第153話 本編Ⅰ-42 また助けられた
目を瞑ったが、獣ノ神は「ガオーッ」と吠えただけのようだった。
体に痛みがないのでそっと目を開けるとそこには銀色に輝く『帝神』がいた。
そして獣ノ神の両手の自由を奪っていた。
獣ノ神はもう一度吠えて威嚇した。
しかし効き目がないとわかり怒鳴った。
「おい、どこの誰かは知らんが、俺は恐れ多くも『神様』であるぞ」
「私も『神』なんですよ。この人を今殺される訳にはいきませんので」
「お前の事情など知ったことじゃない。まずその手をどけろ」
「私が手を放し、あなたが自由になると彼を攻撃するでしょう。それはまずいんです」
「どうまずいんだ」
と言いながら獣ノ神は必死にあがいていた。
『私に命令された『星神様』の期待に背くことになります」
「『星神』聞いたこともないなあ。どこの馬の骨なんだその神は」
帝神がブルブル震えだした。
「なんだ俺を相手にして急に寒気がしてきたか」
「物を知らないあなたのような雑魚など簡単に捻り潰せるのですが」
帝神は穏やかな口調ではあったがそこには凄みが出ていた。
獣ノ神も底知れぬ怖さを感じ取ったのか毛が逆立っていた。
「俺は王神様系の神以外はあまり詳しくないのだが…… あんた名前はなんて言うんだ」
「私は帝神です。よくも我々を創造された星神様のことを馬の骨などと」
「……」
臭い。
獣ノ神が漏らしていた。
神でも排泄行為はあるのか。
初めて知った。
「知らぬこととはいえ、ご勘弁を」
「わかりました、許しましょう。この人には危害を加えないで頂きますか」
「はい、もう絶対」
そう言って慌てて獣ノ神は走り去った。
「あいつを野放しにしておいていいのですか。これからも悪事を働くと思いますよ」
「本来なら私は直接関与しないのです。これは…王神の管轄かな」
「でも……」
俺は食い下がった。
「仕方ないのです。世の中いい存在ばかりではないのですよ。私の立場でいちいち取り締まる訳にもいきませんからねえ。
混沌として不条理なのがこの世界です」
「しかし俺は今までにも獣ノ神に煮え湯を飲まされてきたんです」
「場合によってはその時は助けますよ」
「えっ危なくなったら毎回助けてくれるんじゃないんですか」
「いえ時と場合によるみたいで、早すぎる死や無駄死に、想定外の死などは回避させてもらいます」
ちょっとがっかりした。
帝神が俺の眷属みたいになれば最強だったのに。
帝神が続けた。
「獣ノ神はあなたのこれからに大きく関わるようなので今回は丁寧に扱わなければならなかったのです。
そうでなければ星神様のことをあんな風に言われた私が大人しくしているはずがないではありませんか」
帝神は去っていった。
一度は死を覚悟した俺は疲れ果てて呆然としていた。
「ううっ」
どうやらイメルサが目を覚ましたようだ。
俺をとろんとした目で見ている。
一難去ってまた一難か。
もう俺にはそんな元気は残ってないぞ。