第148話 本編Ⅰ-37 国境にて
ベントール家は全員でサンサーバ国へ避難することにした。
いい評判は聞かないが、万が一ブルック国王が我々の追討を命じた場合、サンサーバだと手出しできないだろう。
都ミュラーを抜け出したところで事件の噂を聞いた。
サンサーバ国からの使者であるアンサバが暗殺されたという。
このままサンサーバに向かっても歓迎されないのではなかろうか。
いやブルック国の民だから捕まる可能性もある。
しかしブルック国から逃げてきたといえば、却って手を差し伸べてくれるのではないか。
馬車に揺られながら家族で侃々諤々議論した。
今から後戻りするのも難しいからこのままサンサーバに向かうという結論になった。
追っ手は来なかったが我々は用心し続けた。
やがてウエンディが何かを感知したようだった。
彼女の能力は日に日に精度を増してきていた。
今ではちょっとした魔法並みの感知力だった。
そのウエンディが前方に一個中隊ぐらいの規模の人がいると感じたのだ。
俺は気配を消す術を使い、偵察に向かった。
どうやら軍事演習をしているらしい。
こんなところに軍隊がいたか。
もう少し近づいてみると彼らは着用しているのはブルック国正規軍の制服ではなく私服だった。
ただ何かしら違和感があった。
もしかしたら危険分子か。
テロリスト的な集団かもしれない。
まずいどうしよう。
どうやら決起集会を開いているようだ。
それが終わると間違いなくこちらへ向かうはずだ。
急いで家族のもとへ戻るとなんとか隠れる場所を見つけ奴らを無事やり過ごした。
そして安全を確認してサンサーバ国の国境まで来た。
「お前たち、どこから来た?」
国境に詰めている兵士の知らせでここまで来たのだろう、不機嫌そうなお偉いさんが横柄な態度で聞いてきた。
「恥ずかしい話ですがブルック国から追われてきました」
父ガウディが答えた。
「ほう、何をやったのだ」
ここは返答次第では入国できないかもしれない。
父ガウディではクリアできないかも。
俺は嗚咽する演技をした。
「私が悪いんです。偉い神様とは知らずに無礼を働いて」
そう言うとウワァーと泣き出した。
お偉いさんは初めて興味を示した。
「本当に偉い神様なら子供を辛い目に遭わせたりはしないはずだよ。ちなみになんて名前の神様だったのかい?」
「確か王神様と」
「王神だと。そいつは悪い神だ。ああ酷い目に遭ったんだね。可哀そうに。サンサーバ神国はあなたたちを歓迎しますよ」
えっすんなりうまくいったけど、この国は神人が治めている?それとも祭られているのか。
それとも他に崇められている神がいるのか。
そこへ伝令が後ろから駆けつけた。
後ろから来たということはブルック国からということだ。
俺は追っ手か?と身構え家族みんなに目配せした。
「潜入していた者たちによる蜂起の煽動は成功しました。それをきっかけに今あちこちで暴動が起きてます」
「しっ声がでかいぞ。報告は内密にしろとは教わらなかったのか」
お偉いさんは伝令を叱責した。
そしてこちらを向いた。
「国を捨てて今からサンサーバの民になろうという者には関係ない話だがブルック国は混乱しているようだ。
隣国である我が国も黙って見ている訳にはいかんだろうな」
俺は気づいた。
サンサーバはこれが狙いだったのだと。
もしかしたら一個中隊ぐらいの規模のテロリストもサンサーバが用意したことなのかも。