受けている可能性もあるんだよね。もしそうだとすると君が出した答えは残念ながら間違いよ」


「よくわからない。教えてください」


「眠れなくなっちゃうかもよ。それでもいいの?」


「このままだと気になって眠れないよ」


「わかった。お姉さんがお・し・え・て・あ・げ・る」


なんのプレイだぁ?と思ったが続きを聞き驚愕した。



「君は同性愛者なの。普通じゃないの。男が好きなの。女じゃ駄目なの。男しか駄目なの。あたしからみたら変態なの」


もういいわかったから!!!


「可愛い彼氏もちゃんといるんだから」


リアルな感じがして俺はサッと血の気が引いた。


「だ・か・ら、バモンが訪ねてきても絶対開けちゃ駄目って言ったでしょ。今の彼氏はバモンだから。君はバモンが大好きだから。バモンに惚れてるから。君はバモンと一晩中寝ないで」


「うわああああああ、やめてくれ!!!! 俺はバモンなんて知らねえし、バモンを好きなのは俺じゃなくてウーデルスだろ」


俺はこの現世から早く次に転生したくなった。







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