第143話 本編Ⅰ-32 思わぬ展開
今から出勤ですのでもう少し書きたかったけどここまででUPしておきます。
ヒッチコに何かある前に零コンマ二秒ほど事前に察知できる技で俺は防げる。
万が一の時も治癒術で治せばいい。
相手の目的が単なるお金目当てには思えなかった。
奴らの狙いを知ってからでも遅くない。
片方がヒッチコを脅した。
「十万ルド金貨の原版があるだろう。それを渡せ」
「お前たち贋金づくりの一味か。今大量に国内に出回っている贋金はお前たちの仕業だな」
「ちょっと違うな。俺たちは贋金づくりの組織に雇われたのさ。十万ルド金貨は原版に魔法を込めていて、贋金を作ってもすぐ露見してしまうらしいじゃないか。だから本物を作るしかない。それで原版を頂こうって訳さ」
ヒッチコは慌てた物言いをした。
「ちょっと待ってくれ。お前たちに渡したらもう十万ルド金貨は作れなくなってしまう。そうなると困るし、いずれ新しく流通したものは無効と見なし使えなくなるぞ」
「演技しても無駄だぞ。雇い主が言うには原版は四つあるから一つなくても支障はないそうじゃないか」
「どうしてその事を知っているのだ。わかった、原版を渡そう」
このタイミングだと思った。
俺を後ろから羽交い絞めにしていた男に対し、後頭部を使い頭突きを食らわせた。
男はあっけなく崩れ落ちた。
気絶したようだ。
一丁上がり。
もう一人の悪党は幸いにも戸惑っているようで、動いていなかった。
首に手刀を叩き込み倒した。
すると脇腹に痛みが。
振り返るとヒッチコが持った短剣が俺の脇腹を浅く傷つけていた。
なぜヒッチコが。
俺はパニックになりかけたが、ヒッチコも驚いていた。
全身が銀色に輝く男が突然出現しヒッチコの手を押さえていたのだ。
ヒッチコはぶるぶる震えだした。
「ラデウス、お前は一体何者なのだ。そしてこの銀の男は誰なんだ」
「ヒッチコさん、私も知らないのですが」
銀色の男がホッとしたように言った。
「やあ間に合ってよかったよ」
うん?どこかで聞いたことある声だな。
素敵な低い声だ。
少なくとも普通の人種ではないな。
「あなた様とはどこかでお会いしましたか?」
「いいや会うのは初めてですよ。私は帝神といいます。以前夢の中で話をしたでしょう」
「ああああ」
俺は思わず声を上げてしまった。
ヒッチコは訳が分からず、ただなんとなく銀色の男がとてつもなく偉い存在だとわかったのか、地に頭を擦り付けていた。
俺は恐る恐る尋ねた。
「あなた様のような偉い神様がなんで私を助けてくださったんですか」
「ええ、星神様に直々に命じられたのですよ。
『他の星から来た者は予定外の行動をする。もし危険が近づいたら取り除いてあげてください』
と私に仰せになったのです」
「すみません面倒なことを」
「いやいや星神様に指示されたのは初めてです。こんなに嬉しいことはありません。でも星神様でもあなたの行動は予測できないことが多々あるようですね。
今回は危なく死ぬところでしたよ。死んでしまっては厄介ですからね」
目の前の神は天神のお父さんなんだよな。そして神々の中でも最高位にあるんじゃないんだっけ。
「やはり帝神様でも一旦死んだ者を蘇らせるのは無理なんですか」
「それはこの星の者なら容易い御用なんですが。でもあなたは特殊な存在なのでオールマイティな私には無理です。
生死を司ることが専門の者でもできるかどうか」
さっきから額を床につけて黙って話を聞いていたヒッチコが顔を上げた。
「あのう、土地ノ神様とどちらが偉いんですか」
帝神はキョトンとした。
「ここの土地ノ神って誰でしたっけ」
「いやいや、そんなどうでもいいです。ヒッチコさんこちらの神々しいお方は王神よりもずっと偉い神様なんですよ」
ヒッチコはそれを聞き再び床に頭をつけた。
「お願いです。私の娘を助けてください」
どういうことだ。
ヒッチコの子供は無事なはずだ。
そして子供は男の子だろ。
娘なんかいないのに何を言ってるんだ。