第159話 本編Ⅰ-48
先週金曜から体調を崩し風邪かと思っていたのですが、症状がひどく病院に行きインフルエンザと判明しました。
今日あたりからだいぶ体調もよくなり、ベッドにPCを持ち込み書いてます。
ただベッドの中では効率が悪く起き上がって仕事部屋で書こうか迷っています。
日曜まで休みを取りましたから、その間に書き溜めておかなきゃと思い。
なぜなら今週休んだ分来週は仕事を詰め込み、更新が大変そうなので。
毎日のように読んでくださってる方永く空けてすみませんでした。
五日過ぎ俺はようやく彼らの居場所を掴んだ。
ミワキゲ先生はお伴を連れこの町一番の高級宿を借り切って連泊していた。
だから目撃情報もなかったのだ。
しかしミワキゲが日が暮れると街中へ繰り出しては美しい女性をお持ち帰りすることで噂が広まったのだった。
俺は高級宿に押しかけたが、ミワキゲ本人に会う前に追い返された。
もっともミワキゲらしき人物が窓からこちらを伺っているのが見えたが。
そこでそのおぼろげな姿をイメージしながら『指向性のマイク耳』の術を発動した。
笑い声が聞こえてきた。
「見たかい今の子を」
「ええ、先生の書かれたことを忠実に守ってますよ。偉いですねえ」
尋ねられた方も笑いながら答えた。
そして続けた。
「しかし、あんなになるまで太るなんてかなりの努力をしたということでしょうね」
「私に会おうとした者であんなに太った奴は初めて見たぞ」
今喋ってるのがミワキゲだろう。
「見た感じまだ少年でしょうか。ああなってもまだわからないんでしょうね。ブクブク太ることに意味がないことが」
俺のことだ。
意味がないとはどういうことだ。
「意味がないどころか百害あって一利なしだよ」
「あまり貶しては可哀そうですよ。それだけ信じているってのは先生の文章が素晴らしいということでしょう」
もしかして俺のバイブルである魔法書『比較的簡単に誰にでも魔法が身につく』の内容は嘘っぱちってことか!
怒りで体が震え出した。
「そうだな。この計画にまんまと乗っかってくれているのだから。ああいう者は大切にせねばならんな」
「ええ、この調子でミシュ大陸とサンテ大陸中に浸透させましょう。そうすればご指示どおりになります。あのお方もお喜びになられるでしょう」
「そうだな。あのお方のお役に立てれば何よりだ。おまけに万事うまくいった暁には一つ国をもらえることになっておるし」
今までの努力はすべて無駄だったってことか。
死ね死ね。地獄に堕ちろ。
いや、殺す殺す。
俺は先ほどよりは冷静になった。
多分相手は二人だ。
別に正々堂々と行く必要はない。
八つ裂きにしてやりたいぐらいの相手だ。
だが敵がどのくらいの強さかわからない。
ミワキゲは魔法使いの可能性もある。
もう一人は出版社の者っぽい感じはしたが、油断はできない。
一度姿を見られているからファンを装って近づいても警戒される可能性もある。
しかも日が落ちてからだと尚更だ。
これはもう不意打ちで突撃するしかあるまい。
『勇気の魔法』を作動させても今のこの体ではあまり長時間は無理だ。
作戦を立て、俺はその為に必要なものを街中で揃え、襲撃ポイントで待ち構えた。
馬車が来た。
暗くてわかりにくかったが、『指向性のマイク耳』を使い、ミワキゲともう一人の者の声を確認した。
しかも音から判断して乗っているのは二人だけのようだ。
ミワキゲでない方が馬を御している。
ただ、近くに何者か他にいるような気配を感じたが俺は馬車に集中した。
そして車輪に棒を投げ込み、強引に止めた。
馬は倒れ、馬車も横になりかかっていた。
慌てて男が二人出てきた。
俺は先に出た者へ含んでいた二十本近い針を飛ばした。
うまいこといき、ほとんどが相手の顔に命中したようで『ギャッ』と言う声と共にドサリと音がし、一人が倒れた。
後からの者には手に持っていた針を投げた。
しかし風が起こり邪魔された。
俺はすかさず火を投げつけた。
またも風が舞い、火は四方へ散ったが火が照らしてくれたおかげではっきり姿が見えた。
その男は意地悪そうな人相の魔人種だった。
魔人にしては痩せた背の低い男だ。
風系魔法の遣い手か。
「お前がミワキゲか。よくもあんな出鱈目な本出しやがって」
「騙される方が悪いんだよ。しかしコロコロというかブクブクというかよくもまあそんだけ太ったな」
「おおお前のせいだ」
「普通そうなる前に気づくだろ」
俺は会話をしながら作戦を練っていた。
スピードでは敵わないから一撃で仕留めなければ。
剣を投げても風で邪魔されるから駄目だろう。
やはり刺すしかあるまい。
俺はアーデウスの火系とケイティの風系を合わせて投げつけた。
ミワキゲは風を起こしたが、それでも彼の衣服に火が広がった。
慌ててミワキゲは水を出現させ火を消した。
そのタイミングで俺は突っ込んだが彼は突風を起こし、ノロノロとしか進めない。
「はははっ初めてだ。俺の全開にした風圧でも飛ばないとは。デブにも利点はあるんだな」
ミワキゲはそう言うとモゴモゴと何か唱えた。
すると俺の足が動かなくなった。
下半身に泥が絡みつく。
あともう一歩だというのに。
ミワキゲは剣を抜いて俺の手前に立っていた。
「今のは土系の技だ。いい手本になったか。おっと今から死ぬ者には手本など必要ないな。ギャーッ」
不意に後ろから刺され背中に傷を負ったミワキゲは悲鳴とともに後ろを振り向いた。
ミワキゲの向こうには誰かいた。
?ヒアルじゃないか?
ミワキゲはヒアルをその剣で貫いた。
女性の悲鳴だ。
この声はヒアルだ。
その隙に渾身の力で俺は泥から抜け出た。
そして剣でミワキゲを袈裟斬りにした。
ヒアルに近づき治癒術を試みたが手遅れだった。
少なくとも今の俺の腕前では不可能だ。
「ヒアルどうして!」
「坊ちゃま、私は坊ちゃまを追いかけたのですが間に合わず」
苦しそうだ。
「もういいから喋らないで」
ヒアルは首を横に振り話を続けた。
「ミワキゲがミシュ大陸に来ると聞き、きっと坊ちゃまも行くに違いないと」
「うんうんもうわかったから」
俺はボロボロ涙を流していた。
「お役に立ててよかっ……」
そこでヒアルは息絶えた。
俺は号泣した。
いろんな想いが込み上げてきた。
俺の軽はずみな行動のせいでヒアルは命を落としたのだ。
ブツブツと声が聞こえる。
か細い声でミワキゲが何か唱えている。
自分自身に治癒術を使っているのか。
いや、それも違うようだ。
『指向性のマイク耳』をミワキゲの口元に合わせた。
「魔ノ神様お助けを。この声をお聞き届けください。私は作戦実行中の身です。まだ死ぬわけには参りません。どうか魔ノ神様」
気にしていなかったがミワキゲはそういえば『あのお方』とか言ってたが、こいつの後ろにいたのは魔ノ神だったのか。
「おいミワキゲ出鱈目な内容の魔法の本を書くことがどんな作戦だったんだ」
「ミシュ大陸とサンテ大陸を骨抜きにするのだ」
そう呟くとミワキゲは動かなくなった。
俺はヒアルの遺体をベントール家に持ち帰った。