第146話 本編Ⅰ-35 地震がもたらしたもの
その揺れは大変激しかった。
立っていられないほどで俺は思わずしゃがみこんでしまった。
しかし大変なのはそれからだった。
確かに地震は大きかったがそれ以上に建物の倒壊などの被害が大きかった。
つまり建築時に地震などを想定していなかったということだ。
それも仕方がないことなのだが。
ブルック国には地震など滅多にない。
多分地震が発生したのも、
大陸が割れた分世の時以来だと思う。
だがうかつだった。
俺はこの地震のことを知っていたのだ。
社会科の教師カデウスに転生した時の知識が脳にはあった。
だのにそれを忘れていた。
多くの死傷者が出た。
俺が細かく指図して作らせたベントール家の建物にはあまり損傷はなかったが、古くて由緒ある建物ほど傷んでいた。
今回は都ミュラーを中心にブルック国の約三割が被災した。
地震という突然の出来事で今までわからなかったこともかなり露呈した。
贋金づくりの拠点がわかった。
なんと現国王の叔父であるハノン殿下の別荘を拠点にしていた。
その別荘が崩落し、その中から贋金づくりの設備と、瓦礫に埋もれ死体となった犯行グループ一味が発見された。
しかしすぐに名前が判明した者は一人もいなかった。
多分恐らくは正体がバレないように整形したり身分を変え偽名を使っていたのだろう。
現場に立ち会った俺は、ヒッチコの娘が殺された時使う暇がなかったネームの術を用いてみた。
ネームの術は死んだ者の名前までわかるようだ。
ヘンデロ、バッハン、ヒドノ、ツァルトル、トーベ、ユーベルといった具合に次々に名前がわかった。
全員の名前を伝えたら他の捜査員に不思議がられるので一人だけ教えておいた。
たまたま目星をつけていた男と合致したと言って。
その他色々な未解決事件も解明され、事件化されてなかった犯罪も白日の下に晒された。
同じミシュ大陸内にあるトスリヤ国のショパニャ王女が誘拐されていたのが発見された。
残念なことに遺体となってだが。
その周りには数人の男の遺体があった。
これは後になって全員隣国サンサーバの者だとわかった。
『幻団』は壊滅した。
都ミュラーから少し離れたところにあった隠れ家はボロボロに壊れていた。
妙だったのはミュラーほどは揺れてないはずなのに、幻団の隠れ家だけが異様な壊れ方をしていた。
中にいた者全員が遺体となっていた。
しかし遺体やその位置からも、逃げ惑っていて撲殺されたような感じに受け取れた。
壁に叩き付けられたような遺体もあった。
震災で王都ミュラー全体がどんよりとしていた。
俺は無料で診療所を開き、治癒術を使い朝から晩まで治療に明け暮れた。
しかし自分の力に限界を感じた。
せめてイデウス並みの治癒力があれば。
こんな悲惨な状況の中でたいしたことも出来ないような俺が、この異世界を救うことなんかできるはずがない。
しかし俺にとっての本当の試練はこれからだったのだ。
『しかし俺にとっての本当の試練はこれからだったのだ』という最後の行は本当はおかしいですよね。
これだと回顧しているみたいだから。
普段一人称の進行形でなるべく書いているんですが。
でもいつもこんな風に思わせぶりな書き方したいと思っていたので、細かいことは置いといて表現しました。
だって既に沢山おかしな点があるから気にしてもしょうがないなと。
例えば『ネームの術』も最初は『ネーム術』だったし。
2歩進んで1歩下がる感じで少しずつポイントも増えて嬉しいです。