第150話 本編Ⅰ-39 母ベッキーとの会話
この近辺で暴れまわっているのは鬼族の住むラオ大陸からはるばるこの地にやってきて暮らし始めた鬼人らしかった。
鬼人は元々希少種でラオ大陸にしかいないのだ。
そして他の人種と比べなかなか繁殖しないのでこの世界全体からみると極端に少ない種族だ。
ラオ大陸の南東部に国を作っていて、その地域でしかあまり見られない。
その地域以外に純粋な鬼人がいる場合はなんらかの事情があるということになる。
仕事か、もしくは鬼人以外の国に憧れたか、犯罪などの理由で追放されたとか。
討伐は希望すれば誰でも受かる訳ではなかった。
どんどん審査基準が厳しくなり、最近では百組に一組ぐらいしか受からないという話だ。
一次審査は書類審査だったがすんなり通過した。
サイルを退治したことを書いたのがいいアピールになったのかもしれない。
だが一次審査までは大半の者が通るらしい。
噂では二次審査の面接で皆不合格になると聞いていた。
面接で俺とウエンディの姿を見て試験官たちがヒソヒソと話をした。
そして合格になったのだ。
そう、俺とウエンディはコンビとして討伐したいと申請を受理された。
俺とウエンディが鬼人を退治する許可が下りたと知り、母ベッキーが俺が一人でいるところを見計らって話しかけてきた。
ベッキーは俺が王神に無礼を働いた件以来余所余所しかったので、久しぶりの二人きりでの会話となる。
「ラデウス、あなたが引き起こしたことのせいで家族皆が災難だったのよ」
時間が経った今更になって責められるとは思ってもみなかったが俺は素直に謝った。
「ごめんなさい。こんなことになるなら慎重に行動するべきでした」
「ううん、もうそのことはいいのよ。こう言えばあなたが打ち明けてくれると思ったんだけど。駄目ね。家族なのに。信用されてないのね」
どうすればいいんだ。
でも正直に話す訳にはいかない。
ショックを受けるだろうし、そもそも信じてくれまい。
そして家族を危険に巻き込むことになりかねない。
「えっ意味わかんないなあ。王神様が俺を見て大笑いしたからついカッとなっちゃって」
「もういいわ」
ベッキーは遮るようにそう言った。
そして続けた。
「嘘つくならもっと上手な嘘をついてね」
どんよりとした空気が俺と母親の間に漂った。
俺は何を言っても言い訳になると思い、黙っていた。
すると彼女が続けた。
「あなたが何をしようが勝手よ。でもウエンディを巻き込むのはやめて。あの子には普通に幸せになってほしいの」
するとそこへウエンディが飛び込んできた。
「何勝手なこと言ってるの。それじゃ私はまるでラデウスの役にたってなくて、いてもいなくても一緒みたいじゃないの」
女同士の口論が始まった。
俺はそっとその場を離れた。
次の日こっそり独りで下調べをしようとするとウエンディが庭で待っていた。
「まさか昨日のことがあって、私を除け者にしようってんじゃないでしょうね」
単独行動をするのはあきらめた。
危険な目に遭わなければいいのだ。
その為の下準備。
まずは相手をよく知ることが大切だ。
退治しようとしている鬼人は女で名前もちゃんとありイメルサといった。
イメルサに挑戦した者は今までに大勢いたが皆おかしくなったという話だ。
それで国家の立場で討伐を命じたのだ。
だが未だに成功していない。
イメルサはどのような悪事を働いているのだろうか。
彼女にひどい仕打ちを受けたという被害届けは数多く出ていたが、今まで死んだ者は一人もいなかった。
不幸中の幸いだ。
主に女性からの被害届けが多かった。
それも夫や恋人が暴行されたというものがほとんどだった。
イメルサがいる森は『恵みの森』というのが正式名称だったが『地獄の森』とも『天国の森』とも呼ばれていた。
その森は狩りに最適で、また木の実や山菜なども豊富だったので入る者が後を絶たなかった。
ほとんどの者は反応のない廃人同様になって戻ってきた。
が、たまに正常に近いまま戻ってくる者もいたが、深夜になると夢遊病者のように徘徊する者が多かった。
その場合は決まって『恵みの森』に向かう者ばかりだった。
また女を避け、触られただけで失神したり高熱になる者もいた。
ごく稀に女を見ると見境なく襲おうとする、精神に異常をきたした者もいた。
イメルサ退治に向かった男がすべて使い物にならなくなるので女だけで討伐隊を組んだことも何回かあった。
しかし戻ってきた女たちは一人の例外もなく全員下を向き、青白い顔をしてブツブツ唱えていた。
そしてほとんどの者が部屋に引き籠り、他人、特に男性との接触を避けるようになった。
精神操作のような魔術を使うのだろうか。
俺とウエンディは討伐に失敗した被害者からの聞き取りを開始した。
もう少し話を進めたかったんですが、ここまでです。
明日は更新できない可能性が大です。
これから色々なことが起こるので書く側としても楽しくなってきました。